1999年の旧郵政省の省令改正により宅配ロッカーは郵便簡易書留の受け渡しが認められるなど普及が進んでいく。市場は右肩上がりに推移すると思われたが、2008年、世界をリーマンショックが襲う。創業以来の試練のときを迎えることになった。この大ピンチのなか宅配クライシスが発生。ネット通販によって宅配個数が急増し、再配達が社会問題化した。これを解決する手段として宅配ロッカーが再び注目され、需要が大きく回復した。そしてコロナ禍の今、企業の働き方改革にもその力が求められるようになっている。

新しくなったフルタイムシステムのオフィス向けサービスのマーク。コロナ禍で働き方が変わった企業の“困りごと”を解決するDXとして「日本中のオフィスに広がってほしい」(原周平氏)と考えている。
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メーカーでありながらアフターケアで顧客をつかむ

1994年の郵政省通達により、宅配ロッカーを設置する業者に補助金が出ることになった。あくまでもマンションを開発するデベロッパーが補助を受けるのであって、フルタイムシステムには一円も入らない。しかし、補助金が付いたことは国によって宅配ロッカーが公認されたことを意味した。フルタイムシステムの躍進が、ここに始まる。

創業社長の子息であり現在の副社長である原周平氏は、同社のビジネスの基本モデルを、困っていることの解決だと説明する。

原 周平
(株)フルタイムシステム 代表取締役副社長
(株)フルタイムロッカー 代表取締役社長
1974年、大阪府生まれ。日本大学文理学部体育学科卒業後、(株)シマノ入社。99年(株)フルタイムシステム入社。2001年7月~現職。

日本初の顔認証サービス「F-ace」(フェイス)式ロッカーの前で。また 在宅勤務が一般的になり、書類や備品の受け渡しに利用できる、職場 のコンピュータ式ロッカー「Fulltime@box」サービスが注目されている。

「宅配ロッカーを発案し、製造して売る。そこで商売は終わりではなくて、その後のケアをすることが、うちのビジネスです。コントロールセンターをつくって専用電話回線をつないでリモート操作を可能にし、24時間体制で顧客の要望に対応するには、実は大きなコストがかかります。それでも、困っていることを解決しようと考えたら、こうした形になったということです。考えてみると30年以上前からオンラインでアフターサービスを実践している。ITやIoTという言葉は後からやってきたもので、実際には顧客の要望に対応するために、インターネット回線のない時代にDXをやっていたとも言えるでしょうか。即時対応と安心感。マンションの管理からスタートしているので、いつもこれがセットになっているんです」

1997年には楽天、2000年にはアマゾンジャパンがネット通販を開始。宅配ロッカーのニーズ拡大に合わせて、フルタイムシステムも業績を伸ばす。そのなかでフルタイムシステムが守り続けた基本がある。

「スタートはマンション管理ですから、ハードウエアをつくる技術はなかった。でも、顧客からは日々、要望が寄せられる。それにいかに対応していくかを考えて、実際には、お断りできなくて要望に全部応えようとしてきました。こうして、顧客との継続性を大事にし、顧客の困難を解決する徹底したアフターサービスが弊社のやるべきことであり、その基本ラインから外れることは、やらない。今ではハードウエアから、内部のCPU、アプリケーションの開発まで全部やらせてもらっています。販売した後が我々の真骨頂なんです。現在では運営管理のみならず、システムのメンテナンス、機器の修理、交換部品の製作まで自社で行っています」

リーマン、宅配クライシスを経てオンリーワン企業へ脱皮

順調に伸びていたフルタイムシステムの業績をリーマンショックが襲った。新築分譲マンションへの設置がメインの宅配ロッカービジネスは、マンション供給数の激減にさらされ、2011年から2年連続して減収に追い込まれた。一方で、その間にもEC市場は拡大を続け、ついには宅配業者のドライバー不足と、過重労働、再配達の増加という「宅配クライシス」を起こすまでになった。しかし、この宅配の危機は、宅配の荷物をできるだけ再配達なしに1回で受け渡ししようという国家的なキャンペーンにつながった。フルタイムシステムは、その風を追い風にした。

「一度で受け渡しをしたい。そのために我々は、すでに30年以上宅配ロッカーのビジネスをしてきたわけです。宅配ロッカーがより浸透すれば、不在配達を減らすことで年間約9万人相当の労働人口を節約でき、配送車によるCO2削減によって環境問題の解決にも寄与できる。我々のやってきたことに時代が追い付いたのだと思います」

昨年来のコロナ禍により、非接触のモノの受け渡しへのニーズはさらに高まっている。

「コロナ禍のキーワードは非対面、非接触です。弊社への要望も、集合住宅だけでなく、ドラッグストアやスーパーなどの小売店からも寄せられています。いかに時間のロスなく人手を介さずにモノを受け渡しするか。そこを解決したい企業が増えている。私たちにとってはチャンスです。けれど、ただたくさん売れればいい、というのではない。この一年取り組んだのは、コントロールセンターのロボット化やアフターチームの育成など、弊社の足元をさらに強くすることです。今後、顧客から寄せられる大量の要望を弊社は断らないと決めているのですから」

新しい働き方に合ったオフィスのDXソリューションに

原 幸一郎
(株)フルタイムシステム 代表取締役社長
1943年、大阪府生まれ。同志社大学文学部(現心理学部)卒。大学時代はラグビー部。卒業後、世界一周の旅を経て、セメント販売会社に入社。71年(株)ジャーネットシステム、86年(株)フルタイムシステム設立。

フルタイムシステムのロッカーは今、業界に関係なくオフィスに広がり始めている。会社の基幹システムとつながったロッカーを活用することで、備品や書類の受け渡しが非対面、非接触でできるだけでなく、そのための人手が不要になることがその理由だ。

「宅配ロッカーが配達する人と受け取る人の“時間のズレ”を埋めているのと同じように誰かが待っている必要がありませんし、受け渡し漏れもありません」

コロナ禍により働き方が変化、多様化するなかで、スタッフ部門のリモートワーク化に悩む企業は多い。オンラインでのやり取りではなく、実際に手渡しする必要のあるものはビジネスの現場では減っておらず、むしろオンライン会議用のパソコンやタブレットの貸し出しなど、その機会が増えているからだ。人材確保に悩む企業にとってDXは優先課題だが、フルタイムシステムのロッカーはまさにそのソリューションになっている。

「私たちはこれからも、もっと企業の皆さまの困りごとを解決していけるよう力を尽くしていきます。どんなご要望にもお応えしていくのが弊社のDNAですから」

宅配ロッカーの応用と市場拡大は、企業のDX戦略の進展に歩調を合わせて、留まるところを知らぬ勢いだ。

(大竹 聡=文 市来朋久=撮影)