トップブランドとして登り詰めた軌跡とは
――「明治プロビオヨーグルトLG21」と「明治プロビオヨーグルトR-1」は現在、確固たる地位を築いています。その「原動力」とは何でしょうか。
「ヨーグルトという食品は大きな可能性を秘めている」と強く信じる気持ちが原動力です。その可能性を明らかにするために、当社は情緒的、科学的双方の観点から研究・マーケティング・営業活動を続けてまいりました。
まず、乳酸菌の個々の機能性をはじめとする研究を根気強く行うとともに、機能性のみならず、継続しやすいおいしさや適正な容量を追求するなど、食品としての完成度の高さも目指しています。
また、「時間はかかっても必ず売れる」と信じる気持ちを持って、消費者の要望や時代の流れなどを見据えたマーケティングと営業活動を実践しました。
さらに、「他社がやっていないことをやろう」という気概で、常に「最初に」チャレンジすることを心掛けてきました。そのためにも日頃の情報収集を怠らず、今お客さまが求めているものは何か、時代背景、社会の状況などを複合的に捉えて、「どうしたら買っていただけるのか」を真摯に考え続けています。
――ヨーグルト・ブランドが成功した「ブレークスルー・ポイント」は、どこにあるとお考えでしょうか。
ヨーグルトは従来、「健康によい」と「味(おいしさ)」という漠然としたイメージで選ばれてきました。ところが、当社はそこに「固有の乳酸菌の健康価値」という新たな可能性を見出しました。当時の経営陣は、医薬品でカバーしていた領域を、食品でも貢献できる可能性があると考え、ヨーグルト事業に当時の経営資源の大半を投下しようと考えたのです。
開発当時から、「LG21」と「R-1」は消費者へのベネフィット、潜在的な需要が明らかでした。「これはいけるぞ!」という思いで全社一丸となって市場に送り出したのです。
そして、「LG21」は、乳酸菌の個性を訴求するヨーグルトのパイオニアとして、日本のヨーグルト市場に新たなカテゴリーを創出しました。「R-1」は「強さひきだす乳酸菌」(※)をキャッチコピーに、体調管理を目的としたヨーグルトとして発売しました。今までにない新商品だということをアピールするためにも、既存のヨーグルトが白や青のパッケージなのに対し、ヨーグルトの常識を覆すカラーの赤を基調としたデザインにしました。
※「強さ」とは健やかな生活を送りたいという前向きな想いを表しています。
慎重に市場を検討した結果、今が絶好のタイミングと決断
――今回、日本のヨーグルト乳酸菌市場においてトップレベルで人気のある「明治プロビオヨーグルトLG21」と「明治プロビオヨーグルトR-1」の中国進出を決断した理由とは何でしょうか。
この2つの商品については、以前から中国進出を検討していました。ご指摘の通り、明治にとって極めて重要な商品ですから、成功が確信できるタイミングを慎重に見極めていました。その結果、今が最高のタイミングだと判断して踏み切ったという経緯です。
――決断の最大の決め手となった要因とは何だったのでしょうか。
やはり中国における乳製品需要の高まりです。もともと中国では政府が「健康中国2030」という方針を掲げ、国民の健康増進のために国民一人当たり1日300gの乳製品の摂取を推奨しており、国民のヨーグルト・乳酸菌製品への関心も高まっていたんです。
そこに昨今の体調管理に対する意識の高まりからも中国国民の方々の乳酸菌製品への注目度がさらに高まり、今が好機だと判断しました。
まず「LG21」を出して、そこでマーケティングノウハウを築き上げたうえで「R-1」を投入するというやり方も検討しましたが、今なら2つ同時に投入しても十分いけるだろうと見込んでのことです。
――「LG21」「R-1」それぞれ中国市場向けに「変更を加えた点」があれば教えてください。
お客さまに提供する乳酸菌の個性は、まったく同じです。
一方で、中国の方は「飲みごたえ」を重視することが調査でわかっていましたので、1本の容量を日本の112mlから180gに増やしました。また「飲み口」も日本の商品はさらりとしていますが、中国向けでは粘度を高めてコクを出しています。それ以外はボトルの形状も、色使いやデザインも、日本のものと同じです。そこには日本で飲んでいたお客さまが、中国のお店でもすぐに見つけられるようにとの配慮もあります。
――中国での価格や取扱店について教えてください。
価格は12元(約200円)と少々高めの設定ですが、日本のナンバーワンブランドらしくプレミア商品として打ち出します。取扱い店も高級スーパーなどを中心に展開しています。
三大経済圏それぞれにバリューチェーンを構築
――中国のヨーグルト市場の成長をどのように予測しているのでしょうか。また、その中でシェアをどの程度、見込んでいるのでしょうか。
中国は高い経済成長の途上にあり、2022年には国民の乳製品消費市場は500億ドルに達すると予測されていますから、有望な市場であることは間違いありません。しかし、シェアについては、ほとんど意識していないんです。新しい商業施設が続々とオープンしている状況ですから、市場でのポジションを競うより、日々増えていく棚が埋められるよう生産・物流体制をまず整えることに注力しています。
――広大な中国市場を相手に2つの商品をどのように広めていくのか、生産体制も含めて教えてください。
現在は蘇州にある工場で生産していますので、販売も蘇州・上海を含む華東地域を中心に展開中ですが、来年度下期には天津(華北地域)、2023年度には広州(華南地域)に新工場が完成する予定です。華東、華北、華南と中国の三大経済圏に1つずつ生産工場を設け、各経済圏におけるサプライチェーンを構築していきます。各地域に対象となる消費者がおよそ1億人ですから、それぞれの経済圏で、1工場ごとに日本と同じ数のお客さまを相手に事業を展開していくイメージですね。
――明治は、日本のヨーグルト市場ではシェア4割超を誇っていますが、中国市場における貴社のプレゼンス(知名度)はどれくらいなのでしょうか。
まだほとんど知られていないというのが正直なところです。明治製菓、明治乳業の頃からそれぞれが中国で商品の生産・販売は手がけてきましたが、合弁会社を通じての事業だったこともあり、明治のブランドイメージをストレートにお伝えできていません。今回の中国進出は、独自資本での事業展開に切り替えての取り組みですので、「LG21」「R-1」の販売を機に、明治のブランドイメージ、特に健康ブランドイメージをしっかり伝えていきたいと考えています。
――日本の消費者の間では乳酸菌の機能性に対する理解も進んできましたが、中国ではどれほど理解が進んでいるのでしょうか。
沿岸部と内陸部ではまったく異なります。私たちが対象とする沿岸部の三大経済圏では、「ヨーグルトには整腸効果がある」という認識は定着しています。しかし、乳酸菌によって働きが異なるという理解はまだありません。ちょうど明治が「LG21」を発売した21年前の日本の市場環境に似ていますね。
一歩先行く価値を創造し、世界の健康増進に貢献する
――「LG21」「R-1」の中国進出をきっかけに、日本市場、海外市場それぞれに対しての今後の取り組みについてお聞かせください。
今回の中国進出は、日本のお客さまからの絶大なご支持があって実現しました。しかし、日本国内にもまだプロバイオティクス関連の商品を手に取ったことがない方もいますから、国内でも一層、商品の魅力を伝えていきたいと考えています。
明治は「常に一歩先を行く価値を創り続ける」ことを理念とし、地道な研究から日々生まれるシーズを、お客さまのベネフィットにつなげる商品作りを手がけてきました。今後はヨーグルトだけでなく、当社の持つ様々な事業領域、特にニュートリション(栄養)の領域で一歩先行く商品開発を手がけ、日本からアジアそして世界の人たちの健康増進に貢献してまいります。