健康だと思っていたのに、深刻な疾患が見つかった──。それは降って湧いた災難ではなく、長年の生活習慣がもたらした「必然の結果」の可能性がある。深く関わっているとされるのが、加齢、肥満、不規則な生活などによる免疫システムの低下を要因とする「慢性炎症」だ。虎ノ門中村クリニックの中村康宏院長は「拡大を食い止めるには日々のリセットに努めることが重要」と説く。そのカギとなるのは何か。

同世代との「若々しさの差」は慢性炎症の蓄積が一因

中高年のおよそ3人に1人が、メタボリックシンドロームが強く疑われる者、あるいはメタボ予備軍といわれる(40歳~74歳、厚生労働省「国民健康・栄養調査報告」令和元年)。放っておくと、がん、心疾患、脳卒中といった重篤な生活習慣病のリスクが高まるとされる。とはいえ目立った不調もないため「まだまだ猶予がある」と捉えている人は多いのではないか。だが、そこに至るまでの体の変化を知れば、考えを改めざるを得ないはずだ。

「負の連鎖はメタボと診断されるずっと以前から続いているのです。要因として、生活習慣と密接に関係している慢性炎症の進行があると考えられています」と言うのは、虎ノ門中村クリニックの中村康宏院長だ。

虎ノ門中村クリニック
中村康宏院長

「人間の体は本来、異変を知らせるために炎症を生じさせたり、ウイルスなどの異物を排除したりする免疫システムのバランスを保つことで守られています。加齢に伴う衰えに加えて、喫煙や過度な飲酒による酸化ストレスにさらされ続けることで、バランスが崩れるスピードは早まります。すると免疫反応が暴走して正常な組織を攻撃するなど、体を修復するどころか、あちこちに炎症のダメージを広げてしまう。これが慢性炎症の状態です」

やっかいなのは少しずつ、ひっそりと進行していく点だ。

「実は成長ホルモンが減少に転じる思春期のころから、慢性炎症の影響を受け始めると見られています。一つ一つの影響は軽微ですから、すぐに体調に変化が現れるわけではありません。気づかないうちに10年分、20年分と炎症の刺激が積み重なり、体型や肌の状態、臓器の機能、DNAが傷つく度合いなどに大きな個人差が生じます。30代を迎えたあたりから若々しさの違いが際立ってくるのは、慢性炎症の蓄積量が関係していると考えていいでしょう。そもそもメタボも、慢性炎症が進んで脂肪細胞の内分泌機能がむしばまれることが一因だといわれています。太りやすく内蔵脂肪を溜めやすい体になり、動脈硬化や高血圧につながるTNF-αなどのサイトカインを多く分泌する。そんな負の連鎖を起こす慢性炎症は、まさに万病のもとなのです」

慢性炎症の影響は「つらい朝」「抜けないだるさ」にも現れる

中村院長はさらなる影響について言及する。

「慢性炎症が進むと自律神経のバランスにも影響し、うつ、寝つきが悪い、起きるのがつらいといった睡眠リズムの乱れ、だるさが抜けないなどの変調をきたすことがあります。自律神経のバランスが乱れると、免疫システムも乱れることが少なくありません。疲れた時にヘルペスが発症するのもその一例ですし、頭痛、肩こり、お腹の調子が悪くなることなども慢性炎症の症状に含まれます」

ジリジリとくすぶり続け、さまざまな場所に飛び火して全身をむしばむ慢性炎症。気づかない間に進行し、重大な疾患となって急激に表面化する。

「なんとなく調子が良くない」としか捉えられていなかった裏側には、慢性炎症という明確なメカニズムが存在する。それを理解しておくことが改善への第一歩だ。中村院長は「自分の中で慢性炎症を起こしている原因はどこにあるのか、見極めることが大切です」と強調する。生活を冷静に振り返ってみれば、喫煙か、飲酒か、ストレスか、それとも体内時計のリズムにそぐわない暮らしか、何かしら思い当たるものがあるだろう。そして、例えば朝スッキリと目覚め、仕事で十分なパフォーマンスを発揮できているかどうか。そんな「健康感」も、慢性炎症を意識するためには大事な要素だという。

「刺激の原因を知り、体を守るために足りないものがあれば補うなど、いかに免疫システムのズレを少なくできるか。それが日々のパフォーマンスや生活の質、さらには長期的な健康を左右すると言っていいでしょう。もちろん加齢による機能低下は避けられず、かなり進行してしまった慢性炎症をゼロにすることも現実的ではありません。ただ、これ以上溜め込まないように日々リセットする、進行のスピードをゆるやかにすることは可能です。そのためにできることは決して多くはなく、やはり生活習慣の改善しかありません。限られた選択肢の一つが、食による慢性炎症へのアプローチです」

日々の食事をどう変えればいいのか

心がけるべきは「いつ食べるか」「何を食べるか」だと中村院長はアドバイスする。

「お腹の動きは、朝はゆったり、昼は活発、夜はゆったり、の放物線を描きます。たくさんの量を食べるならランチ、朝と夜はほどほどにしておくのが、体内時計のリズムに適しています。体への負担が軽減され、慢性炎症の抑制につながると考えられます」

そして「食べるもの」については、体がさびつく「酸化」や、体が焦げつく「糖化」にも配慮した内容を中心に組み立てていくといいようだ。

「特に焦げたもの、傷んだものなど、体に直接的な刺激を与える食事は避けましょう。もともと、呼吸で酸素を体内に取り込むだけでも、活性酸素による酸化ストレスが生まれます。ですから活性酸素を中和するような抗酸化物質を摂ることが大切です。ポリフェノールやオメガ3に代表される不飽和脂肪酸のほか、最近では強い抗酸化作用を持つスパイスであるターメリックへの関心も高まっています。日本ではウコンという名称の方がなじみ深いでしょう。海外においても健康に役立つとして知られ、パウダー状のターメリックを食事に取り入れるのは一般的です。最新の研究結果によると、ターメリックが慢性炎症のマーカーである高感度CRP値を改善する可能性が示唆されました。さらにターメリックに含まれる成分のうち、新たに発見された成分『ターメロノール』の重要な役割も明らかになりつつあります。炎症促進物質のサイトカインの産生などに関与して、炎症を抑制することが確認されたのです」

毎食でなくても、「1日当たり小さじ1/3杯のターメリック」が目安だ。

最新の研究では、慢性炎症のマーカーである「高感度CRP値」がターメリックの摂取によって改善する可能性があることが報告された。

このように、「改善するための具体的なヒント」はすでに示されている。あとは自分の日々の行動に落とし込むだけだ。

「今、患者の意識のステージに応じてスムーズな行動変容を促す行動医学が注目されています。生活習慣の改善において、(1)無関心(2)数カ月以内に行動を変えたい(3)すでに何かを始めた(4)始めたことを維持できている。みなさんは、どれに当てはまるでしょうか。最近太ってきたなといった実感や、ご家族の既往歴なども踏まえて、自分がどの立ち位置なのか考えてみてください。すると慢性炎症の進行対策として何をどう変えていけばいいのか、見えてくるのではないでしょうか」

ターメリックを食生活に取り入れるための工夫

ターメリック入りはんぺんのキムチーズ焼き

●材料(2人分)
(1)キムチ50g(2)プレーンヨーグルト大さじ2(3)ピザ用シュレッドチーズ30g(4)ターメリック小さじ1/2(5)生はんぺん大1枚(110g)(6)青のり適量

●作り方
◎(1)~(4)をボールに加え、すべて混ぜ合わせる。
◎斜めに切ったはんぺんの上にのせる。
◎はんぺんをアルミホイルの上にのせ、オーブントースターでチーズに 焦げ目がつくまで、様子をみながら8分ほど焼く。
◎お皿に盛り、青のりをかける。