対面営業が難しいウィズコロナ時代を迎え、営業効率を上げるための顧客管理の重要性がますます高まっている。経済・ビジネスの環境変化を踏まえ、企業は顧客情報のデジタル化をはじめ、成長の原動力となるDX(デジタルトランスフォーメーション)にどう取り組むべきか。日本を代表する経済学者、伊藤元重・東京大学名誉教授(学習院大学教授)にインタビューした。

顧客情報をきちんと蓄積していくことの重要性が増している

――コロナ禍によって経済やビジネスのトレンドにどのような変化が起きていますか。

今の時代、経済やビジネスを活性化する原動力は何かというと、やはり「デジタル技術」です。世界を見渡しても力強い成長を続けている企業は、デジタル技術をうまく活用してビジネスや組織、社会に変革をもたらしていますね。これが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。

対して、日本の企業はデジタル技術の活用に総じて保守的で、「技術は技術、経営は経営」という意識が強く、諸外国に比べてDXはかなり遅れているのが現状です。しかし、こうした状況が一変するかもしれません。コロナ禍によって経営環境が厳しさを増す中、「いよいよDXに真剣に取り組まないと生き残れないのではないか」と危機感を募らせる経営者が増えているからです。

実際、ウィズコロナの環境になって規制が厳しい医療でもオンライン診療が始まったように、いろいろな分野でデジタル化が加速しています。大学もオンライン授業となり、学生はZoomが使える環境がないと授業を受けられません。同じように企業もリモート勤務や遠隔会議などが行える環境がないとビジネスに支障が出てくるでしょう。

伊藤元重(いとう・もとしげ)
東京大学 名誉教授
学習院大学 国際社会科学部 教授
1951年生まれ。1974年東京大学経済学部卒業。1979年米ロチェスター大学大学院経済博士号取得。専門は国際経済学。東京大学大学院教授を経て、2016年4月より学習院大学国際社会科学部教授。同年6月より東京大学名誉教授。ビジネスの現場で、生きた経済を、理論的観点を踏まえて鋭く解き明かす「ウォーキング・エコノミスト」として知られ、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」などメディアでも活躍中。『入門経済学』『ゼミナール国際経済入門』など著書多数。

――遠隔会議が急速に広がっていますが、企業にとってもメリットは大きいですね。

我々の仕事でも遠隔会議が増えています。先日、新型コロナウイルスのアジア経済への影響に関する国際会議の招待メールがオーストラリアから届いたのですが、「来週火曜日の日本時間20時にZoomで会議を開くから参加してほしい」というものでした。参加者を見ると、米国、中国、インドネシアなどの要人で、元財務大臣など錚々たる顔ぶれです。以前なら、ホテルや飛行機の予約、人の移動が必要ですから、同じような会議を開くには半年前にスケジュールを立てなければならなかったでしょう。それがこれほど簡単にできてしまうのですから、企業においてもビジネスのスピードがグンと加速したはずです。

ただし、すべてオンラインで済むかというとそうではない。アイデアの創出や課題解決、新規開拓など、膝を詰めたディスカッションが必要なケースもありますから、オンラインとオフラインの使い分けが大切です。また、オンラインで初めて会う相手とミーティングや商談を行う場合はつながりのある人からの紹介などの工夫も必要。そういう意味では、企業情報・人脈を営業担当者が個人で抱えてしまうのではなく、企業の資産として使えるようにデータベース化することが重要です。

遠隔会議やオンライン授業を経験してみてわかったのは、単に通信環境が整っていればいいというものではなく、相手の基本情報が不可欠ということ。例えば、オンライン授業でも、どのくらいの知識を持つ学生が参加しているのかがわからなければ、授業は成り立ちません。企業の営業活動においても、オンラインかオフラインかに関係なく、まずは顧客の基本情報をしっかり整えておくことが必要です。

企業では今、コロナ禍の影響によって名刺交換が大幅に減ったうえ、オンラインだと名刺交換はしないので相手の情報が収集できていないということが起きているそうです。しかし、対面営業がやりにくいウィズコロナ時代だからこそ、オンラインでもオフラインでも顧客情報の入り口となる名刺情報をきちんと蓄積していくことが大切です。

名刺情報のデジタル化がビジネスチャンスを拡大

――その顧客情報の整備に法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」を利用する企業が増えていますが、名刺管理をすることでどのような効果が生まれるのでしょうか。

日本では、顧客情報を一から集めるというよりは、商習慣に組み込まれている名刺交換をうまく活用しています。Sansanでは、オンラインで名刺交換できる機能もリリースしていますね。

そのようにして得た顧客情報・人脈をデジタル化する意義は非常に大きい。例えば、米国などでは百貨店やスーパーで「電子レシート」の取り扱いが始まっています。電子レシートとは、スマートフォンなどで受け取れるデジタル化されたレシートのこと。消費者にとっては支払い記録を簡単に残せるほか、紙のレシートで財布がかさばらなくて済むといったメリットがあります。販売店にも大きなメリットがあり、それは一度買ってもらって終わりではなく、顧客との関係を継続できること、さらに蓄積した顧客の購買データをマーケティングに活用できることです。紙のレシートをデジタル化することによってビジネスチャンスを広げることができたわけですね。

同じように名刺をはじめとした顧客のアナログ情報をデジタル化することによって「同僚や他部署の社員が持っている顧客情報を利用できるようになる」といった情報共有の効果が生まれ、ビジネスチャンスを広げることができます。さらに、前述したように営業担当者が個人で抱えがちな人脈も企業の資産として蓄積していくことが可能になります。

もちろん、DXを進めていくためにも、まずはアナログ情報のデジタル化が必要です。こうした顧客情報・人脈のデータベース化や活用などをスムーズに進められるのが、Sansanの魅力といえるでしょう。

データベース化した「顧客情報・人脈」を企業の資産として位置づける

――ウィズコロナ時代に営業力を強化するには、顧客との関係性を構築・管理するCRMの考え方がより重要になってきますね。

ビジネスで重要なのは、1回会ったら終わりではなく、その後もコミュニケーションをとりながら取引を続け、顧客情報を更新・蓄積していくことです。

最近注目されているのは、製品やサービスの使用期間などに応じて料金を課すサブスクリプション型ビジネス。例えば、タイヤメーカーはタイヤを売るのではなく、タイヤの供給とメンテナンスを一括で請け負う企業向けのサブスクリプション・サービスを始めています。このビジネスのメリットは、顧客と情報を共有してコミュニケーションをとりながら、ニーズを吸い上げてサービスの価値を高めたり新たな提案を行ったりすることができるようになることです。コミュニケーションをとりながら顧客情報を蓄積していけば、このような効果が期待できます。

――これからDXに取り組んでいこうという経営者が増えているそうですが、経営者は何を心掛けるべきでしょうか。

日本の企業の特徴としてよく挙げられるのは、「現場が頑張って課題を解決している」ということです。現場力で臨機応変に対応できるという強みがある反面、欧米の企業のように戦略的に一つの方向に突き進むというのは得意ではありません。しかし、顧客管理やCRMは、経営者がシステムを整えて方針を明確に示し、組織や営業担当者を一つの方向性に向かわせるように戦略的に運用すべきです。なぜかというと、「どの企業をターゲットに、どういう情報を集め、それをどのように活用していくか」という目的を定めて情報収集するのが最も効果的で効率がいいからです。

そして、持続的な成長を実現するため、データベース化した「顧客情報・人脈」を企業の資産として位置づけて価値を高めていくことが重要です。私自身、研究者として大切にしているのは好奇心と現場主義で、経済界の方たちと積極的に関わり、人脈を広げてきました。その結果、ビジネスの現場から多くのことを学ぶことができ、政府の経済戦略会議などの委員や企業の社外取締役などの依頼も受けるようになったのです。優秀な営業担当者ほど、ビジネスでサポートし合えるような人脈を築いているもの。そのような人脈の蓄積は企業にとって貴重な資産となるはずです。

顧客データが充実するほど、Sansanが提供している様々な機能がより効果を発揮することでしょう。このような経営戦略に基づく顧客管理のデジタル化が成長の原動力となるDXにつながっていくのです。

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法人向けクラウド名刺管理サービスであるSansanは、名刺をスキャナーやスマートフォンアプリで読み取るだけで、独自のオペレーションシステムによって名刺情報を正確にデータ化できるサービスを展開。企業の様々な課題を解決し、働き方を変えるDXをサポートしている。

緊急事態宣言後、商談のオンラインシフト化が進む中、重要な顧客データソースである名刺交換が激減している状況に着目。この結果、企業の経営に影響を与えるような「顧客データ危機」が起きていることを危惧し、オンラインでもオフラインでも顧客情報を活用することを見据え、管理していく「ハイブリッド顧客基盤」を支援している。

具体的に紹介しよう。例えば、オンライン名刺。相手にオンライン名刺のURLを伝えるだけで、誰とでもオンライン名刺交換ができる。これにより、オンライン時代におけるビジネスの接点情報を正確に蓄積し、これからの営業戦略に活用することができる。

Sansanは、オンラインシフトによる商談の実態と変化に関する調査や、意識調査などの調査資料を豊富に揃えている。ニューノーマル時代でも、顧客と関係を築き、人脈を最大限活用するインフラの導入や、DXの最初の一歩を検討する上で、下記の調査データを参考にしてはいかがだろうか。