端正な日本刀を鑑賞し、竹灯籠が足下を照らす夕暮れの日本庭園をそぞろ歩く──。7月某日、東京・墨田区の刀剣博物館と旧安田庭園で、各国の大使館や国内外企業などから約100人を集めたイベントが執り行われた。参加者は日本の刀剣の美しさに見惚れ、東京の地酒や食材に舌鼓を打つなど、この場でしか味わえない“特別な一夜”を満喫した。
日本らしさ、東京らしさを感じさせる歴史的建造物や文化施設などを会議やレセプションの会場、いわゆる「ユニークベニュー」として利用する取組が注目されている。このパーティーは、東京のユニークベニューの活用例を示すショーケースイベントとして、東京観光財団が初めて実施した。
大手電機メーカーの催事担当者は「日本の刀剣文化は海外でも人気。新製品発表会などの会場にも良いと思います。絵になるスポットが多く、来場者によるSNSでの拡散もありそうです」と期待を寄せる。また、米国に本社を置くIT企業の日本法人の担当者は「品格があり、エグゼクティブだけを招いたクローズドパーティーなどにもふさわしい」と絶賛していた。
“特別な体験”の提供がMICE誘致の切り札になる
近年、MICE(Meeting〈企業系会議〉、Incentive〈企業の報奨・研修旅行〉、Convention〈国際会議〉、Exhibition〈展示会〉の頭文字を取った総称)を成功に導く重要なファクターとされているのが、来賓に特別な“時間”と“体験”を提供するユニークベニューの活用である。
欧米ではイギリスのセントポール大聖堂やフランスのルーブル美術館など、その国の歴史と文化を感じさせるまさに“ユニーク”な施設が場所として登録・利用され、好評を博している。
「MICEの誘致をめぐって世界の都市間で競争が激化しています。利便性や安全性などはもはや大前提。そこで東京の存在感を示していくには、魅力的なユニークベニューの活用が不可欠です。東京には、神社仏閣や庭園など、世界の人々を惹きつける素晴らしいベニューが数多くあります。国際会議や報奨旅行などのおもてなしには最適の会場だと考えています」。東京観光財団コンベンション事業部次長の藤村博信氏はこう話す。
「今後の課題は、東京の持つ能力をいかに発揮するかです。日本は諸外国に比べてユニークベニュー活用になじみが薄く、前例も少ない。そこを解決し、伝統と最新技術が融合している東京の魅力を体感していただけるよう、施策を打っています」
四季折々の利用例を年間を通じたイベントでPR
そこでユニークベニュー活用促進の一環として東京観光財団が始めたのが、冒頭の「ショーケースイベント」の実施である。
「日本ではまだユニークベニューの歴史が浅く、歴史的建造物の活用イメージがわきにくいのも無理はありません。飲食提供のスタイルやおもてなしの方法に具体例があると、自社での活用を考えやすくなるはず。実際の会議やパーティーを想定したショーケースイベントが、各企業や団体のヒントになればと思っています」と藤村氏は話す。
ショーケースイベントは、7月の刀剣博物館を皮切りに、10月に柴又帝釈天・参道商店街神明会、12月に旧前田家本邸洋館、来年3月に清澄庭園と場所を変えながら四季折々に開催していく予定だ。
さらに、昨年度はユニークベニューを活用するためのワンストップ総合支援窓口も設置した(記事下)。これまでは博物館などでのイベントを企画した場合、主催者が個別に施設管理者へ問い合わせ、調整する必要があったが同窓口ではその受け付けを一本化。ユニークベニューでのイベント開催を企画する主催者に対し、施設の紹介やイベントプランの提案、施設管理者との細かな調整など、イベントの開催まで切れ目なくサポートする。「東京観光財団のノウハウとネットワークを生かしてアドバイスを行います」と藤村氏は言う。
大きな可能性を秘めた東京のユニークベニュー。現在、パンフレット・WEBサイトの掲載施設数は58カ所にまで拡大し、博物館や美術館、劇場やギャラリーなどバラエティに富んでいる。東京2020大会に向けて話題が豊富な東京で、特別な体験ができるユニークベニューの注目が高まるのは必至。満足度の高いレセプションや催事旅行を企画するなら、活用しない手はない。
イベント開催の総合的な支援を行う「TOKYO Unique Venues」
東京観光財団では、イベント開催の総合的な支援を行う窓口「TOKYO Unique Venues」を開設し、ユニークベニュー活用を後押ししている。主催者等からの問い合わせや施設の紹介、イベントプランの提案、イベント内容に応じた事業者の紹介など、開催に至るまでの各種調整などをワンストップでサポートする。
WEBサイトでは都内のユニークベニューやプライスリストなどを確認できる。