脱炭素社会の実現に不可欠な再生可能エネルギー関連の事業を静岡県を拠点に展開しているイクト。発電設備の設計、施工などを手掛けるだけでなく、それを地域活性化や産業振興につなげる取り組みも積極的に推進している。「豊かな社会を追求し、価値を創造し、社員と共に成長する」を経営理念に掲げる同社のこれまでの実績、また今後の戦略について代表を務める平井辰憲氏に聞いた。

ワンストップ体制が強み「特別高圧」にも対応

「国の『2050年カーボンニュートラル宣言』もあり、企業や行政の間では太陽光発電などを脱炭素社会の実現に生かす取り組みが本格化してきました。実際当社にも、昨年来、工場や公共施設における自家消費型の設備の相談が多く寄せられるようになっています」と平井氏は言う。

平井辰憲(ひらい・たつのり)
株式会社イクト
代表取締役

2012年に電気設備工事業として設立したイクトは、その2年後に太陽光発電事業を開始。今後予定されている工事を含めると、これまでに発電設備容量100メガワット超の案件を受注している。発注する側の企業や自治体が何より評価するのが同社の“総合力”だ。

「発電設備の企画から設計、施工、保守管理までをワンストップで提供できる。これが私たちの強みです。必要に応じて土地の調達も行い、社内には行政書士、土地家屋調査士がいるため、法令に基づく申請業務や測量もサポート可能。各専門部署がシステム設計や施工性、メンテナンス性をあらかじめすり合わせるため、質の高い設備を構築することができます」

国の固定価格買取制度が開始して以降、急速に拡大した太陽光発電設備だが、まさにここにきてその“質”が問われ始めている。実は火災事故なども各所で起こっており、開発事業者選びは極めて重要だ。特に自家消費型については、きめ細かな発電シミュレーションや電気設備全般の知見が求められる。そうしたなかで、イクトの一貫体制が高く支持されているのである。

「運用期間が何十年にも及ぶ設備を提供するに当たって、安全・安心の追求、そしてお客様保護の視点は大前提」と平井氏。高度な技術力が必要な「特別高圧」関連の設備も手掛ける同社が果たす役割は、今後ますます大きなものとなるに違いない。

観光や農業との連携など斬新なプランを構想

太陽光発電の分野を中心に多様な顧客ニーズに応えてきたイクトが今後重視していこうと考えているもの。それは、「環境・地域住民と共生する再生可能エネルギー」「産業を創出する再生可能エネルギー」という二つの開発姿勢だという。

「地域の遊休地に大規模な太陽光発電設備ができたとして、地元の人は運営事業者を知らない、近隣に雇用も生まれない。それではいけないと思うのです。これからの再生可能エネルギーは、自然と調和し、地域に受け入れられ、災害時にはレジリエンス強化につながるものであるべきだと考えています」

その観点から同社は、かつて企業の工場があった愛知県内のある公有地の案件で購入企業のアテンドまでを担当。企業と行政をつなぎ、地域活性化の仕組みづくりに貢献した。さらに、その事業の利益を活用し、小学校に蓄電池付き太陽光発電設備の寄贈も行っている(ページ下の囲み参照)。

「再生可能エネルギーの“付加価値”をいかに高めるか──。それが私たちの基本にある考えです。『産業を創出する再生可能エネルギー』という姿勢もそこからきており、現在、自治体や企業に向け、さまざまな提案を行っています」

例えば、研究型のソーラーシェアリング事業はその一つ。農地での太陽光発電には近年国も力を入れているが、効率的に栽培と発電を両立するノウハウはまだ十分に確立されていない。そこでイクトは、各種データの蓄積、分析を目的とした設備を企画している。

また、木質バイオマス発電と観光事業を掛け合わせる斬新なプランも構想中だ。発電の原料となる木質チップを調達する植林地に誘客施設を立地すれば、人を呼び込め、雇用の創出にもつながるというわけである。

「ほかにも、バイオマス発電の熱をこれまで地域になかった果物の栽培に生かしたり、農作物の加工に利用して6次産業化を図ったり。再生可能エネルギーを電力供給の手段で終わらせない方法はたくさんあると思っています」

企業コンセプト「ing」は、identity、nature、globalの頭文字。「企業理念・社員の意識改革」「自然エネルギーと環境保全」「地球規模の考え方と海外展開」を重視する方針を示している。

エネルギー事業の枠を越え社会の変革を後押し

一方でイクトは、自社の技術力を海外で生かす取り組みも進めている。いまだ世界に多く存在する無電化地域において、大規模な送電ネットワークやインフラが必要ない太陽光発電は有効な電力供給の手段だ。そこで同社は協力会社とともに、現地に最適なシステムのリサーチなどを行っている。

「マイクログリッド化によるエネルギーの地産地消はいまや世界的な潮流。太陽光に限らず、経済の発展段階に合わせた再生可能エネルギーのあり方を探っていきたい」と平井氏は語る。

脱炭素社会と経済成長の両立に向け、国内外で多面的な活動を推進する同社は、現在、第二種金融商品取引業としての登録も準備中だ。

「理由は、それによってファンドを組成できるようになるからです。誰もが少額から再エネ開発に投資できる環境をつくれれば、市場はさらに拡大し、一般の人たちに資産運用の場も提供できる。今後はいっそう、新たな経済活動に寄与する仕組みづくりにも関わっていきたいと考えています」

エネルギー事業の枠を越え、独自の発想で社会の変革を後押しするイクト。その取り組みがどんな成果を生み出すのか、これからが楽しみだ。

太陽光発電事業を通じて地域の活性化とBCP対策に貢献

イクトは、もともと企業の工場跡地であった愛知県北設楽郡設楽町の公有地の太陽光発電設備において、企画や設計、施工に加え、購入企業のアテンドも実施。購入企業は、行政と観光協定を締結しており、今後の地域活性化が期待される。また、設備の雑草対策などを地元住民が行うことで、雇用も創出された。

設楽町公有地に建設された太陽光発電設備(発電出力899.14kW)。

さらにイクトは、上記事業の収益の一部を利用して地域の避難所となっている小学校に蓄電池付き自家消費型太陽光を寄贈。日常の電力としての使用はもちろん、災害等による停電時の電力供給もサポート。BCP対策にも貢献している。

非常用電源としても使える設備を設楽町立名倉小学校に設置。