情報化社会に必要な、論理的思考や問題解決力を育む
――KDDI「通信会社」パビリオンでは、5Gの電波を届ける基地局の設置計画を立て、通信によって未来の街をつくる「通信エリア設計士」の仕事が体験できます。それによって、どのようなことが学べますか。
まず、教育の現状についてお話したいと思います。かつての工業化社会における学校教育は、膨大な知識を習得し、問題を早く正確に解く学習に重点が置かれていました。組織の中で決められたことを正確かつ効率的に行い、覚えたことを正しく繰り返す能力が社会人に求められていたため、こうした勉強で培った能力があれば十分に仕事ができる時代だったのです。
しかし、今の情報化社会は「答えがない(正解が一つではない)」時代と言われるように、新しいビジネスや価値観が次々と生まれ、過去に学んだ知識や技術、経験だけでは通用しなくなっています。唯一の対処法は、試みと失敗を繰り返しながら解決策を見出していく「正しい試行錯誤をする」ということです。
「通信会社」パビリオンの職業体験でもトライアンドエラー(試行錯誤)が求められますが、それによって論理的思考や問題解決力を育むことができます。目的は、シミュレーター画面に映し出された街に、3種類の5G基地局を置いて設置計画を立てることですが、単純に置いていけばいいというわけではありません。
基地局にはいくつか種類があって、それぞれ電波が届く範囲が異なります。基地局がカバーする通信エリアを確認しながら、基地局を何度も動かして最適な設置場所を決めていくわけです。チームで協力して街全体の電波を整備するため、チームワークやコミュニケーションの大切さを学ぶこともできます。
動機づけ、学習方略、メタ認知の3つが大事
――デジタルネイティブの子どもたちにとって、通信はつながるのが当たり前、いわば空気や水のようなレベルのインフラになっています。その背景には通信会社や通信エリア設計士の存在があり、社会的に重要な役割を担っているわけですが、そのことを子どもたちが学ぶ意義とは何でしょうか。
多くの子どもたちは通信の仕組みを知らないようですから、こうした職業体験施設で学ぶことは大事だと思います。さらに、変化の激しい情報化社会では、生涯にわたって「自律的に学ぶ力」が求められますが、「通信会社」パビリオンの職業体験はその力を養うきっかけにもなります。通信をはじめ、インターネットやコンピュータの仕組みがどうなっているかなど情報社会のインフラへの興味がわき、自分でも学んでみようという意欲がわいてくるからです。
自律的に学ぶ方法を「自己調整学習」といい、次の3つの要素がポイントになります。
1つは、学習を始める「動機づけ」です。特に子どもにとってはエンターテイメントが効果的です。キッザニアでは、働くことの意味や社会の成り立ちを子どもたちが楽しみながら自然に理解することができます。単に楽しく学習するのではなく、楽しさの中に学びや気づきがあるんですね。
2つめは、自分に適した効果的な学習方法を選ぶ「学習方略」です。今日の仕事体験では、携帯電話に電波を届ける基本的な仕組みや5Gの基礎知識についてスーパーバイザーと呼ばれるスタッフからレクチャーを受けた後、各基地局の特性などを理解し、試行錯誤しながら基地局の設置計画を立てました。こうした体験型の学び方も学習攻略の一つです。
最後は「メタ認知」。自分の状況を正しく理解して「自分が何を理解し、何が足りないのか」などを把握し、次に学ぶべき点を明らかにすることです。
「通信会社」パビリオンでは、設置計画が完成すると、その計画に基づいて基地局を配置した街の様子や空にドローンが飛ぶ映像がモニターに映し出され、子どもたちは近未来の街の様子を体感できます。最後に、基地局の設置計画に応じた「5G基地局計画書」をもらえるのですが、これが「メタ認知」につながっていると思います。後で5G基地局計画書を見返すことが自分の思考や気づき、行動を客観的に振り返るリフレクションになるからです。そして、通信の仕事や仕組み、疑問に思ったことなどについて自分で調べたり親に質問したりすることが自律的な学びにつながっていきます。
「VUCA」時代を生きる子どもに、経験や機会を与える
――今は、世の中の変化が激しく、未来を全く予測できない「VUCA」と呼ばれる時代。子どもたちの生きる力を育むために、どのような教育が求められているのでしょうか。
子どもたちのワクワクする好奇心を引き出すような「STEAM教育」に取り組んでいこうというのが国の方針です。STEAMは、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・アート(Art)・数学(Mathematics)の頭文字をとった造語ですが、これらの5つの領域の横断的な知識の習得(探求心)と、物事を多面的に捉えて課題を見出す力や課題を解決する力、新しい価値を創造する力(創造力)を伸ばす教育を目指しています。このような能力を身につけていかないとAIに仕事を奪われかねません。
STEAM教育としてプログラミング教育なども始まっていますが、学校ではこうした力を養うカリキュラムがまだまだ少ないのが現状です。どんな大人に会うかによって子どもの将来が大きく変わることがあるように、どんな経験や機会を得るかによって子どもの将来が大きく変わることもあります。キッザニアの職業体験もその一つ。この体験を次なる体験や自律的な学びにつなげて、自身の可能性を大きく広げていってほしいですね。
――KDDIではSDGs(持続可能な開発目標)の考えに賛同し、目標4「質の高い教育をみんなに」の一環として「通信会社」パビリオンをキッザニアに出展しています。KDDIのこうした取り組みについてはどのように捉えていますか。
もちろん、これまでお話したように、自律的な学習の動機づけにもなるKDDI「通信会社」パビリオンの教育効果には大いに期待しています。さらに、「KDDIこどもの学び応援プログラム」では、自宅で無料体験できるオンラインプログラムも提供していますね。いつでもどこでも誰でも学べる機会の提供も社会的価値は大きいと思います。