コンサルティングファームのアクセンチュアは、BPOマーケットで世界トップシェアを誇るプレイヤーでもある。一般的なBPOには業務効率化やコスト削減といったイメージがあるが、アクセンチュアがBPOによって手がけるのは企業変革そのものだ。中でもマーケティング領域のBPOを担うのがエクスペリエンスビジネスチームである。チームを率いる二人のリーダーに、いかにして生活者の立場から逆算したマーケティングが企業変革を促し、新たなビジネス成果を生む起爆剤となるのかその最新事情を聞いた。

ビジネス変革を目指し、マーケティング領域からトライ&エラーに伴走

――BPOといえば経理や営業などの定型業務を切り出して外部委託するイメージがあります。アクセンチュアではBPOをどのように捉えていますか。

【原】私たちが提供しているのはお客様のビジネスそのものの変革であり、BPOはそれを実現するためのスキームに過ぎません。言ってみればBPOではなく、ビジネス・“トランスフォーメーション”・アウトソーシング。お客様とともに本質的な企業価値の最大化に取り組む点が、非中核業務を効率化してコストダウンする一般的なBPOとは大きく異なる点です。そして、マーケティング領域からビジネスを見直し、変革そのものを引き受けるのが、エクスペリエンスビジネスのチームです。従来、企業中心の体制で顧客に届けられていた商品・サービスを、顧客を起点とする逆転の思考でマーケティングする。これといった正解がない中、お客様に伴走しながらトライ&エラーを繰り返し、目指したビジネス成果を生むまで寄り添う――それがエクスペリエンスビジネスの特徴であり、他にない強みだと自負しています。

原 仁志(はら・ひとし)
オペレーションズ コンサルティング本部 マネジング・ディレクター
ビジネストランスフォーメーショングループリード
兼 エクスペリエンスグループ共同リード
兼 アクセンチュアインテリジェントオペレーションセンター福岡 センター長

――昨今の企業変革においてデジタル化は避けては通れない課題です。DXへの取り組みはいかがですか。

【原】デジタル化そのものは多くの企業が以前から取り組んできました。しかし、現在はその深さが違います。例えば10年前ならWebやスマホアプリでデジタルの要素を付け足す程度で終わっていたでしょう。今や主従は逆転し、デジタルを前提として顧客体験を描き直す時代にシフトしています。そのためにはビジネスを根本から見直し、変化に即応できる組織へと生まれ変わらなければならない。となれば、そこで働く人も変わらざるを得ません。企業の価値と合わせて、そこで働く従業員の皆様の付加価値も極大化するのが私たちのミッションです。

【大塚】業務効率化であればロボットに強みがありますし、過去のデータの分析はAIの得意とするところです。しかしそこから“未来を発想する”ことは人にしかできません。人とマシンが協業し、よりよい価値が生まれる土壌を作る。これもまた、私たちの役割です。

生活者目線でビジネスを再構築する

――クライアントはどのような課題を抱えていますか。

【大塚】コロナ禍によってデジタル化が進み、多くのユーザーはリアルとデジタルを渡り歩くようになってきました。そこで必要なのは、リアルとデジタルが融合した、シームレスな顧客体験です。さらに企業がマーケティングに求めるものもこれまでより広く、深くなっています。これまではコンバージョンをどう上げるか、どこまで売り上げを伸ばすかといった表面的な目標が多かったのですが、最近は顧客へ企業としての価値観をどう伝え、顧客エンゲージメントをいかに深めるかといった施策が重視されるように変化しています。ただ日本の企業は組織が縦割りで、企業全体を貫く顧客体験を創出するマーケティングができていないケースが多いと感じます。ポテンシャルはある一方、ガバナンスや組織体制は必ずしも顧客中心になっていないのです。今、これらを再構築する大きな変革が必要とされています。

大塚 健史(おおつか・けんじ)
オペレーションズ コンサルティング本部 マネジング・ディレクター エクスペリエンスグループ共同リード
兼 株式会社アイ・エム・ジェイ(IMJ) 取締役社長兼CEO

――組織改編といった踏み込んだ改革が必要となります。どのような対応が可能ですか。

【大塚】経営課題の改善に精通したアクセンチュアと、同グループ内のクリエイティブに強みを持つエージェンシーIMJが協働し、変革の伴走者となります。まず顧客体験をデザインし直す上では、IMJの生活者目線の発想が生きます。同時に、企業の内側から組織構造まで含めて変えていかなければ、理想的な顧客体験は実現できません。そこで、アクセンチュアのコンサルティングの知見が発揮されます。

【原】アクセンチュアには変革のプロフェッショナルが揃っていますので、必要に応じてあらゆるリソースを活用できます。その時の課題ごとに部門横断で最適なチームを組成し、アジャイルに変革をリードできるのが我々の強みですね。例えば経営課題の解決策を検討するにはコンサルティング、大規模なDXを推進するならテクノロジーのメンバーが参画します。グローバル展開であれば海外のチームとも共同で仕事をします。

IMJメンバーやAIを駆使しブランドコミュニケーションを最適化

――アクセンチュアが手掛けているエクスペリエンスビジネスの具体例をお聞かせ頂けますか。

【原】現在は大手化粧品会社様と一緒にお仕事をしています。化粧品業界では従来、マスマーケティングでブランドイメージを作り、それを店舗での販売につなげる戦略をとっていましたが、昨今のデジタル化で限界が生じていました。また消費者は、商品の品質や価格だけではなく、ブランドの持つ価値観や言動を評価して購買行動を決定するようになりました。そのため、ブランドとしての存在意義や目指すところを再定義して発信し、さらに顧客ごとに最適化したデジタルでの購買やアフターサービスを可能にするビジネスモデルへの転換が必要です。そこでアクセンチュアがパートナーとして変革を進め定着させる役割を担っています。

【大塚】化粧品にとってブランドイメージは生命線。それゆえに従来はブランドごとに縦割りの組織編成でマーケティング施策を独自に展開していました。しかし、その体制では企業全体を貫く変革がしづらく、各施策の検証もできなかった。そこで私たちがお客様企業の現場に入り、ブランドを横断して束ねてマーケティング施策を打つことで、予算に対する効果が見えやすくなり、経験と勘に頼っていた判断を合理的に行えるような変革に着手しています。個の顧客に対するマーケティング強化にも動いていて、例えば、ウェブサイトのクリエイティブをユーザーの好みや属性によって変化させるといったパーソナライズも取り入れています。IMJメンバーやAIを駆使したこういった取り組みを通じてすでに成果は上がってきており、先行ブランドの成功事例をモデル化して、さらに横展開させていく段階です。

――これまでのやり方を見直すことに、反対はありませんでしたか。

【大塚】もちろん当初から何の異論もあがってこなかったわけではありません。しかし、私たちの立ち位置は、ベンダーではなく変革のパートナーであり、伴走者です。私たち自身がお客様企業の中に入り、従業員の方々と同じ目線、同じ感覚で仕事をやっていく中で、一人一人の意識や視座が変わっていきました。そうやって企業が変革していく様を実感できるのが、伴走型のオペレーションズの醍醐味だと感じています。

企業変革のストーリーを紡ぎ、変革の常態化へ

――エクスペリエンスビジネスの面白さと、そこで活躍できる人材像をお聞かせください。

【原】オペレーションの中でもエクスペリエンス領域は、変革の起点が企業ではなく生活者にあります。例えば自分自身が使ってみたいと思うもの、より役立つものを世の中に発信するような案件に携われるのでコンサルタントとしてのみならず、一生活者としても意欲が掻き立てられます。

【大塚】自分自身が一人の生活者になったとき、既存のサービスの不便さを感じ取り、そこからよりよい未来を発想できるか。ことエクスペリエンスビジネスにおいては、生活者目線で課題を発見する力が問われます。その上で変化を前向きに捉えてチャレンジできる、未来創造型の思考が必要ですね。また、企業変革を成し遂げるのは結局は人間です。現場の方々と継続的に対話する粘り強さも欲しいですね。

【原】私たちが支援する変革は時代の先を行く新しい挑戦なので決まったセオリーや正解はなく、常に試行錯誤の連続です。だからこそ、お客様と伴走して共に変革をやり切るエクスペリエンスビジネスに価値がある。そして、その実現にはさまざまなスキルが必要です。Web制作からビジネス領域に関わりたいと考えている方、コンサルティングのみならず現場の実務に携わりたいと考えている方、事業会社のマーケティングで何かしらもどかしさを感じている方――スキルは異なっても、変革に携わりたいという「思い」を持っている方であれば、きっと新たなキャリアを切り拓けると思います。

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