これからの時代に求められる技術とは
「科学技術とは文化である。いつも私はそうお話ししています。では文化とは何か。それは社会を持続的に発展させ、豊かにする人間の知恵にほかなりません。その意味で宗教や政治、国家という仕組みも文化であり、科学技術もまさにその一つです」と毛利氏は言う。
確かにテクノロジーの粋を集めた宇宙開発の中で生み出されたものが、今では多くビジネスや暮らしの中で利用されている。太陽光発電や空気清浄機、未熟児用の生命維持装置など、その例はさまざまだ。
「特にこれからは、人を感動させたり、幸せにしたりする科学や技術が重視されるでしょう。生活の道具であれば、日常に溶け込み、使う人の意思どおりに機能してくれる。実用性に加えて、私たちの心を豊かにしてくれる存在がますます求められるようになると思います」
そう語る毛利氏。実はアイロボットのロボット掃除機「ルンバ」、床拭きロボット「ブラーバ」の長きにわたるユーザーだ。初めてルンバを購入したのは2003年だという。
「アイロボットは火星探査ロボットの設計に携わった企業。そこで培われた技術が掃除機に応用されていると知り、興味を持ったんです。周囲の状況をとらえながら、自律的に動くルンバを見て、とてもよく作り込まれているなと感心したのを今も覚えています」
以来、同社の製品を複数台購入してきたという毛利氏に、今回最新のルンバ、ブラーバを体験してもらった。その感想は──。
「やはりずいぶん進化していますね。ルンバについては、何より自動ゴミ収集機が付属して手間が大きく軽減されました。本体に溜まったゴミを捨てる手間さえなく、自動で紙パックに吸い上げてくれるのはありがたい。また、ブラーバについても洗浄力と走行力がかなりアップしたように感じます。加えて今の製品は、スマホのアプリで清掃スケジュールや清掃モードをどこからでも操作できる。便利になりました」
NASAでの教えは企業活動でも重要
“Empower people to do more”をミッションに掲げるアイロボット。その基本にあるのは、ロボットにできることはロボットに任せ、人は人にしかできないことをやるべきという考えだ。それを実現するため、エンジニアやデザイナーをはじめ多様な人材が緊密に連携し、一丸となって独自の製品を追求している。
「ミッションを達成するにはチームワークが欠かせない。NASAでも、この当たり前のことを徹底して叩き込まれました。クルーにはそれぞれ役割があり、強みがある。だからコマンダーだけがリーダーを務めるのではなく、各自が自分の得意な分野ではリーダーに、それ以外ではフォロワーになり最高のチームで物事を進めていくのです」
そして、その中ですべてのクルーに求められるのが、“Big picture”と“Think ahead”の二つだ。「全体の中で自分のなすべきことを見いだし、先を見越して考え、行動せよ。空間軸、時間軸の双方で状況を見極めよということです」
今も毛利氏が大事にしているというこの行動原理は、企業活動においても重要なものに違いない。事実、アイロボットは1990年の創業以来、一貫して暮らし、そして社会の今と未来を見つめ、従来の常識を変えるべく事業を展開してきた。
「今うまくいっているから、このままでいいという発想では時代から取り残される。その意味でアイロボットの姿勢に共感します。時が経てば必ず環境は変化する。生き残るには、環境を変えるか、環境に適応する術を身につけるか、どちらかなのです」
現在アイロボットは、家の掃除を楽にするだけでなく、多様なデバイスを連携させることで生活のニーズに応え、快適な生活を実現する未来を描いている。同社が持つ家の間取りや状況を把握する空間認識の技術。これによって、スマートホームの進化を後押ししたいと考えているのだ。
「テクノロジーという文化が、私たちにどのような感動を与えてくれるのか。スマートホームの未来も楽しみの一つです。科学技術が発展する原動力は、私たちが描く“夢と想像力”。さらに人間の“創造力”がその可能性を広げる大きな力になります。アイロボットが掲げるミッションになぞらえれば、“Empower people to be happier”。そうした新たなアイデアや製品が登場することを私も期待しています」
毛利さんが使った「ルンバ」と「ブラーバ」
●ルンバ i7+(写真右)
スマートマッピング機能で部屋の環境を学習して記憶。最適なパターンで清掃する。クリーンベース(自動ゴミ収集機)を備え、本体のダスト容器のゴミを自動で排出。ダスト容器約30杯分のゴミを収納する。
●ブラーバ ジェット m6(写真左)
ルンバ i7+と同様に、スマートマッピング機能を搭載。ジェットスプレーが汚れやベタつきを浮き上がらせて拭き取る。障害物を感知して動くので、家具や絨毯、壁が濡れる心配はない。