1983年、マンションの管理事務所での盗難事件発生により、「管理人が不在でも荷物を安全に受け渡しできないか」と、世界初、宅配ロッカーは開発された。それから40年近く、「目の前の人の困りごとを解決する」を理念に掲げて今、事業は住宅から職場へと広がりを見せている。そのビジネスの原点を探る。

株式会社フルタイムシステム

宅配ロッカーの製造、販売、運営を目的として1986年設立。99年からは書留郵便物も預け入れ可能になる。2008年大学、公共図書館向けサービスも開始。17年環境大臣賞「環境保全功労者表彰」受賞。

 

非対面、非接触、不在時にも便利
職場でも使える宅配ロッカー

今、宅配ボックス&ロッカー(以下、宅配ロッカー)に多くの企業が注目している。その理由は、宅配ロッカーを使えば、企業間を行き交う荷物の受け渡しや社内での備品の貸し借りに人の手を必要としないことに気付いたからだ。荷物を預ければ受け手は必要なときに解錠して取り出すことができる。マンションのロビーにあるロッカーと同様の仕組みだが、人がいなければ受け渡しができないという業務上のボトルネックを解消する。

そんなシステムを提供する企業が(株)フルタイムシステム。宅配ロッカーの先駆者であり、トップランナーでもある。

原 幸一郎
(株)フルタイムシステム代表取締役社長
1943年、大阪府生まれ。同志社大学文学部(現心理学部)卒。大学時代はラグビー部。卒業後、世界一周の旅を経て、セメント販売会社に入社。71年(株)ジャーネットシステム、86年(株)フルタイムシステム設立。

「お客さまにとって必要なことは何か。その要望に対応してきただけです。それが時代のニーズに合ったのでしょう」

創業社長の原幸一郎氏はさらりと言う。同社の2020年4月決算期の売上は72億4351万円。(株)富士経済が試算した宅配ロッカー市場の2019年の市場予測が148億円(※)。圧倒的な業界ナンバーワンであることがわかる。宅配ロッカーの設置箇所は、全国3万7000カ所に及ぶという。

ネット通販の拡大を受けて宅配は増加を続けてきた。2019年度の宅配便取扱個数は43億2349万個に及び(国土交通省調べ)、配送トラックのドライバー不足と、再配達の増加という社会問題を引き起こした。一度の配達で済めば、労働力の削減に加えてCO2削減にも貢献する。宅配ロッカーへのニーズはさらに高まっており、2025年の市場予測は245億円。2018年の185.6%に及ぶ(※)。コロナ禍における宅配の増加を考慮すると、さらに増えるだろう。

宅配ロッカーは現代的なニーズに対応する新しい商品に見えるが、発祥は1983年に遡る。発明したのは原社長である。

※出典:富士経済「次世代物流ビジネス・システムの実態と将来展望2019」

マンションの管理人不在でも、宅配便を住民に届けたい

原幸一郎氏は、豪傑を絵に描いたような人だ。長身でがっしりとした体躯。同志社大学ラグビー部時代にはフォワードで活躍。1965年の卒業後は世界へ旅に出たという。

「最後の移民船さんとす丸でアメリカへ渡り、社会保障番号を取得してカリフォルニアでしばらくアルバイトをしていました。そこで東部から来られた実業家の方にサンファナンドバレーの都市開発の話を聞いて、すぐに現地に足を運ぶと、広大な敷地に馬小屋もある大きな家、裏手には馬専用の道路を作っているのを見た。これはいけると新聞に『プールや庭の掃除から家のメンテまで何でもやります!』と広告を出した。電話受けは、現地のコールセンターにお願いして。大成功したヘンリー・フォードにあやかって、ヘンリー原という名前にして。何でも屋ですが、儲かりましたわ」

2年後、アメリカを後にした原氏はヨーロッパ、中東、アジア諸国、いったん帰国した後に中南米にも足を延ばした。帰国したのは1968年、25歳のときだった。

「ラグビー部の先輩がいるセメント販売会社に入り、それから独立して建築資材を扱った。好景気でよく売れました。ある商社がマンションを建てるというので建築資材を納入しつつ、管理もさせてほしいと頼んだのです」

このときも同志社ラグビー部の先輩を訪ね、マンション管理業務について学んだという。そして、建築資材のビジネスとは別にマンション管理会社を設立。修繕計画、モデルルームの備品管理、管理人を雇用・派遣した。70年代後半、宅配便が登場する。

「荷物の数が急に増えました。住人が不在のときは管理事務所で荷物を預かることにしましたが、住人は夜中に帰ってくることもあるから管理人では対応できない。管理事務所に入りきらないゴルフバッグを外に出しておいて盗難に遭い、これはいかんということで管理人の代わりに無人で荷物の預かりと受け渡しができるロボットを作りました。それが世界初の宅配ロッカー」

1983年にできた一号機は住人がカードキーで解錠できる仕組みだった。マンション管理の経験を重ねて「カードを紛失したから開けられない」などの声にも24時間対応できるよう専用電話回線を搭載、遠隔操作用のソフトも導入し、コントロールセンターを開設して(株)フルタイムシステムを設立。フルタイムロッカーの販売を開始した。

「コントロールセンターは、アメリカで見たコールセンターが参考になっています。最初の製品は2000万円かけて売れた価格が400万円。1600万円も損しました」

困っている人の声をよく聞いて解消するのが会社のDNA

原 周平
(株)フルタイムシステム 代表取締役副社長
(株)フルタイムロッカー 代表取締役社長
1974年、大阪府生まれ。日本大学文理学部体育学科卒業後、(株)シマノ入社。99年(株)フルタイムシステム入社。2001年7月~現職。

24時間預け入れ、取り出し可能の「フルタイムロッカー」は、コントロールセンターで遠隔監視。日本初の宅配ロッカーでの顔認証セキュリティシステム「F-ace」(フェイス)により非接触での荷物の受け取りが可能に。

この宅配ロッカーは世界でも初めての画期的な商品ゆえか、いきなりは売れない。苦境が続いた。原氏が、逆転の一歩のヒントを見つけたのは、コスト高を承知で開設したコントロールセンターに詰めていたときだった。

「宅配ロッカーでは郵便小包が受け取れないという連絡が入りました。調べてみると、たしかに法律でそうなっている。印鑑かサインがないと受け取れないのです。そうか、だから宅配ロッカーは大手のデベロッパーさんに採用されなかったのか。そう思って、私はすぐに郵政省へ乗り込んだんです」

原氏は郵政省に通い続け、粘り強く説得を繰り返した。そして1994年、無人の宅配ロッカーへの配達が正式に認められ、普及の目的で導入マンションに補助金が交付された。

「3年かかりましたね。でも、その決定の翌日、大手デベロッパーさんからフルタイムロッカーの注文が入ったんですよ。うちにとっての最大の転機だった。お客さまの声を聞いて商品を改良できることに本当に感謝しています」

モノを売って終わらず、人が困っていることを解決する。それが原氏の経営理念だ。

(大竹 聡=文 市来朋久=撮影)