データを現場で生かすための文理融合型のカリキュラム
企業の生産性向上や経営戦略の策定、小売店におけるマーケティング、行政サービスの効率化──。まさに「社会のあらゆるシーン」でデータの利活用が進んでいる。立正大学の吉川洋学長は言う。
「21世紀はデータが社会や産業のあり方を変えていく、いわばデータの時代です。データの収集・整理・分析を行う“狭義のデータサイエンス”と並んで、分析結果を現場でどう活用するかという“価値創造”の視点が重要になる。本学ではこの価値創造に軸足を置き、データから新たな価値を生み出せる人材を育てていきます」
2021年4月、埼玉県熊谷市の熊谷キャンパスに開設する「データサイエンス学部」。定員は240名。深い知見をもとにデータサイエンスの先端分野を切り拓く専門家から、実社会で即戦力として価値創造に貢献する人材まで、さまざまなフェーズでデータとかかわるデータサイエンティストの育成を目指す。
「データサイエンスのスキルは社会、観光、スポーツなど幅広い分野で活用することができます。例えばスポーツで対戦データをもとに戦術を組み立てたり、入場者のデータをマーケティングに利用したり。このようにデータサイエンスを実務に役立てるには、それぞれの現場やビジネス全般についても理解しておくことが必要です。そこで本学では、そうした総合力を養う独自の文理融合型カリキュラムを導入しています」(吉川学長)
入学すると、まず情報科学、数学、AI、プログラミング、情報倫理、経済学といった科目によって、これから学びを進化させていくための強固な土台を形成する。その上で、統計学、応用的プログラミング、情報セキュリティといったデータサイエンスの基礎、さらに機械学習やビッグデータ解析といった応用を学修。同時に「価値創造基礎・発展科目群」の授業を通してビジネス、社会・観光、スポーツなど各分野への知見を深めていく。
学部長への就任を予定している経済学部経済学科の北村行伸教授は、その狙いをこう説明する。
「1年次からの段階的な学修によって数学の得手・不得手といったことに左右されることなく、データサイエンスの確かなスキルを修得し、現場で活かす力も鍛えていきます」
実際にデータを活用している企業や組織と連携し、インターンシップやフィールドワークを通して実践力を培っていくのも大きな特徴だ。加えて全学的に力を注いできたアクティブ・ラーニングの手法なども取り入れ、データを使った課題解決力を磨いていく。
「経済面でも社会的な面でも“正解が明らかでない課題”が非常に多い時代です。だからこそデータを通して問題の本質を見抜き、試行錯誤しながら解決への筋道を主体的に探っていく力が求められる。重点的なプログラミング演習、インターンシップでのスキルや実践力を鍛えながら、未知の課題に果敢に挑戦する姿勢を自分のものにしてほしいと考えています」(北村教授)
「データサイエンス」とは?
統計、文字、画像、音声──。さまざまな「データ」を処理・分析することで「有用な情報」を引き出すための学問。理系の視点からデータを解析し、文系の視点で「どう活用するか」を考察するなど、「文理融合型」の知識をもつデータサイエンティストが新たな仕組みの構築や課題の解決に挑む点が特徴だ。ビジネスやスポーツ、観光、ものづくり、医療、教育など、あらゆる分野でデータサイエンスの重要性は高まっており、その対象は拡大中。一方で需要は伸び続けているものの十分なスキルを備えた人材が不足しているといわれ、その育成が急がれる。
「キャリアにつながるデータサイエンス」を形に
学生の指導には統計、スポーツ、行政、観光、気象や環境など、データサイエンスの各分野で豊富な実績と経験を有する25名の専任教員があたる。
「データによる価値創造はあらゆる分野で求められています。ですから卒業後に進む道も限定されることはなく、これからも広がっていくでしょう。本学では“キャリアにつながるデータサイエンス”をキーワードに間口を広げており、多彩な分野の専門家が幅広いシーンでの活用を見据えた実践的な教育を行います。データサイエンスという言葉に少しでも関心のある学生なら、きっと自分が夢中になれるテーマを見つけてもらえると思いますし、もちろんそのためのサポートは惜しみません」(吉川学長)
さらに「日進月歩」のデータサイエンスの最新の動きに対応するため、卒業生とのネットワーク構築にも力を注いでいく。
「卒業生たちにも最新の知識の修得や情報交換の場を提供し、一層のスキルアップに役立ててもらいます。また卒業生たちからは現場で生じている課題や求められている技術・スキルについてフィードバックをもらい、カリキュラム編成に反映していく方針です。起業を志す学生・卒業生への情報提供や人材紹介なども行いながら、卒業生、在学生、教員を結ぶ“データサイエンスの情報ハブ”としての役割を果たしていきたいですね」(北村教授)
北村教授は、同学部から世界のビジネスシーンを牽引する企業が生まれてくることも期待している。
「データサイエンスを生かしたビジネスというのは、独自のアイデアをもったベンチャーが一気に世界の舞台に躍り出る、そんなダイナミズムにあふれています。挑戦をおそれないデータサイエンティストを育て、支援し、世界で戦える企業を生み出していく。日本の産業界の活性化にもつながっていくはずです」
1580年に設立された日蓮宗の教育機関を淵源とする立正大学は、石橋湛山氏による経済学部の設置、また社会福祉学部や地球環境科学部の設置など、時代の要請に応えながら、8学部15学科を擁する総合大学へと発展。9番目の学部となるデータサイエンス学部の開設と同時に、全学的組織のデータサイエンスセンターも立ち上げ、学部を横断した教育支援・共同研究や学外との連携もスタートする予定だ。
「本学が教育目標として掲げている“『モラリスト×エキスパート』を育む。”とは、広く深い教養としっかりとした芯を備え、自身の専門性を発揮して社会に役立てる人材だと考えています。このたび開設されるデータサイエンス学部でも、今まで以上に企業・地域・行政との連携を強化しながら、教員が学生の皆さんと一体となって新たな学びと研究の形をつくり上げ、社会の全方位における価値創造に貢献できる人材を輩出していきます」(吉川学長)