段ボール・製紙・包装のリーディングカンパニーであるレンゴーでは、現在、製紙工場のDX化を積極的に推進。生産性と品質の向上、コスト削減、働き方改革の実現を目指している。その手段の一つとして力を発揮しているのが製紙工程において製品への汚れ発生を削減するメンテックの「SmartPapyrus®」(スマートパピルス)だ。導入企業であるレンゴーの柏木英之理事、開発元であるメンテックの関谷宏社長、それぞれに抱えていた課題や導入効果、開発の経緯などを聞いた。

熟練スタッフが持つ技術の継承が急務

レンゴーがDXへの本格的な取り組みを開始したのは2018年。その背景について柏木理事は次のように語る。

柏木英之(かしわぎ・ひでゆき)
レンゴー株式会社
理事 製紙部門生産本部長 兼 生産部長
研究・技術開発部門製紙技術開発本部長

「段ボール原紙などの生産では、機械の運用や保守をはじめ、ベテランの技術に頼る場面が少なくありません。一方で少子化が進み、人材確保に向けた労働環境の改善も欠かせない。高品質、環境負荷対応への要求に応え、付加価値の高い製品を提供し続けるにはテクノロジーを生かして働き方を変え、そのなかで熟練スタッフが持つ技術の継承を進めていくことが急務だと考えていました」

段ボール原紙の主な原料である古紙には、例えばガムテープやラベルなどの不純物が残ってしまう。これが抄紙機(紙をつくる機械)の汚れの原因となり、欠陥品の発生につながることがある。

「抄紙機は全長100mを超え、乾燥工程では内部温度は100℃近くにも及びます。製品への汚れ発生が確認されると、機械を止め、スタッフが原因の特定と対応を行うわけですが、まさにこの作業でベテランの勘や経験が頼りになる。もし思うように迅速な対応ができなければ、それは生産ロスに直結します。そうしたなかで2年前、メンテックさんから提案されたのが『SmartPapyrus®』でした」(柏木理事)

抄紙機の汚れ防止ソリューションで抜群のシェアを誇るメンテック。レンゴーとの付き合いは30年ほどになる。「SmartPapyrus®」は従来のソリューションを大きく進化させたもので、独自開発の耐熱カメラにより抄紙機の汚れをリアルタイムで撮影。洗浄装置と連携して、汚れ防止の薬品を塗布することもできる。

「何より高温の機械内部での作業がなくなったことが大きなメリット」と柏木理事。「“一人前になるまで10年”といわれる紙づくりの現場で、熟練スタッフが持つ不具合の原因を見つけ出す技能を見える化できました。体力や経験を問わずに多くの人が働ける環境づくりが進み、操業の安定化という面でも効果が出てきています」

工場のコントロールセンターでは、モニターを通じて抄紙機の稼働状況をいつでも確認することができる。

当初、一つの工場で導入をしたが、現場の評価が高かったことから、今では四つの直営製紙工場すべてに水平展開を行っている。柏木理事は続ける。

「DXを成功させるには、実際に新たな技術を使う現場と事業戦略を担う経営サイドが足並みをそろえ、その意義や利点を理解することが重要です。そこでレンゴーでは、高い効果が見込まれるところから取り組みを進め、段階的に範囲を広げる方法を取っています」

「SmartPapyrus®」の活用を進めるに当たっては、製紙プロセスやその課題を熟知するメンテックのきめ細かな対応にも助けられたという。

「例えばインターフェースの変更など、すべてを説明しなくても、こちらの要望をくみ取り迅速に応えてくれる。“共に改善していく”という意識の高さをいつも感じています」

単に段ボール製品などを供給するのでなく、あらゆる産業の包装をイノベーションする「ゼネラル・パッケージング・インダストリー」として事業を展開するレンゴー。同社にとってDXは必須のテーマだ。最後に、柏木理事は「今後も、われわれの紙づくりのノウハウに基づく外部の多様な技術を調査し、また導入を推進して、製紙プロセスの最適化を図り、新たな価値を創造していきたい」と締めくくった。

抄紙機の汚れを画像解析で定量化

“地球にやさしい紙作りのコンサルティング・パートナー”を掲げるメンテック。半世紀以上にわたり製紙業界で事業を展開し、特に乾燥工程の防汚対策では、国内の段ボール抄紙機の約99%に同社のDSP技術(※)が導入されている。

関谷 宏(せきや・ひろし)
株式会社メンテック
代表取締役社長

「『薬品』『装置』『コンサルティング』を掛け合わせたソリューションこそが当社の強み」と関谷社長。販売して終わりではなく、その後のメンテナンス、アフターフォローを重視する姿勢こそが顧客からの支持につながっている。「SmartPapyrus®」も、まさに顧客の悩みに真摯に耳を傾けるなかから誕生したものだ。

「欠陥品が生まれる原因のおよそ半分が集中する乾燥工程は防汚対策の要。デジタル技術でこの工程における過酷な作業を自動化し、現場の負担を軽減したいと考えました。汚れの確認や対応はもちろん、装置で使う数十に及ぶ薬品の残量管理なども遠隔操作で行えるようにしています」(関谷社長)

熟練者の作業ノウハウ、さらに勘やコツといった暗黙知までをシステムに取り込んでいく──。そうした理念の下で進められたのが今回の開発だ。

「カメラでの抄紙機の汚れの撮影について、『SmartPapyrus®』では“画像解析による定量化”を行っています。つまり汚れをグラフ化している。なぜなら、画像から汚れの度合いを見極めるとなると、結局そこに経験、技術が必要で、人によって判断が異なる可能性があるからです」

耐熱カメラによって24時間365日、抄紙機を連続監視可能。肉眼では捉えきれない汚れの量の変化も、定量的に把握することが可能だ。

誰もが同じ基準で判断できる状況をつくることで、薬品量の調節なども正確に行えるようになるというわけだ。

メンテックでは現在、「SmartPapyrus®」をさらに進化させるべく、新たな実証試験も進めている。関谷社長は、「今後、ディープラーニングやビッグデータ解析なども活用し、欠陥品発生の予兆解析にも取り組みたい」と抱負を語る。

テクノロジーに任せられることは任せ、人は人にしかできない業務に集中する──。この実現を支えるメンテックの取り組みが製紙業界をどう変革するか、これからが楽しみだ。

※Dryer Section Passivation技術。ドライパートの汚れ防止技術のこと。