時に社内の利害関係のはざまに立ち、孤独を強いられながらもDXを推進していく──。そんなチェンジリーダーに寄り添い、顧客企業の変革を後押ししているのが日本発のDXカンパニー、Ridgelinez(リッジラインズ)だ。同社の今井俊哉社長に、今の日本企業が抱えている課題や変革を成功させるためのポイント、また独自の支援アプローチなどについて聞いた。

DXにおいて重要なのは「D」よりも「X」

──日本企業におけるDXの現状をどう見ていますか。

【今井】いまや変革の必要性自体はほとんどの企業が理解されています。ただ、社内のケイパビリティやリソースなど現実的な制約に阻まれ、それが思うように進行していない。また、社内では部署ごとに事情があるため、新たな施策を打ち出しても、「総論賛成、各論反対」になりがちです。

こうした状況を打破するには、リーダーがそれぞれの事情を解きほぐしながら、変革の意義を現場に丁寧に伝え、社員の行動を変えていく必要があります。Ridgelinezは、そうしたチェンジリーダーの取り組みをエンド・ツー・エンドで支え抜くことを使命としています。

今井俊哉(いまい・としや)
Ridgelinez株式会社
代表取締役社長 CEO
慶應義塾大学卒業後、富士通に入社。その後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンに参画。SAPジャパン ヴァイス・プレジデント、ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン パートナー、ブーズ・アンド・カンパニー 日本代表、PwCコンサルティング 副代表執行役などを経て、2020年4月より現職。

──印象的な社名です。由来を教えてもらえますか。

【今井】「ridge line」は日本語で「稜線」の意味。変革は山登りに似ていて、その過程は厳しく、目に入るのはおよそ地面ばかりです。しかし稜線にたどり着いた瞬間に視界が開け、頂上までの道筋が見えてくる。お客さま企業と最後の「z」まで変革の山を登り切り、共に見たことのない景色を眺めたい。社名には、そうした思いを込めました。

──頂上を目指すに当たり、企業は何を意識すべきでしょうか。

【今井】DXというと「D」、つまりデジタル技術に目が行きがちです。しかし力点を置くべきは「X」、つまり「トランスフォーメーション」です。特に、簡単にリストラなどができない日本企業において重要なのは、デジタル技術を道具として企業文化や働き方、組織のあり方を変えていくという視点でしょう。「人」にフォーカスし、まず変革が必要な理由や目指す姿を明確にする必要がある。しかし実際は、それを曖昧にしたまま取り組みやITの導入を始めてしまうケースが多いのです。

8000メートル級の山と600メートル程度の山では登るための装備も登り方も異なるわけで、目標が明確でなければ変革の筋道は描けません。テクノロジーの話の前に、「なぜ、何を、どこまで変えるのか」をしっかり定義しておくことが不可欠です。

「変革の谷」を超えるサポートを

──顧客企業の課題解決を支援するに当たって、貴社はどんなことを重視していますか。

【今井】目指す姿を定める際に大事なのが「必然性」と「客観性」。変革を行うべき理由を数字やデータに裏打ちされた形で示す必要があります。これは、現場に腹落ちさせるためにも欠かせません。そのうえで、目に見えない「意識」の改革ではなく、「行動」改革を重視しています。さらに、状況や目標の「見える化」で満足せず、施策を「できる化」するレベルまで持っていく。これが私たちの支援の基本姿勢です。

加えて、変革は「高みの見物」になる人がいるとうまくいきませんから、やるべきことを絞り込んで、全社の戦略的な活動として徹底する。目標を絞れば、社会や経営環境の変化に応じた調整も容易になるため、この点も大事にしています。

──貴社のアプローチの特徴や実績を聞かせてください。

【今井】DXを推進するには、戦略策定、戦略を実現するビジネスモデルや業務プロセスの設計、システムの開発、さらにその運用などの段階があります。当社では各領域の知見、専門性を備えたコンサルタントがチームを組み、「Strategy×Design×Technology」を融合させた形でサポートを行います。着実に山を登っていくには、この三つを同時に見極めることが重要。それによって、各段階に存在する質の異なる障壁を効率的に乗り越えていくことが可能になります。

実績として、ある化粧品大手の案件ではスキンケアのサブスクリプション事業にモデル策定の段階から参画し、デバイスの開発も含めて支援。事業の運営計画も策定しました。また、ゼネコン大手のデータドリブン経営に向けた取り組みでは、成功指標の決定からアナログ的な社内調整までを担当して、「できる化」を支援しています。

──最後にDXに悩む企業に向けてメッセージをお願いします。

【今井】コンサルタントの価値は、最終的にお客さま企業に“行動変容”を起こせるかで決まるというのが当社の考え。Ridgelinezが「変革創出企業」を掲げる理由もそこにあります。ただ、その変革は私たちがゼロから創出するのではなく、お客さまのなかにもともとあったものが核となって「happen」するのだと理解しています。当社の役割は、「変革の谷」を超えるお手伝いをして、そうした状況を生み出すことにほかなりません。

日本企業には仕事と会社へ真摯しんしな思いを持つ人たちが多いぶん、一度火が付けば、大きな推進力が生まれます。ただし新しい行動にはやはりリスクもあり、ビジネスでは合理的なリスクを取ることが求められます。勇気を持ってその決断をすることがチェンジリーダーの仕事。私たちは、決して情緒的、理念的なアドバイスを行うことなく、事実に基づく確かな戦略性を持って、最後までリーダーの勇気を支えていきたいと考えています。