FAQの検索ヒット率を“爆上げ”し、問い合わせ件数の大幅な削減に成功しているのが、Notaの「Helpfeel(ヘルプフィール)」だ。すでに多くの企業が導入し、カスタマーサポートの負担軽減を図っている。開発した経緯や機能、導入効果などについて、同社の洛西一周CEOに聞いた。

「意図予測検索」でどんな質問表現にも適切な答えを導く

――米シリコンバレーで創業されていますが、どのような目的があったのでしょうか。

マイクロソフトやグーグルなどの「プラットフォーマーの手法」を学び、グローバル展開できるプラットフォームを開発したいというのが動機でした。2007年に創業後、スクリーンショット共有ツールの「Gyazo(ギャゾー)」と、企画書やマニュアル、アイデアといったあらゆる知識(ナレッジ)をチーム内で簡単に共有できるサービス「Scrapbox(スクラップボックス)」の2つを自社開発し、世界展開しています。

とくにGyazoは、アクティブ月間ユーザー1000万人の80%超が海外で、その内訳は北米が約40%、欧州約40%、日本約15%、その他となっています。これほど世界中で使われている日本発のソフトウェアはおそらく他にはないでしょう。

洛西一周(らくさい・いっしゅう)
Nota株式会社
代表取締役CEO
1982年生まれ。高校時代に知的生産アプリ「紙copi」を開発し、3億円のセールスを記録。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了後、2007年より渡米してNota Inc.を設立、世界向けのアプリやウェブの開発を手がける。米国・欧州市場でのシェア獲得に成功し、現在は、スクリーンショット共有「Gyazo」の月間UUは1,000万を超え、世界トップシェア。2003年度経産省IPA未踏ソフトウェア創造事業天才プログラマー認定。

――FAQシステム「Helpfeel」は1年ほどの間に日本で導入企業が急速に増えています。どのような技術が用いられていますか。

Helpfeelは、簡単にいうと、どんな質問表現からも適切な答えを導くFAQシステムです。質問の予測パターンを従来のFAQシステムの50倍超に拡張し、あいまいな表現やスペルミスなどにも対応することで、検索ヒット率98%を実現しています。

ここに用いている技術が、当社CTOの増井俊之が発明した「意図予測検索」です。増井はスティーブ・ジョブズ本人から直接オファーを受けてAppleに入社し、iPhoneのフリック入力システムを開発したスーパーエンジニアです。

意図予測検索では、入力された単語からユーザーが知りたい答えを予測提示します。Helpfeelでは1文字入れるだけで、候補となるFAQの回答に到達できる質問が一覧表示され、その後も入力中にリアルタイムで候補ページの一覧が更新されていきます。従来のFAQに比べて約1000倍速い、0.001秒で応答します。

「質問に対する回答を探す」のではなく、「検索された単語から質問者の意図に沿った質問を提示する」仕組みのため、既存のFAQを基にシステムを構築できるのも特徴です。

増井と私に共通するのは「ユーザーインターフェース(UI)をよりよくしたい」という探求心と強い思い。私がシリコンバレーで気づいたのも「誰でもシンプルに使えるものがグローバルで成功する鍵」ということでした。

当社では、UIの研究者である増井がプロトタイプを作り、私や開発チームがそれを製品化して事業展開しています。Helpfeelは英語コンテンツの検索にも対応しており、今後グローバル展開していく予定です。

ユーザーが電話をかけるのは、サイト上で問題解決できないから

――Helpfeelを開発した背景には、どのような課題を解決する狙いがあったのでしょうか。

「意図予測検索」のアイデアはあったのですが、なかなか製品化に至りませんでした。開発のきっかけとなったのは、クラウド会計ソフトを提供している企業から聞いた「繁忙期にカスタマーサポートセンターに問い合わせが集中して困っている」という切実な悩みでした。調べてみると、同じような課題を抱える企業が世の中にあふれていました。

なぜ問い合わせが多いかというと、ユーザーがサイト上で問題解決できないからです。一般に企業では、カスタマーサポートセンターの負担を軽減するためにFAQを設けているのですが、その検索ヒット率が低く、なかなか求める答えにたどり着けません。ブランド戦略研究所が実施した調査によると「約75%のユーザーがFAQで問題を解決できなかった」と答えています(※)

※ブランド戦略研究所「サポート調査結果分析2014」

一方、カスタマーサポートセンターでは200~500ページのマニュアルを作成し、それをスタッフが見ながらユーザーの問い合わせに対応しています。そのなかで蓄積されたユーザーからの疑問や回答はFAQにも反映されているはずなのに、利用されていない。これはとてももったいないことです。

しかも、統計で明らかになっていますが、電話をかけてくるユーザーの7割は事前にサイトで調べているのです。そこで当社では、カスタマーサポートセンターの負担を軽減するため、FAQの検索ヒット率を上げてユーザーの自己解決をサポートするHelpfeelを開発したというわけです。

導入後、翌月の問い合わせ件数が64%減った企業も

――現在、どのような企業が導入していますか。

例えば、PayPayフリマやくらしのマーケット、HENNGE、伊予銀行、ソニー損保など業種や業態を問わず、多くの企業に導入いただいています。なかには、導入した翌月の問い合わせ件数が導入前に比べて64%減少した企業も。導入効果としては、業務の効率化や顧客満足度、CX(カスタマーエクスペリエンス)の向上などが期待できます。

検索ヒット率を大きく左右する検索用辞書の作成は、ユーザーが質問や回答をより探しやすいように、当社のテクニカルライターが多様な表現を網羅し登録しています。こうした専門的で煩雑な作業も含め、申し込みから最短1カ月でご利用開始いただけます。

伊予銀行さんの事例を紹介しましょう。ホームページトップ画面の「お困りの場合はこちら」をクリックするとHelpfeelがポップアップします。検索窓に「はんこ」と入れると、「ハンコをなくしたのですが、どこに連絡したらいいですか」「ハンコなどを盗まれた場合の連絡先を知りたい」など「はんこ」に関連する、よくある質問の一覧が表示されます。その中からユーザーが知りたいことをクリックすると、回答が表示されるという仕組みです。

じつは銀行では「はんこ」というワードは使わず、正式には「届出印」といいます。ですから、従来のFAQでは「はんこ」と入れても何もヒットしませんでした。しかし、Helpfeel導入後は「届出印」「印鑑」「ハンコ」「はんこ」など、表記揺れにも対応して質問一覧を表示することができるようになりました。ちなみに、「いんか」と入れるだけでも、そこから予測して「印鑑を紛失したのですが、どこに連絡したらいいですか」といった質問一覧が表示されます。

さらに、「子ども」と入れると、「子どもの教育資金を準備しておきたい」というのが出てきて、これを押すと「教育積立預金『愛情』」のページへ。「孫」「住宅」「車」などでも、同じように関連商品に飛ぶことができます。

Helpfeelは人ごとに微妙に異なってくる曖昧な言葉の表現や、感覚的な言葉の表現、スぺルミスなどにも対応でき、検索ヒット率98%を実現する、革新的なFAQシステム。顧客自身が適正な回答を検索できることで、サービスと顧客との間に強い信頼のループを作り、リード獲得や購入・契約の問い合わせなど、よりポジティブなアクションに働きかけていくことができる。

検索機能を使えば、ユーザーの欲求に応える提案も可能に

――マーケティングツールとしても活用できますね。

はい。メインはカスタマーサポートの領域ですが、ユーザーへの提案機能を強化することも可能です。例えば、くらしのマーケットさんは、家事代行やリフォームなど200を超えるカテゴリの出張・訪問サービスを比較し、オンラインで予約できるサービスを行っていますが、そのカテゴリ一覧ページにHelpfeelの検索機能を導入しています。同ページを訪れた約40%のユーザーがこの検索機能を利用しています。

仮に検索窓(依頼したいこと)に「結婚」と入れると、「出張撮影」のほか、「出張DJ」「出張ダンサー」「結婚式司会」といった項目が表示されます。つまり、結婚に関していろいろなサービスがあることを知ってもらうことができるんですね。

私たちは「欲求検索」と呼んでいますが、ユーザーが欲求を書くとそれに応える企業のソリューションに飛ばすことが可能になります。自分が検索したことに基づいた提案ですから、押しつけ感が少なく、納得しやすいのではないでしょうか。

――Notaは「2021年度グッドデザイン賞」を受賞、「Industry Co-Creation(ICC)サミットKYOTO 2021」のセッション「SaaS RISING STAR CATAPULT 次のユニコーンを探せ!」では優勝しています。それぞれどのような点が高く評価されたのでしょうか。

グッドデザイン賞については、Helpfeelの革新性とユーザビリティを評価していただいたと思っています。一方、SaaSカタパルトでは事業の成長性やテクノロジーなどに関して高い評価をいただきました。

実際、Helpfeelを導入していただいた多くの企業が目覚ましい成果を挙げています。カスタマーサポートに課題を抱えている企業はもちろん、「商品が多くてユーザーが適切な商品を選べていない」「こんなサービスも提供しているけど、あまり知られていない」といったように、ユーザーのニーズと自社のソリューションが結びついていない企業にも大きな導入効果が期待できます。ぜひ、Helpfeelの活用をご検討ください。