<対談>田中亮大(Marketing-Robotics社長)×小山 昇(武蔵野社長)

業種、業態を問わず、市場での競争が激化する中、新たな顧客を開拓するマーケティング活動は企業にとってますます重要になっている。しかし、それをサポートするMA(マーケティングオートメーション)ツールへの認知度はまだ低い。MAツールの真価や経営者が持つべき視点について、自社開発の「マーケロボ」を提供するMarketing-Roboticsの田中亮大社長と、700社以上の中小企業の経営指導を手がける武蔵野の小山昇社長が語り合った。

「扱える人材がいない」に応えるMAツール

マーケティングを効率化すれば人にしかできない仕事に注力できる

田中亮大(たなか・りょうだい)
Marketing-Robotics株式会社
代表取締役

外資系製薬会社、日本の社長.tvの取締役(営業統括)、ベルフェイス社の副社長などを経て、2016年にタクセル株式会社(現Marketing-Robotics社)を設立。

【田中】当社はオリジナルの「マーケロボ」を通じて、見込み客へのコンタクトの効率化や潜在的な顧客の育成を支援しています。ただMAツールというと、「合併、買収の道具ですか」とおっしゃる経営者の方も多い。どうすれば関心を持ってもらえるでしょうか。

【小山】関心はないですね(笑)。もちろん経営者は皆、どうすれば顧客を開拓できるか、利益を上げられるか考えています。でも大事なのは“結果”であって理屈じゃない。マーケティングの概念や手法を説明しても響きません。

【田中】なるほど、そうですね。その意味では当社の「マーケロボ」を導入した企業は確かな成果を上げています。3カ月で利益が倍増した会社、導入15分で契約を得た会社もあります。ただMAツールに興味を持たれても、特に中小企業では「うちには扱える人材がいない」というところが多いんです。そこで私たちは「マーケロボ」自体は無料で提供。シナリオの設定やコンテンツの作成など、ツールの運用を請け負い、その料金をいただいています。

【小山】いいビジネスモデルだと思いますよ。中小企業は自分の不得意な分野に人材を割く余裕はないんです。私たち武蔵野も、ITを積極的に導入していますが、アウトソーシングできる部分は最大限そうしています。手間をかけてシステムに詳しい人材を育てるのは非効率。経営資源をいかに最適な形で配分するかはトップの大事な仕事です。

【田中】おっしゃるとおりです。ITベンダーには「システムを提供して、後はお任せ」という企業もありますが、当社は“商談の設定”というMAツールの役割が果たされるよう丁寧にサポートし、さらには私自身の営業マンとしての経験を生かしてインサイドセールスのノウハウも提供しています。つまりマーケティングの仕組み化が当社の役割。顧客情報などが個々の営業マンの頭の中だけにしかない状態だと、辞められてしまったら終わりなので。

【小山】そこですよ! それを最初に言わないと。多くの中小企業が失敗するのは、まさに仕事が属人化してしまって、誰が何をやっているかわからなくなってしまうから。そして優秀な営業マンはお客様を抱えて独立してしまうんです。そうならないために、しっかり情報を共有して、人が変わっても営業を継続できる体制をつくっておかなければならない。これは極めて重要なことです。

中小企業がIT投資をすべき理由とは

「現場にしか真実はない」経営者はそのことを意識すべき

小山 昇(こやま・のぼる)
株式会社武蔵野
代表取締役

1985年武蔵野入社、89年から現職。2001年から同社の経営の仕組みを紹介する「経営サポート事業」を展開。700社以上の会員企業を指導している。

【田中】Marketing-Roboticsは、私が起業に携わった3社目の会社です。過去にはビジネスのデジタル化をとことん追求する仕事もしてきましたが、その中で“人対人”のリアルなコミュニケーションの大切さも強く感じるようになりました。「マーケロボ」も、非効率だったマーケティング活動を刷新し、一方で人にしかできない商談などの時間を増やしてほしい。そうした思いで開発しました。

【小山】中小企業がなぜIT投資をすべきか。それは端的に、デジタル化によってアナログ的な仕事をする時間を増やすためです。相手の感情をとらえたり、こちらの思いを伝えたり、人には人にしかできないことがあるのです。例えば私は、今も率先して現場に出向きます。それは、現場にしか“真実”がないからです。社長が部屋にこもっている、穴熊社長の会社は絶対うまくいきません。

【田中】私も営業を長く経験してきました。確かに現場では、義理や人情が大事になることもありますね。「マーケロボ」の開発にあたっても、何をデジタル化して、何を人が担うのか。その辺りはかなり意識しました。

【小山】100%デジタル、100%アナログというのは、どちらもナンセンス。要はいかに組み合わせるかということです。

販売戦略以上に人材戦略が大事に

【田中】一方、デジタル化で仕事のやり方を変えることは、残業の削減など従業員満足度の向上にも貢献します。

【小山】武蔵野では全社員にタブレットを支給し、社内システムもクラウド化して業務を効率化した結果、月に平均76時間あった社員の残業時間が17時間にまで減りました。それで人件費を1億7000万円ほど削減できたため、7000万円を賞与として社員に還元し、残りをさらなる業務環境改善のための投資に回しています。その甲斐あって、離職率は非常に低い。

【田中】雇用環境の改善は、当社の事業にとっても重要なテーマです。多様な働き方を実現し、新しい雇用や長く働ける環境を創出したいと考えています。

【小山】今の時代は、販売戦略以上に人材戦略が大事だと私は常々言っています。労働人口が減少する中、特に中小企業はなかなか人が採れない。特別に優秀でなくても、まずまずの人材を揃えて、しっかり戦力化していく。これができない企業は勝ち残れません。

【田中】当社も、「マーケロボ」という手段を使って、小山社長のおっしゃった経営資源の最適な配分や人材戦略のお手伝いができればと考えています。

【小山】ただ経営者が関心を持つのは、初めに言ったとおり儲かるか、儲からないか。ぜひそこを意識してください。

【田中】わかりました。いかに“結果”につながるかですね。さらに実績をつくってアピールしていきたいと思います。今日は、本当にありがとうございました。