法人向けの高速ブロードバンド光回線「NURO Biz」の提供を軸に、様々な法人向けICTソリューションを展開するソニービズネットワークス。同社はクラウド型の勤怠管理サービスで培ったノウハウを活用し、テレワークで働く従業員管理とともに、新型コロナウイルスの陽性反応者が発生した場合の対応までサポートする画期的なツールを開発し、無償で提供している。同ツールの名称は「somu-lier tool(ソムリエツール)」。事業責任者である渡邊謙人氏に話を聞いた。

在宅勤務者の管理をはじめ、新型コロナ陽性時の緊急対応も自動化

――ソニービズネットワークスが開発した「somu-lier tool(ソムリエツール)」はテレワーク(在宅勤務)下における従業員管理を円滑に進められるのに加えて、もしも社内で新型コロナウイルスの陽性反応者が発生した場合の対応も自動化できるそうですね。

【渡邊】ご指摘の通りです。まず、在宅勤務を円滑に進めていくうえでは、始業・終業の時間を従業員と会社側がお互いにフラットな関係で申告・把握できる連絡システムが必須となってきます。会社側からすれば、個々の従業員がポジティブに働けているか気になる一方、従業員側としては自分の仕事の評価に不安を感じ、ついつい働きすぎてしまう人も出てきそう――。そういったことのコントロールにも頭を悩ませているのではないでしょうか。

しかも、コロナ禍では従業員の健康面が特に気掛かりでしょうし、社内で陽性反応者が発生した場合の対応にも不安を感じているかと思われます。従業員側にしても、同じような不安を抱いているはず。言い換えれば、健康面まで会社側がしっかりと管理していれば、従業員も安心して仕事を進められるでしょう。

そこで、ソムリエツールでは在宅勤務における従業員管理をクラウド上で容易に行えるとともに、オフィス内の“密”を避けるための出社管理(※)や、従業員の体調チェック、陽性反応者が発生した場合の感染拡大防止策実行の自動化などが可能となっています。

※出社予約と出社率管理の機能は順次実装予定。

――「容易に管理できる」とのお話でしたが、具体的にはどのような操作でどういったことが行えるのでしょうか。

【渡邊】基本的には、各自がスマートフォンを操作して始業・終業の時刻、業務に就く場所、健康状態などを問診形式で自己申告することで、管理側は個々の従業員の状態を把握できます。同じ空間で働いているケースと違って上司が部下の表情などをチェックできませんから、体調や気分のチェックも毎日行って、在宅勤務に伴う機微な変化なども見逃さないように配慮しています。

そして、発熱した従業員が医療機関を受診し、新型コロナウイルスの陽性反応が出た場合はその申告がクラウド上に記録されるとともに、緊急対応的な措置を打つための分析が直ちに進められます。感染したと思われる日時を推定し、その際にどこで業務を行って誰と接触があったのかが表示されるのです。

該当時期に陽性反応者と接触した従業員が管理画面にリストアップされ、各々の接触時間や関わりの深さも視覚的にわかりやすく表示されるので、一目で濃厚接触者を特定できます。2020年春の緊急事態宣言下では、社内において一人でも陽性反応者が発生したら、全従業員の出社を一気に停止するような「0か100か」といった対策を打つしか術がありませんでした。しかし、今は業務へのダメージを最小限に抑えることも求められています。

そのためにも、陽性反応者の行動を速やかに詳しく把握することが必要です。社内の誰とどの程度の接触があったのかを確認できれば、人の出入りを止めるべき部署と通常通りの業務でも差し支えのない部署を的確に区別できます。

2枚とも「ソムリエツール」の陽性者管理用ダッシュ―ボード画面。ソムリエツールは、陽性者の接触履歴から、自動で(もしくは申告により)リスク者リストを作成し、リスク者へアラートを通知する機能を持つ。企業の管理者は、陽性者とリスク者を一括した「対象者」をダッシュボードで確認し、その後の経過状況を管理することができる。このように、陽性者確認時とその後の経過観察までの一連の流れを1つのシステム上で管理できるのが、ソムリエツールの特徴だ。

「第三波が到来する前の無償提供」が大命題だった

――依然として感染拡大が深刻化し、もはやテレワークが常態化してきただけに、企業にとっては非常に有益なツールですね。どのような経緯で開発に至ったのでしょうか。

【渡邊】お客様が安心して事業を継続させる一助となりたいという純粋な思いが発端です。当社も2020年3月2日から全社一斉でテレワークを実施して現在も継続中ですが、事前に着々と準備していたわけではなく、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化するのを踏まえて急遽対応したものです。当社は比較的円滑に移行できたものの、それでもいくつかの課題に直面したので、他社も様々な悩みや困難を抱えていたり、感染者(陽性反応者)が発生した場合の対応などに戸惑っていたりしているのではないかと考えました。

そこで、私が編集長を務めていたオウンドメディア「somu-lier(ソムリエ)」の読者を対象にテレワークに関する緊急アンケートを実施。同メディアは、総務をはじめとするバックオフィス業務従事者に特化したメディアです。

すると、個々の従業員における健康状態の報告・管理体制を特に確立していない企業が全体の約40%に達し、「手順がわからないこと」や「導入の余裕がないこと」などがその理由として挙げられていました。人員やコストの面で自社では報告・管理体制の構築やそのために用いるツールの開発がままならないという実態が浮き彫りになり、代わりに当社が提供しようとの結論に至ったわけです。

渡邊謙人(わたなべ・けんと)
ソニービズネットワークス株式会社
HR本部HR部採用課マネージャー
クラウド型勤怠管理システム「AKASHI(アカシ)」のプロジェクトマネージャーや、企業の総務担当者向けに特化したオウンドメディア「somu-lier(ソムリエ)」の編集長などを歴任。現在は人事部門で人材採用にも携わる一方、2020年11月末から提供が開始された「somu-lier tool(ソムリエツール)」の事業責任者を務める。

――多くの企業が切望していた画期的なツールでありながら、あえて無償で提供することにしたのは、どのような観点に基づいてのことでしょうか。また、開発に当たって特にこだわったのはどういったところですか。

【渡邊】先に述べたように、お客様の事業の成功の先に当社の成功がある、という当社の思いに端を発しているからです。「新型コロナウイルスに翻弄されている多くの企業が求めているサービスであるなら無償で提供して社会に貢献すべきではないか」と経営陣からも背中を押してもらえました。

トライアルの一定期間は無料というアプローチも考えられましたが、そうすると申し込む前に検討を行うことになってしまいます。速やかに普及させて困っている企業をサポートすることが大前提でしたから、その意味でも無償化は必然だとも言えます。しかも、そもそもこのツールは感染拡大が収束することをゴールに定めて開発したものです。

収束する日が訪れれば自然とその役目を終えるので、もともと長期的なビジネスに結びつくものだとは捉えていませんでした。

開発を進めるうえで最も強く意識したのは、同サービスをリリースするタイミングですね。企画が立案されたのは2020年の夏で、冬を迎える頃には感染拡大の第三波が到来することが懸念されていましたから、それまでには必ずローンチを果たしてお客様の事業の継続に少しでも貢献したいと考えていました。

その結果、2020年11月30日のリリースにこぎ着けた次第です。オウンドメディア名に由来する「somu-lier tool(ソムリエツール)」というサービス名にしたのは、テレワークや新型コロナウイルス感染への対応などに奔走する総務業務従事者をサポートしたいという思いからです。

企業規模を問わず、従業員の健康と安全を重視する姿勢が求められる

――新型コロナウイルス感染拡大に迅速に対応するため、急ぎリリースしたソムリエツールですが、実は以前から「健康経営」を強く意識したソリューションの開発に力を入れてきたそうですね。

【渡邊】当社の親会社であるソニーネットワークコミュニケーションズには、「従業員の健康を高めることが企業の生産性を向上させる」との思想で取り組んできた事業があります。一方、当社では主力事業の一つとしてクラウド型の勤怠管理サービス「AKASHI(アカシ)」というツールを展開し、企業の従業員がより働きやすい環境を整えるサービスを提供しています。

ご指摘の通り、当社は、新型コロナウイルス感染拡大の前から「働き方改革」の一環として従業員の健康にフォーカスを当ててきたと言えるでしょう。特にコロナ禍では働き方が大きく変わり、企業側は戸惑いの中で従業員の健康と安全を守りつつ、より働きやすい環境を整えることが求められています。

その意味でも、「健康経営」という観点から事業を進めてきたソニーネットワークコミュニケーションズ出身者や、「AKASHI」の事業に携わってきた人間が合同で今回のツールを立ち上げたのは有意義でした。

また、私は当社の人材採用にも携わっており、多数の就活生をオンラインで面接してきたのですが、「従業員の健康や安全のことをきちんと配慮している会社で働きたい」と考えている人たちが多いことを実感しています。そういった点に関しても、ソムリエツールが存在感を発揮できれば幸いです。

――完全な撲滅は非常に難しく、残念ながら「ウィズコロナ」の時代が続く公算が大きいですね。そうすると、今後もソムリエツールが重要な役割を担うことになりそうです。

【渡邊】感染拡大が峠を越した後も、以前とまったく同じように全従業員がオフィスに毎日出社するという状況に戻る可能性は高くなさそうです。その有効性も把握できたことから、一部ではテレワークが日常化することも考えられるでしょう。

そうなると、出社率の調整や勤怠管理などを行うツールは引き続き必要となってくるわけで、今後もソムリエツールが果たす役割は大きいと言えそうです。そのうえで、コロナ感染が収束した後もこのサービスの価値をきちんと提供できるような体制を確立できれば、マネタイズ(収益化)できる機会も訪れると考えています。

現状、ソムリエツールのユーザーは大企業が中心となっていますが、もはやテレワークの推進は中小企業にとっても共通の課題でしょう。しかも、多くの中堅・少数精鋭企業は在宅勤務者の勤怠面や健康面の管理などになかなか手が回らなくて困っているはずです。

テレワークを進めるうえで直面する課題や、従業員の健康管理上の問題はあらゆる企業に関わることです。規模の大小を問わず、より多くの企業にソムリエツールを活用していただけると考えております。