持続可能な社会の実現へ世界的に注目が集まるESG投資

今、金融の世界においてESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)といった言葉を聞かない日はない。日本においても、サステナビリティを組み込んだ投資の普及が求められる。

各地で頻発する異常気象や難民、子どもの貧困など、国際社会は諸問題の解決を目指しSDGs達成に向けて動き出している。金融機関も例外ではない。

世界の大手機関投資家は、ESG投資へと軸足を移している。ESGの要素を投資の意思決定に組み込むことなどを求める国連の「責任投資原則」(PRI)に署名した機関投資家数は2018年末時点で2000超に達した。世界最大規模の運用資産を有する日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も名前を連ねている。

ESGという評価軸を持った機関投資家には、新たな資金の受け皿が必要だ。そこで注目されているのが、グリーンボンドやサステナビリティボンドなどを活用したESG金融である。これらの債券は、調達資金の使い道を環境改善効果のある事業や、持続可能性のある社会づくりに貢献する事業に限定して発行され、世界では大きな潮流になりつつある。

気候変動ファイナンスに関する国際NGO、CBI(Climate Bonds Initiative)によれば、 18年の日本でのグリーンボンド発行量は前年比22%増の約41億ドルに上った。しかし、まだ世界との差は大きい。同年、世界全体でのグリーンボンドの発行量はCBIによれば約1676億ドル規模に達している。先行する欧米市場では、発行体が多様化し債券の“質”を評価するフェーズに入っている。環境改善性であれば、該当事業がCBIの厳格な基準を満たしていることなどが指標の一つとなる。

高まる投資ニーズをつかみ安定した資金調達を目指す

ESG投資の拡大を考慮すると、今後も安定した資金調達を考えていくうえで、日本でもグリーンボンドやサステナビリティボンドなどを活用した調達は不可避だ。脱炭素化やSDGs推進が世界的な潮流となっていくなかで、遅れを取っている企業は成長の可能性が低い──世界の投資家からはそう判断されるだろう。

日本は欧米に比べてESG投資の機会が不足しているといわれてきたが、グリーンボンドでは2017年に鉄道建設・運輸施設整備支援機構が大型起債を実施しており、市場は広がりつつある。成功事例を積み重ねて、多様な機関や企業がグリーンボンドやサステナビリティボンドを発行していくことで、国際資本市場における日本の存在感が増していくはずだ。次では、国内の起債をリードするであろう、サステナビリティボンドの先行事例を紹介する。


交通ネットワークの整備を通じてSDGsへ貢献していく

国内初の国際認証を取得しサステナビリティボンドを発行/鉄道建設・運輸施設整備支援機構

日本全国の交通ネットワークを整備・支援している独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)がこのほど、国内初の国際認証を取得したうえでサステナビリティボンドを発行する。SDGsへの注目が高まる中、今回の起債を決めた狙いは何か。北村隆志理事長に聞いた。
北村隆志(きたむら・たかし)
独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構
理事長

──鉄道建設・運輸施設整備支援機構の事業概要と、SDGsへのかかわりをお聞かせ下さい。

【北村】当機構は鉄道・船舶による交通ネットワークの整備・支援を総合的に行う唯一の独立行政法人です。採算性から事業化しにくいものの、長期的には社会に貢献する交通ネットワークを整備してきました。最も古い事例の一つが、北海道と本州を結ぶ青函トンネルの整備です。世界でも前例のない困難な工事を手がけたことで、今に続く交通路が生まれたのです。

2003年に日本鉄道建設公団と運輸施設整備事業団が統合し現在の組織となりました。これまで約3650kmの鉄道を整備、約4000隻の船舶の建造を行ってきました。我々が整備した鉄道や船舶を、民間事業者が運営しています。

当機構では「明日を担う交通ネットワークづくりに貢献します」という基本理念を掲げています。「明日を担う」とは、言い換えると「サステナブル(持続可能)」であるということ。我々は基本理念としてサステナブルを目指しているのです。持続可能で強靱(レジリエント)な交通インフラの整備・環境にやさしい交通体系の整備などを通じ、五つのSDGs目標の達成に貢献していきます。

グリーン性に対する厳格な国際認証を取得

──今回発行したサステナビリティボンドは、グリーン性(環境改善効果)とソーシャル性の双方を満たすことを求められます。環境面での貢献はどのように果たしますか。

【北村】わが国のCO2排出源のうち交通運輸部門はその約2割を占めており、改善は大きな課題です。その点で鉄道や船舶は、1回の輸送で多くの人や物を運べる大量輸送機関であり、CO2排出量の削減に大きく役立ちます。これは、国の推進するモーダルシフト(トラックから船舶・鉄道への転換)への方針にも一致しています。

人や物を1km運ぶ際のCO2排出量でみると、鉄道は、旅客輸送で自家用乗用車と比べて約7分の1、船舶は営業用貨物車と比べて約6分の1ですみます。当機構で鉄道や船舶の建設・整備を着実に進めることは、CO2排出量が少なく、環境にやさしい交通体系の発展につながります。こうした当機構の事業のグリーン性が国際NGO、CBIの厳格な国際基準を満たすと認められ、このたびアジアで初めてCBIのプログラム認証を取得しています。

──ソーシャル性では、どのような役割を果たしているのでしょうか。

【北村】日本は人口急減、少子高齢化などの課題に直面しています。今後は女性や子ども、障がい者、高齢者などのニーズに配慮した公共交通機関の拡大が欠かせません。例えば、鉄道では二方向扉エレベータなどバリアフリー法に対応した安全で快適なサービスの提供などの整備も行っています。

また、主要都市間を結ぶ交通網の整備は、地方活性化にもつながっています。例えば北陸新幹線の金沢延伸では、想定した輸送需要の3倍を超えるニーズが生まれました。このほかに建設中の整備新幹線は約400kmあります。

海洋国家である日本にとって、内航海運は社会経済活動や生活に不可欠なインフラです。国内貨物船は鉄鉱石やセメントなどの重量物の運搬に適しており、国内物流の約4割を担っています。移動手段が限られている離島に住む人にとっては、船は不可欠。加えて災害で陸路が使えない場合には内航海運が対応します。複数の移動・輸送手段があることが大切なのです。

持続可能でレジリエントな交通インフラを発展させる

──サステナビリティボンドを発行した狙いと展望をお聞かせ下さい。

【北村】ESG投資は世界的な潮流です。我々は継続した資金調達を予定しており、今後の円滑な起債には、こうした投資環境の変化に対応していく必要があると感じています。そこで厳格な認証を受けたうえでサステナビリティボンド発行を決めました。

グリーン性やソーシャル性については、国際的な第三者評価機関であるDNV GLから検証および評価を受けています。また、グリーン性についてはCBIのプログラム認証(一度の認証で継続的な債券発行が可能となる制度)も受けています。鉄道分野でCBIのプログラム認証を受けたのはアメリカ、フランスに次いで3カ国目。プログラム認証を受けたことで、今後も継続してサステナビリティボンドを発行できる基盤が整いました。

当機構の事業が、社会貢献、環境改善の両面で認められたことは大変な名誉であり、身の引き締まる思いです。

今回の起債を投資家の方々に支持していただくことは、持続可能でレジリエントな交通インフラを支え、SDGsを達成する後押しとなります。そしてESG投資の促進に貢献し、金融市場にも好影響をもたらすことができれば、これ以上の喜びはありません。

グリーン性を評価するCBIのプログラム認証
グリーンボンドなどの環境性を測る指針の一つが、国際NGO、CBIによる認証である。CBIは、グリーンボンドなどの発行体の事業の環境改善性などを評価する厳格な基準を設置。年2回以上複数年にわたりグリーンボンドを発行する場合には「プログラム認証」制度を認めることとしている。2019年3月現在、プログラム認証を受けているのは欧米の企業など15件。鉄道建設・運輸施設整備支援機構のプログラム認証はアジア初となる。

持続可能な社会を構築するために金融機関が果たす役割

SDGsを達成していくうえで、金融機関が果たすべき役割は大きい。SMBC日興証券の清水喜彦社長に、会社としての姿勢や取り組みを聞いた。
清水喜彦(しみず・よしひこ)
SMBC日興証券株式会社
代表取締役社長

金融仲介機能を通じた社会貢献は証券会社の社会的使命

SMBC日興証券では、お客さまを中心に考えること、健全な金融仲介機能を果たし市場・社会の発展に貢献すること、多様性を尊重すること等、持続可能な社会の実現に欠かせない精神を、1918年の創業以来社員一人ひとりが受け継いでおり、現在の経営理念にも体現されています。

社会貢献型商品の提供に先駆的に取り組んできたのも、証券会社としての金融仲介機能を活かした社会貢献を社会的使命であると考えているからです。1999年には、当時日本で初めて環境の視点を取り入れたエコファンドの取り扱いを開始したほか、2010年にはグリーンボンドの引受・販売をするなど、社会貢献型債券の引受・販売も積極的に行っています。パリ協定やSDGsの採択を受け、環境・社会問題への注目度が世界的に高まるなか、2018年9月には社会問題の解決に資するファイナンスニーズの捕捉およびESGの推進等を目的として『SDGsファイナンス室』を新設し、グリーンボンドをはじめとするSDGs債の引受・販売に一層注力しています。

多岐にわたる活動でSDGsに積極貢献

当社のSDGsへの取り組みは、事業活動外にも広がっています。

全国約150拠点の部室店において、清掃活動や地域に根差した各種ボランティア活動を積極的に実施しているほか、被災地支援にも継続的に取り組んでいます。次世代の金融リテラシー向上のため、企業見学・出張授業等の金融経済教育も実施しており、子どもたちの夏休み期間には、“証券会社が学校になる”日として、全国の支店で日興「家族でワクワク体験DAY」を2006年より実施しており、楽しく金融について学べる機会を提供しています。

なかでも特徴的なのが、障がい者の方への活動支援です。2015年度より、雇用を通じて障がい者アスリートの方々の支援をしていくことを目的として、世界トップレベルの障がい者アスリートの採用を開始しており、現在14名(2019年4月1日現在)の障がい者アスリートを正社員として雇用しています。アスリート社員たちは、国内外での大会や講演活動などを通じ、障がい者への理解を深める活動を行っています。

また2015年に設立した特例子会社「日興みらん」は、知的障がい者の方の雇用促進を目的としており、事務補助作業や千葉県の農園で農作業を行っています。当社の役社員が農園にて障がい者の方と共同作業を行うノーマライゼーション研修も行っており、ダイバーシティ等への理解を深めるきっかけとなっています。また、日本ブラインドサッカー協会を2014年より継続的に支援しており、視覚障がい児の運動支援プログラム「キッズトレーニング」や各大会のボランティアに参加しています。

当社は、創業以来100余年受け継がれてきた市場発展・社会貢献の精神を、これからの100年を見据えてしっかりと継続し、ブランドスローガンにも掲げているように、お客さまと“いっしょに、明日のこと”を考えるパートナーであり続けたいと考えます。

本記事は、情報提供を目的とするものであって、勧誘等を目的とするものではありません。