渋谷の再開発における大型プロジェクトの一つ、「渋谷スクランブルスクエア」が11月1日にいよいよオープンする。その中に、感度の高いビジネスパーソンをはじめ幅広い層から注目を集める施設がある。会員制の共創スペース「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」だ。いったいどのような場所なのか――。運営する渋谷スクランブルスクエア(株)の野村幸雄氏に話を聞いた。

新規事業のタネを見つけるのに絶好の場

――「SHIBUYA QWS」の概要から教えてください。

【野村】渋谷スクランブルスクエアの15階にイベントスペースやワークスペース、サロンなどを設け、会員の方たちがフレキシブルに利用できる環境を整備します。渋谷駅直結の利便性の高さ、広さ約2600㎡というゆとりの空間もさることながら、特徴の一つは会員の幅の広さです。ビジネスパーソンのほか、クリエーターやアーティスト、また行政職員、研究者、学生なども対象。さらに、法人もコーポレートメンバーとして会員登録が可能です。

200人気規模のイベントスペース「スクランブルホール」。3面のスクリーンや音響・照明、控室を備え、セミナー・イベントなどに活用できる。
SHIBUYA QWSの中心に位置する「クロスパーク」。オープンな空間で、個人作業や打ち合わせの場として利用可能。壁にプロジェクターを投影してワークショップやトークセッションの場としても活用できる。
可動式のテーブルやホワイトボード等を備えるワークスペース「プロジェクトベース」。さまざまなプロジェクトに合わせた活動を行うことのできる自由度の高い空間。
落ち着いた居心地の良い「サロン」。レストランとしての利用はもちろん、ゆったり座れるソファや個室を備えており、打ち合わせやクローズドな商談にも利用できる。

最近は、企業がフューチャーセンターやイノベーションラボを開設し、自社のリソースでスタートアップ企業などをサポートする例も増えていますが、「SHIBUYA QWS」は既存の共創空間と比べていっそうフラットでオープン。プロジェクトの規模や内容に枠はなく、文化や遊びも含めて新たな価値を発信していきたいと思っています。事業の成長支援も行いますが、大事にしているのは「0から1を生み出すこと」です。

一方で、渋谷には多くの生活者が暮らし、商業施設、鉄道、ホテルなども揃っています。テストマーケテイングや実証実験にも最適なエリアですから、その強みを生かし、サービスや商品の社会実装も強力に後押ししていきたいと考えています。

――すでに会員の募集が始まっているとのことですが、反響はいかがですか。

【野村】おかげさまで順調に登録者数が増えており、企業の新規事業開発部門やイノベーション担当の方たちにも興味を持っていただいています。また法人会員についても、通信、金融、製造業など多様な業種が関心をお持ちです。

背景にあるのは、ビジネス環境や社会の急速な変化ではないでしょうか。今の時代、どんな企業も自社のコアビジネスが一気に縮小したり、なくなってしまうリスクを抱え、新たな事業の創出が必須ともいえる状況です。しかし自社だけでそれを実現するには限界がある。そこで、社内にはない知識や技術、価値観を持つ人たちと交流できる場が求められているのだと思います。お話ししたとおり、「SHIBUYA QWS」の会員は極めて多彩。大学での先端研究を含め、新たな知見と出会い、連携を模索するのに絶好の場となっています。

ただ会員の方々にお伝えしたいのは、「SHIBUYA QWS」がイノベーションそのものより、“問うこと”を大切にしているという点です。「QWS」とは、Question with Sensibilityの頭文字。「問いの感性」を意味しています。

――なぜ、“問うこと”に焦点をあてたのでしょうか。

【野村】「問いの感性」というと哲学用語のようですが、そうではなく、身近な生活やビジネスの中にある問題点や不便さに、「なぜ」「どうして」と問いを投げかけ、それによって解決すべき課題の本質を発見していただきたいというのが、「SHIBUYA QWS」の基本コンセプトです。

野村幸雄(のむら・さちお)
渋谷スクランブルスクエア(株) SHIBUYA QWS ディレクター
2001年、東京急行電鉄に入社し、財務部にてファイナンス業務を担当。2010年、東急百貨店へ出向し、同じくファイナンス業務を担当。2014年、東京急行電鉄都市開発事業本部渋谷開発事業部にて渋谷スクランブルスクエアの開発を担当。2018年に渋谷スクランブルスクエアへ出向。

企業の新規事業開発の担当者などとお話しすると、「会社から、イノベーションを、新しいビジネスを、と発破をかけられるが簡単にはいかない……」といった声をよく聞きます。考えてみれば当然で、イノベーションの前には解決すべき課題がなければなりません。ところが現在、多くの企業は先にお話したような将来への危機感から、「何とかイノベーションを」とそれ自体が目的化していまっている側面があるように思います。

また、課題が複雑化、潜在化しているという状況もあります。今の時代、個人の考え方も多様化し、誰にとっても明らかな課題というものが見いだしにくくなっている。そこで力を発揮するのが、まさに「問うこと」だと私たちは考えています。異なる知見やアイデアを持つ人たちが、一つの事象をいろいろな角度から眺め、問うことで、これまで見えなかったものが見えてくるのではないでしょうか。

――「SHIBUYA QWS」に関心を持つ企業は、事業創出のほかにどんな効果を期待していますか。

【野村】“人材育成に役立てたい”との声をいただいています。今、リベラルアーツ教育などに目を向ける企業が増えていますが、社内で仕組みをつくるには相応の投資が必要です。その点、各種プログラムが用意された「SHIBUYA QWS」なら、予め環境が整っている。座学ばかりでなく、ワークショップやフィールドワークなどさまざまなプログラムを「出会う」「磨く」「放つ」という3つ切り口で提供していきますから、人材育成にも大いに貢献する場だと自負しています。

また、優れた人材を発掘する場としての価値を見いだされている企業もあります。「SHIBUYA QWS」は東京大学、東京工業大学、慶應義塾大学、早稲田大学、東京都市大学とすでに連携事業協定を結んでおり、今後はさらなる拡大も目指しています。学生も主要な会員ですから、次世代を担う人材が多く集まる場となるに違いありません。

――「SHIBUYA QWS」のオープンに際し、読者にメッセージをお願いします。

【野村】会員の皆さんの活動を支える施設の空間設計、内装デザインにもかなりこだわっていますから、ぜひご覧いただきたいというのが率直な思いです。本来の用途ではない素材を壁材や床材に使ったり、何十年も前の家具に手を入れて設えたり……。「リフレーミング」をコンセプトに、空間に“違和感”をちりばめることで、訪れた人の感性を刺激するつくりにしています。

多様性の街といわれる渋谷から、“問うこと”を武器に、ぜひ世界に羽ばたくような企業、新たな価値を生み出すお手伝いをしたいというのが私たちの思いです。ハード、ソフトの両面で独自性を追求したこれまでにない共創スペース「SHIBUYA QWS」。多彩なプログラムに加え、例えば連携のアレンジや人材の紹介など、できる限り会員それぞれの要望にも応えていきますので、存分にご活用いただければと思います。

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