コロナ禍で急速に導入が進んだリモートワーク。チームメンバーが点在して働く環境下で、生産性を上げることが企業の喫緊の課題となった。その結果、多くの企業はコミュニケーションツールを導入し、在宅勤務でも意思疎通できる環境を用意しようとした。しかし、現場からは膨大なチャット・メールのやり取りや、度重なるウェブ会議、ツールを使った上司への報告などに追われ、「本来の“自分の仕事”に集中できない」「メンバー間の意思疎通がうまくいっていない」といった声が多く聞こえる。ところが最近、そうした現場を救う切り札として、「ワークマネジメント」という考え方が脚光を浴びている。理想的なチーム作りと生産性の向上をもたらす概念だという。Asana Japanの田村元代表取締役に詳しく話を聞いた。

「分散型ワーク」への移行が進む中で表面化した日本企業の課題

――コロナ禍において日本の働き方はどのように変わりましたか。

コロナ禍でリモートワークの導入が進んだこともあって、多くの企業において一つのプロジェクトや業務を一緒に分担しているメンバーが分散した状態、「分散型ワーク」へのシフトが進みました。

ただ、個人レベルの仕事は目の前の自分の役割を果たせば一区切りがつきますが、その内容は通常、単独で完結するものではありません。チーム内で進めている一つの塊(プロジェクト)の一部を担っているケースが多く、各メンバーにさまざまな役割が割り当てられていて、それらの集合体がビジネスの成果へとつながっていくものでしょう。

つまり、個人レベルでは「リモートでも仕事ができる」と感じている方も多いかもしれませんが、分散したチームでこうした連携を上手く図っていくことが大きな課題となってきているわけです。

ところが、日本企業の多くはその対応に苦労していた様子です。内閣官房成長戦略会議事務局と経済産業省経済産業政策局が今年2月に公表した「コロナ禍の経済への影響に関する基礎データ」によれば、米国では職場勤務と比較した効率性について、「在宅勤務のほうが効率的」との回答が41.2%に達していました。これに対し、日本では「在宅勤務のほうが生産性は低い」と答えた企業が92.3%に上りました。さらに、日本の在宅勤務経験者の82%も同じような見解を示していたのです。

その理由の第1位に「対面での素早い情報交換ができない」というのが38.5%を占めています。この回答から、リアルタイムですぐにコミュニケーションを図れる環境づくりをしようとして、多くの企業が苦戦しているように見受けられます。現在、チームの同僚や上司は自宅やオフィス、出先などに所在が分散している状況にあり、仕事上の確認や意思の疎通をしようとしても、オフィスにいたときと同じようなレベルのコミュニケーションには達していないのです。

さらに、リモート環境でも「オフィス型ワーク」における慣習を踏襲することで、「仕事のための仕事」が増えてしまうという悪循環にも陥っています。

田村元(たむら・はじめ)
Asana Japan株式会社
代表取締役 ゼネラルマネージャー
1968年新潟県生まれ。30年以上にわたってビジネスアプリケーション分野に従事し、特にクラウドコンピューティングでは日本における黎明期の2000年代初頭からその活用を推進してきた。SAPジャパンのマーケティングバイスプレジデント、ネットスイート代表取締役、日本マイクロソフト業務執行役などを経て、2019年7月から現職に就き、ワークマネジメントツールの普及による日本企業の生産性向上と真の働き方改革に注力中。

過剰なほどの「確認のための会話」が繰り広げられる

――「仕事のための仕事」とは、いったいどのような作業のことを意味しますか。

現在の日本企業において、“分散型ワークでもリアルタイムのコミュニケーションを実現”しようとして多くの人が陥っている状況の一つは、一日にやり取りする膨大な量のチャットやウェブ会議への対応ではないでしょうか。

相手が見えないからこそ、今その仕事が進んでいるのかを確認するチャット、今どのような状況なのかを報告する会議など、過剰なほどの「確認のための会話」が繰り広げられており、これはまさに「仕事のための仕事」の代表例です。

資料が埋没してしまうケースもありがちで、いくら探しても見つからなかったという経験がある人は少なくないでしょう。何度もアップデートが繰り返された同じタイトルの資料が送り続けられ、どれが最新のものなのかが判別しづらくなっているケースも珍しくありません。当人が該当資料を探している時間はもちろん、再送してもらうことで相手に重複作業を求めることになり、これらも明らかに仕事上のムダだと言えるでしょう。

こうした「仕事のための仕事」は、基本的に付加価値を生み出していません。その結果、「分散型ワーク」への対応において多くの日本企業が米国企業に対して後れを取っているのが現実です。

「仕事のための仕事」を減らし、「ホウレンソウ」も不要に

――仕事の進め方やビジネスの変化に伴い、どうしてワークマネジメントという考え方が重要になるのでしょうか。

ワークマネジメントという言葉自体はまだ日本でさほど認知されていませんが、ビジネスにおいては極めて当たり前の話で、要は「マネージする(仕事を上手く回していく)」ことを意味しています。

大小さまざまな仕事の塊を管理することで、チャットで膨大に流れる会話を一つひとつの仕事に結び付け、「誰が、いつまでに、何をする」仕事なのかを常に明確にしたうえでコミュニケーションを行い、その仕事がどこまで完了しているのか、何の目標を達成するための仕事なのか、といったことを可視化し、「仕事のための仕事」を減らすことで、付加価値の高い業務に集中する。これが作業プロセスを改善することで得られる効果です。

「仕事が上手く回っている」とは、現場の最前線に立つ人たちが個人レベルで業務を円滑に進めていくのはもちろん、組織内の他のメンバーと的確に連携し、管理職もプロジェクト全体の進行を詳細に監督・指導できる状況のことです。

古くからビジネスの世界では「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」が重要だと言われてきましたが、ワークマネジメントを実現することで、不必要な「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」をなくすことができます。同僚や上司はリアルタイムで状況を把握しており、ワークマネジメントツール上で「ホウレンソウ」が完結しているのです。

生産性の向上に直結し、トップラインの拡大にも貢献する

――もともとAsanaはどのような経緯で、ワークマネジメントツールを開発するに至ったのでしょうか。

Asanaを設立したのは、Facebook会長兼CEOのマーク・ザッカーバーグとルームメイトだったダスティン・モスコヴィッツです。彼はザッカーバーグとともにFacebookの立ち上げに参画し、初代CTO(チーフ・テクニカル・オフィサー)を務めています。

急成長を遂げていた当時のFacebook社内では業務や人材の数が飛躍的に増大し、誰がどの領域で何をやっているのかが見渡せなくなっていました。つまり、ビジネスの進行状況に関するVisibility(可視性)が失われた状態に陥っていたわけで、モスコヴィッツはその解決のためのツールを開発しました。

これが社内で非常に高い評価を得たことから、「世の中の多くのビジネスにおいて求められているツールではないか?」と考えた彼はAsanaを創業し、2012年に最初のバージョンをリリースしたのです。

日本語版のリリースは2018年終盤で日本法人設立は2019年ですが、実はすでに2013年頃から英語版を導入している日本企業のお客さまもいらっしゃいます。日本企業の間でも、生産性の向上やチームのコラボレーションに貢献するツールに対するニーズはかなり以前からあったということでしょう。

いち早く導入を進めてきた日本企業の中には、会社のミッションと個々の社員のタスク(目の前の業務)との関連性を意識してもらうことにAsanaを活用しているケースも見受けられます。

会社が掲げるミッションの下にはそれを叶えるための目標が定められており、達成のための具体策としてポートフォリオ(複数のプロジェクト)が構成されています。そして、プロジェクトを遂行するために各従業員にそれぞれのタスクが提示されているものです。

Asanaを通じて仕事を進めていくと、個々の従業員が自分自身のタスクとミッションとの関連性を可視化できます。その結果、目の前の業務にやり甲斐を強く感じることが期待されるわけです。

たとえば、Asanaのツール上では自分が担当しているプロジェクトに結びつくメールやビジネスチャット上のやりとり、資料などがすべて自動的に関連づけられており、メンバー間で共有されます。誰がいつまでに何をやるべきかが明確で、その進行状況も一目瞭然です。しかも、Asana上でタスク(目の前の業務)をこなしているだけで記録や紐付けが行われるので、わざわざ表計算ソフトなどに進行状況を記録するような手間も不要です。

Asanaのワークマネジメントツールは、こうして仕事が上手く回っていくための仕掛けが随所に施されています。しかも、プロジェクトの進行管理に必要な機能をオールインワンで提供しているだけにとどまらず、さまざまなアプリケーションと連携しながら、企業や組織内のあらゆる仕事をAsanaのツール上で展開できるのが最大の特長です。

ワークマネジメントツールのAsanaでは、「誰がどの仕事をやるのか」を明確に決定し、仕事の期限も含めて必要な情報全てを関係者全員で管理・共有できる。結果、各担当者は自分の仕事に集中できる。また、Asanaを社内公用ツールにすることで、社内のコミュニケーションからメールをなくし、全ての業務をAsana上で完結することもできる。

――今後は日本においても、コロナ感染収束にかかわらず「分散型ワーク」へのシフトが本格化しそうです。その中で、Asanaとしてはどのような展開を図っていく方針ですか。

「すべてのビジネスパーソンにAsanaを使っていただきたい」と私は願っています。けっしてそれはAsanaのビジネスのためではなく、すべてのビジネスパーソンの生産性向上に寄与したいと考えているからです。

結局のところ、個々の従業員や会社全体における生産性向上は、トップライン(売り上げ)の拡大に結びついていきます。言い換えれば、Asanaを通じて効率的に仕事を進めることでより高い付加価値を生み出し、社会におけるその会社の評価や、組織内における個人の評価も高まっていき、働きがいといった精神的な豊かさにも直結していくことでしょう。

“本質的”な働き方改革でより生産性の高い仕事へ!