1918年の創業以来、「共存共栄」の精神を継承するSMBC日興証券。持続可能な社会の実現も重視するなか、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)のサステナビリティボンドの引受けも担っている。それぞれのトップに、事業活動を通じた社会課題解決への思いなどを聞いた。

「ESGやSDGs達成に資する資金の流れをより大きく、より円滑にすることによって、持続可能な社会の構築にポジティブなインパクトを創出していきたい」

SMBC日興証券の近藤雄一郎社長はそう語る。1999年に日本で初めて環境の視点を取り入れた「日興エコファンド」の取り扱いを開始した同社は、サステナブルファイナンスにおいても先駆的企業だ。2018年には、金融・資本市場を通じて環境・社会課題を解決する専門部署「SDGsファイナンス室」を設置し、現在の中期経営計画でも「社会課題の解決によるSDGs達成への貢献」を基本方針の一つに掲げている。

近藤雄一郎(こんどう・ゆういちろう)
SMBC日興証券株式会社
代表取締役社長(CEO)
1962年生まれ。86年同志社大学卒業後、日興證券(現SMBC日興証券)へ入社。経営企画部長、執行役員 金融・公共法人本部長などを経て、2019年に専務執行役員。20年4月より現職。

「地球温暖化や資源の枯渇、労働者の人権問題といった各種の社会課題がもたらす外部環境の変化。それが企業の業績や成長に与える影響が強く意識される今、投資においても『サステナブル』の観点は欠かせないものとなっています。実際、現在の債券市場におけるサステナビリティボンドを中心としたSDGs債の広がりは私たちの想定以上です」

そうしたなか、引受け債券の発行体の一つであるJRTTについて、近藤社長は次のように話す。

「JRTTのサステナビリティボンドは、その資金使途が鉄道の建設や船舶の建造と非常に明確であり、『環境にやさしい交通インフラの整備に貢献する』という存在意義を社会全体としてイメージできることから、投資家からの支持も厚いと感じています」

最新の投資家ニーズと発行体である企業や団体の取り組みの双方を理解したうえで両者をつなぐ証券会社は、「お客様や社会が抱える課題に対し新たなソリューションを提案できる恵まれたポジションにいる」と近藤社長。「だからこそ、自分たちのネットワークやスキル、知識をどう生かせるかを考え抜いて、行動に移していくことが重要」と語る。

例えば気候変動問題の改善に向けては、数値目標を設けた取り組みも始まっている。

「SMBCグループのサステナビリティに関する長期計画である『SMBC Group GREEN×GLOBE 2030』では、『2020年度から2029年度のグリーンファイナンス及びサステナビリティに資するファイナンス(※1)実行額30兆円』を目標にしています。当社も、この達成に向けてSDGs債の引受けを含むサステナブルファイナンス対応力の強化に取り組んでいます」

“健全な金融仲介機能を果たし、市場・社会の発展に貢献する”との経営理念に基づき、先進的、具体的な活動を推進するSMBC日興証券。その取り組みがどんな成果を生み出すのか、これからに注目だ。

※1「サステナビリティに資するファイナンス」には企業のトランジションを資金使途とするファイナンスや社会事業を資金使途とするファイナンスを含む。

※各年度の条件決定分。
※事業債・投資法人債・地方債・財投機関債含む。
※2020年度はアルヒ株式会社のグリーンRMBS(4件、269億円)を含む。
JRTT河内隆理事長に聞く「SDGsとの向き合い方」

グリーン性とソーシャル性の両面から持続可能でレジリエントな社会を

──鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)の事業概要、環境や社会課題解決との関わりを教えてください。

【河内】JRTTは鉄道や船舶による交通ネットワークの整備・支援を総合的に実施するため、政府の全額出資により設立された独立行政法人です。これまでに整備新幹線や各地の都市鉄道など総延長3600km以上の鉄道路線を建設し、約4000隻の船を建造してきました。

一度にたくさんの人や物を運べる鉄道や船舶は、エネルギー効率に優れた環境にやさしい交通インフラです。また、都市間を結ぶ高速鉄道は人的交流を活発化させて地域経済の発展に貢献し、離島航路就航船は住民にとって欠かせない生活の足でもあります。グリーン性とソーシャル性を兼ね備えていることがJRTTの事業の特徴です。

国土交通省 総合政策局環境政策課HPより作成。

──それがサステナビリティボンドの発行につながっているわけですね。

【河内】その通りです。サステナビリティボンドによって調達した資金を鉄道建設業務や船舶共有建造業務に充当することで、SDGsの達成にも貢献していきたいと考えています。客観的な評価を重視する観点から、環境改善効果については低炭素経済に向けた大規模投資を促進する国際NGOであるCBI(Climate Bonds Initiative)から認証も取得しています。

──CBIはグリーン性について厳格な基準を設けていることで知られています。その認証の取得を目指した理由は何ですか。

【河内】認証取得が「JRTTとして国際的にも質の高いサステナビリティボンドを継続的に発行していく」という投資家の皆様へのコミットメントになると考えたからです。CBIからは一度の認証で継続的に発行できる「プログラム認証」を2019年に取得しており、これは私たちがアジアで初めて。今後も、調達した資金がどの鉄道路線に充当されているかなどをしっかり情報開示しながら、債券を発行していく予定です。

河内 隆(かわち・たかし)
独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構
理事長
1957年生まれ。82年東京大学卒業後、自治省(現総務省)に入省。京都市副市長、内閣官房内閣総務官、内閣府官房長、内閣府事務次官などを経て、2021年3月より現職。

──市場からの反応はいかがですか。

【河内】おかげさまで、「鉄道建設は身近な分野で投資を検討しやすい」「CBI認証は第三者評価機関のチェックを要求しているため、信頼性が高い」などの声をいただいています。また、当該債券を購入された投資家の皆様からは約200件の投資表明を頂戴しており、非常に心強く思っています。

──最後に、理事長としての今後の抱負をお聞かせください。

【河内】「2050年カーボンニュートラル」に向けた取り組みが世界で加速するなか、私たちも事業活動を通じてその実現を後押ししていかなければなりません。理事長として、JRTTにとって「変えてはいけないもの」と「変えるべきもの」を見極めながら、大胆かつ柔軟に改革を進めていく。そして、環境にやさしい交通ネットワークの整備という使命の達成に向け、全役職員が自ら考え、行動できる環境を整えていく。これが私の役目だと認識しています。そうしたミッションドライブな組織をつくり、これまで以上に持続可能でレジリエントな社会の実現、またSDGs債市場の発展・拡大に貢献していきたいと思っています。

本記事は、情報提供を目的とするものであって、勧誘等を目的とするものではありません。