競争が激しい自動車タイヤ市場で、優れた性能とデザイン性で熱心なファンを獲得してきたTOYO TIRE。周囲の車とは一味違うデザイン性は車好きにとって大きな魅力だ。その高い開発力のベースには、3D技術を駆使したシミュレーションデータ管理システムなど最新テクノロジーがあった。

高い開発力を支える最先端の3D技術

1945年にゴム製品を製造するメーカーとして誕生したTOYO TIREは、国内のほか北米を中心に、欧州や中国、東南アジアなどでタイヤの販売、供給体制を構築しているグローバル企業だ。「TOYO TIRES」「NITTO」「SILVERSTONE」などのブランドでタイヤ事業を展開している。

タイヤメーカーにとって、自社ブランドの支持者を広げる活動は欠かすことのできない重要な施策となっている。TOYO TIREの顧客は単にタイヤ交換をしに来るだけでなく、同社の商品に愛着を持っており、ファンとしてタイヤを選ぶ人が少なくない。そういった顧客が同社に望んでいるのは、ハイスペックな機能やパフォーマンス、先進的なデザインであり、どんな天気・地形でも安全な運転が可能になる信頼感である。

そうした同社にも近年、大変化の波が押し寄せているという。

自動運転、電気自動車、ネットワークに接続するコネクテッドカーなどの登場によって、自動車業界は大きな変革期を迎えているからだ。めざましい技術進歩のなかで、タイヤの役割は単に車と地面をつなぐものではなくなった、と取締役常務執行役員デジタルイノベーション推進本部長の金井昌之氏は語る。

「タイヤはいまや一種のセンサーであり、ドライバーに有益な情報を提供するデバイスと考える時代に入っています。タイヤメーカーには素材、設計、生産技術の研究を進め、自動車のイノベーションを先取りできる環境づくりが必要です」

同社の開発力を支える最新テクノロジーの代表といえるのが、シミュレーションデータを一元管理するシステムのSPDM(Simulation Process and Data Management)だ。このシステムは「T-MODE」と呼ばれ、開発スピードの飛躍的な向上などの成果を生んでいる。例えば金型製造は、リードタイムが約25%も短縮できたというから驚きだ。

デジタルイノベーション推進本部副本部長の大石克敏氏は、その成果について次のように語る。

「従来は設計データや試験結果が部門ごとに保存され、有効活用できない面がありました。現在はデータ統合によってプロセスの全体像を把握できるようになり、設計の高度化・効率化が実現しています」

SPDMの開発では、ダッソー・システムズのプラットフォーム「3DEXPERIENCE®」を活用した。これは3D技術をベースとしたソフトウェアで、もともと設計部門が製品ライフサイクル管理(PLM)に導入していたものだ。

ダッソー・システムズは、持続可能なイノベーションを支援するグローバルリーダー。フランス最大手の企業向けITソフトウェア会社として、40年近く製造業の成長を支えている。

近年は3DEXPERIENCEプラットフォームの提供を通じ、人・モノ・社会の持続可能なイノベーションの実現に注力している。

TOYO TIRE株式会社
タイヤと自動車部品を製造販売するグローバル企業。国内のほか、北米を中心に、欧州や中国、東南アジアなどで幅広くビジネスを展開する。
ダッソー・システムズ株式会社
持続可能なイノベーションを支援するグローバルリーダー。フランス最大手の企業向けITソフトウェア会社として、40年近く製造業の成長を支えている。

直感的に使えてナレッジを共有できる

3DEXPERIENCEに着目した理由について、技術開発本部先行技術開発部部長の田中嘉宏氏は次のように語る。

「このプラットフォームを活用すれば、効率的かつ迅速にSPDMの技術が構築できると考えました。これによってシミュレーションの基盤技術や高性能計算技術を統合できたことは大きかったです」

T-MODEで重視したのは、設計者が直感的に使えるしくみ。一つのプラットフォームで実験情報などを扱える環境が整備され、高い操作性と効率的な設計プロセスが実現できたという。

設計者たちにも好評だ。技術開発本部OEタイヤ開発部担当リーダーの余合勇人氏は「3DEXPERIENCEはブラウザ上から各種データベースにアクセスでき、必要な情報を一つの画面に出せるところが使いやすい」と評価する。タイヤの仕様や性能からシミュレーションデータを検索でき、複数の結果を関連づけて管理することで、「他のエンジニアが何を考えて、どのように検討したかの理解にも役立つ」(余合氏)という。

ドライバーとレーシングカーの関係

3DEXPERIENCEを提供したダッソー・システムズとの関係は、”ドライバーとレーシングカー”に近いと大石氏は語る。

「開発者である私たちはドライバーであり、ダッソー・システムズはレーシングカーです。高性能のエンジン、車両、足まわりで技術開発の方向性をナビゲーションしてくれるので、私たちは適切な判断ができて、さらに技術を磨いていける。私たちの課題を理解し、相談に乗ってくれるのも助かります。個々の課題に、彼らのソリューションをマッチングしてくれたことにとても感謝しています」

金井氏も3DEXPERIENCEの活用についてこう評価する。「開発スピードが飛躍的に向上し、自動車業界のイノベーションに迅速な対応ができる基盤が整備できたことの意義は大きい。TOYO TIREのブランドに対するお客様の信頼感はさらに高まったと思います」

ダッソー・システムズの3DEXPERIENCEは、設計開発の枠を超え、経営の意思決定や事業戦略までもサポートするビジネス全体のプラットフォームだといえるだろう。