「現金がなくても、スマートフォン1つでどこでも決済可能な世界をつくる」。そんなビジョンを掲げ、創業からわずか3年で国内トップの決済サービス事業者に急成長したPayPay。キャッシュレス社会を推進する政府方針に加え、新型コロナ感染拡大によって生活が一変しeコマースや宅配、デリバリーの需要が高まったことで、現金よりスマホ決済を選ぶ人が急増するなど時代の後押しを受けた。今やPayPayアプリのユーザー数は4,000万人以上、加盟店数は328万カ所以上に達している。ベンチャー企業が急成長を遂げる上で鍵を握るのは「人」。そしてPayPayが、人材採用戦略のパートナーに選んだのがSpring転職エージェント(以下、Spring)だ。なぜPayPayはSpringを選んだのか。SpringはPayPayのニーズにどう対応したのか。今回、PayPay執行役員CFO・コーポレート統括本部長の走出雅紀氏と、アデコ執行役員Spring事業本部長の板倉啓一郎氏との対談を行い、PayPayの人材採用戦略について語ってもらった。

PayPayの「壮大なチャレンジ」を支える人材が欲しい

――PayPayは2018年6月の創業からわずか3年で急成長を遂げていますが、それに伴い多様な人材が必要になったと思います。どのような戦略の基に人材採用を進めてきたのでしょうか。

【走出】ご存じの通り、PayPayは決済サービスを提供するスマートフォンアプリの事業を展開しています。当社が目指しているのは、数千年もの間、現金が社会で果たしてきた“仲立ち機能”を「PayPay」というアプリに変えることと、現金ではできない便利で快適な機能やサービスを付加することで、人の暮らしに必要な「スーパーアプリ」へと成長させていくことの2つです。この壮大なチャレンジを成功させるために、人材戦略が非常に重要だと創業当初から考えていました。

そこでプロパー採用に向けた制度設計に着手したのですが、それと同時にプロフェッショナル人材を1人でも多く獲得したいとも考えており、優秀な人材であれば国籍、性別、年齢を問わないということで採用活動を進めてきました。

ところが事業拡大のペースが速すぎて人材の手当てが追いつかず、本当に困ってしまったんです。そうしたことからプロフェッショナル人材についてSpring転職エージェント(以下、Spring)にご紹介いただくことにしたわけです。

走出雅紀(そで・まさのり)
PayPay株式会社
CFO 執行役員 コーポレート統括本部長
1986年、日本債券信用銀行入社。その後、株式会社ネットラスト・代表取締役、ジャパンネット銀行(現PayPay銀行)代表取締役副社長などを経て、2018年、PayPay株式会社・CFO・経営推進本部長。2021年より現職。

――それほど急速な事業拡大の要因とは何だったのでしょうか。

【走出】やはり新型コロナ(COVID-19)の影響が大きいですね。この2年弱で私たちの生活は根底から変わりました。私自身もオフィスに出社したのは今日(6月2日)が今年3回目という状況で、ほとんどが在宅勤務です。同じ状況の方も多いと思います。

買い物に出かける頻度も減って、1回にまとめ買いするようになり、同時に外出を避けてeコマースやデリバリーの利用が急激に増えたことと思います。こうした生活者の行動様式の変化が定着してきた結果、キャッシュレスの市場も大きく成長しました。

もう一つ、政府が行ったキャッシュレス推進政策にも後押しされました。2019年10月の消費増税の際、キャッシュレス決済での支払だと5%分のポイントが戻ってくるというキャッシュレス・消費者還元事業を政府が大々的に行い、PayPayも支払額の最大5%のPayPayボーナスを付与しました。こうした政府の取組をきっかけにキャッシュレスが一気に浸透しました。

良い面だけでなく、課題もしっかり伝えるコンサルティング

――数ある人材紹介サービスの中から、Springをパートナーに選んだ理由とは?

【走出】1人のコンサルタントの方が、新しい職場を求める人材と優秀な人材を求める企業との両面に対応するという、Springさん独自のスタイル(360度式コンサルティング)が決め手でした。

もちろんスキルや経験は大事なのですが、私たちは社会に新しい仕組みをつくる事業を進めていますので、常識にとらわれることなく、強い意志でやり抜く意欲ある人材を求めています。そうしたことも理解してもらった上で、ふさわしい人材をご紹介していただけることに心強さを感じました。

また企業はいいこと尽くしというわけにはいかず、何かしらの課題を抱えています。当社の良い面だけでなく課題についてもしっかりと伝えてもらったことで、採用がスムーズになりました。

それに加えて、多種多様な職種の人材紹介のお願いに対して、Springさんは人材のデパート的にご紹介いただけることでも頼もしさを感じています。

――PayPayからの評価を、Springとしてはどのように受け止めているのでしょうか。

【板倉】ご評価をいただき大変うれしく思います。Springは人材紹介サービスを提供するアデコグループの中で、プロフェッショナル人財を専門にご紹介する部門として4年前にスタートしたサービスブランドです。まさしく走出様からご指摘いただいた、360度式のコンサルティングを最大の特長としています。ちなみに、私どもは人材を「人財」と呼ばせていただいております。

近年、人材紹介サービス業界大手がデータベースなどのテクノロジーを駆使し、効率的なマッチングを進めている中、このスタイルは正直いって効率が悪いです。しかし企業が本当に必要な人財を選りすぐるという点においては精度が高い。

特にPayPayさんのようなフィンテック分野やIT分野を中心に、人財が持つ専門性を重視するのみならず、自社が掲げるビジョン、パーパス(企業の存在意義)に対する理解や相性なども重視した人財採用戦略を志向される企業が増えています。

そこでSpringでも、一人ひとりのマインドセットのところまで掘り下げたビジョンマッチングということを大切にしていまして、その面ではSpringならではの価値提供に繋がっているのではないかと自負しているところです。

板倉啓一郎(いたくら・けいいちろう)
アデコ株式会社
執行役員Spring事業本部長
伊藤忠商事株式会社に入社。日系および外資系の人材紹介会社での勤務を経て、2014年にアデコ株式会社に入社。360度式サービスの導入とともに、職種別部門への組み替えなどを手がけ、2015年より現職。

また、人財の専門性、多様性というところもSpringが強みとして打ち出しているところです。私たちは業種・業界別に11の専門分野を設け、それぞれの領域に明るいコンサルタントを配置して人財や企業のニーズにお応えする体制を整えています。その中には外国人のコンサルタントもいます。例えば外国籍の人財が必要な場合は、専任のコンサルタントが対応するなど、多様なニーズにお応えしています。

日本の金融人材の優れたスキルと経験に期待

――スマホ決済サービス国内トップに上り詰めたPayPayが、これから求める人材像とはどのような人でしょうか。

【走出】特に強化したいのは、金融人材の採用です。アプリのユーザー数は4,000万人以上、加盟店数は328万カ所以上に達した今、「PayPay」は生活者の方々の毎日の暮らしを支える決済インフラになりつつあります。公的な器の運用者としての責任は重大で、ここからシステムの安定化という課題に真剣に取り組んでまいります。

金融機関には長らく日本の金融システムの安定化に取り組まれたことから、優秀なリスク管理のプロフェッショナルが沢山おられます。そうした方々のリスク管理における知見、スキルを私たちのサービスや事業に生かしていただきたいと思っています。

同時に、PayPayでは決済サービスから派生する、新しい金融サービスの開発にも取り組んでいます。かつてなかった新しい金融商品を世に生み出していく担い手になっていただける方にも参加していただきたいですね。

PayPayではお買い物をした後、付与されたPayPayボーナスを運用する「ボーナス投資」というサービスを始めました。すでに300万以上のユーザーに利用していただいています。口座の数だけでいえば、大手証券会社にも匹敵する規模です。今後は例えば「1円からできる証券投資」といった新サービスを開発する余地もあると考えています。

――しかし、国内の伝統的な金融業界にいる人たちの流動性は低いと言われています。

【板倉】たしかに流動性は低い分野ですが、4~5年くらい前から少し様子が変わりました。PayPayさんのようなフィンテック企業が新しい選択肢として登場した一方、金融業界は支店の統廃合などを進めていることから、転職を考える金融人財も幅広い年齢層で少しずつ増えています。

Springとしては、PayPayさんの企業文化やビジョンを丁寧に伝えることで、そこに共感する人財を見出してマッチングしていきたいと思います。それが金融人財も、受け入れる企業側も、ともに成長と変化を遂げていくきっかけになると考えています。

【走出】当社では昨年9月に人事制度を見直し、「Work From Anywhere at Anytime(WFA)」を導入しました。パフォーマンスが発揮できる環境であれば、日本国内どこでも好きな場所で、好きな時間にフルリモートで働いてもらえるという新しい働き方です。こうした新しい働き方にも、魅力を感じていただけるのではと期待しています。

 

昨年9月に移転した「WeWork 神谷町トラストタワー」内にあるPayPayの新オフィス。PayPayとWeWork Japanが共同設計した。従来のデスクワーク用の席数を大幅に削減すると共に、従業員同士が交流できるゾーンを複数設けるなど、ニューノーマル時代の働き方に対応する未来型のオフィスだ。オフィスから東京タワーが間近に望める。

日本発の「PayPay」を「世界で使われるアプリ」に成長させる

――伝統的な銀行に勤務してきた人が、新領域のフィンテック企業でも活躍できるでしょうか。

【走出】もちろんです。新しい決済サービスで世の中をより便利により快適にしたいという思いを持つ方であれば、金融業界での経験を存分に発揮していただけますし、さらに企業の成長と、新しい金融サービスを世に生み出すというエキサイティングな体験をしてもらえることと思います。キャッシュレスの分野で生涯をかけてみようと思う方には、ぜひ私たちと一緒に働いてもらいたいです。

【板倉】私自身もPayPayユーザーの一人ですが、買い物はもちろん、税金まで支払えるようになり、本当に便利だなと感じているところです。

世界の舞台で日本企業がなかなか振るわない状況が続く中、日本発の「PayPay」が世界中で使えるようになってほしいというのが、一ファンとしての思いです。そのためにも世界60カ国に事業展開をしている私たちのネットワークをフルに生かして、PayPayさんの世界進出を人財面で貢献してまいりたいと思っています。