社内に分散したデータの統合・精緻化によって、高品質な顧客データベースを作成し、外部データも活用して高度な分析を行う顧客データ統合ソリューション「Spectrum(TM)」。日本国内の企業においても、現在多様な業種で導入が進む。その理由とは──。

データ活用に欠かせない二つの大前提とは

加固 秀一(かこ・しゅういち)
ピツニーボウズジャパン株式会社
ソフトウェア事業本部
執行役員
事業本部長

「企業でのデータ活用が広がる中、重要であるのに見落とされがちなことがあると感じています。それは根本ともいえるデータの“質”や“精度”です」

ピツニーボウズジャパンの加固秀一執行役員はそう語る。

自社の保有データの“正確性や整合性に問題がある”と考える経営者は多くないだろう。しかし、いざ活用の段になり確認すると、ほとんどのケースで何らかの不備が見られるという。

「データ分析から得られる結果の精度は、やはりある程度データの質に比例します。精度の低い分析結果をもとに営業活動を行えば、投入した労働力には無駄が生じ、経営のロスにもつながってしまいます」と加固氏は言う。

顧客データが社内の各部門に分散し、形式もばらばらで、アップデートも不十分。それを“使える”状態にするには、データをしっかり統合したうえで、書式の統一、誤記・重複の修正といった“クレンジング”を行う必要がある。

「全角・半角の統一などはもちろん、姓と住所が同じで名前が異なるデータを同一世帯と見なすか否かを決めて全データに反映する。当社の『Spectrum』では、例えばそうした処理を独自のノウハウで効率よく行い、データの質を改善していきます」

同社ソフトウェア事業本部の北邨秀治システム本部長はそう説明する。地道な作業で高品質なデータ基盤を構築するわけである。

また、顧客データを扱ううえでもう一つ忘れてはならないのが、個人情報の適正な管理だ。

「契約者データは厳密に管理していても、販促活動で得た個人情報などが外部システムに置かれたままというケースは珍しくありません。アンケート回答者が顧客になり、データを基幹システムに移す際、元データが外部に残ったまま……。これでは顧客からの開示や削除要求があった際に十分な対応ができず、信用失墜にもつながりかねません」と北邨氏は言う。

その点、Spectrumではデータが統合されているため、作業の漏れを抑えることが可能だ。

ワンプラットフォームにより多様なメリットを提供

北邨 秀治(きたむら・ひでじ)
ピツニーボウズジャパン株式会社
ソフトウェア事業本部
システム本部長

一方、Spectrumは高品質の顧客データ基盤にロケーション情報とさまざまな外部データを掛け合わせることによって高度な分析を実現する。この点が導入企業から高い評価を受けている。

「例えば顧客の住所情報に国勢調査など外部のデータを組み合わせ、マッピングすれば、地域住民に占める顧客数の割合や分散状況などを一目で把握できます。住所リストの分析だけでは漠然としか見えなかった状況もクリアになり、一歩進んだ分析が可能になるでしょう」(北邨氏)

多様な外部データを取り込めるため、競合情報と顧客情報、テリトリー区分と顧客情報など、さまざまな要素を掛け合わせて幅広い知見が得られる。

「いまや従来のデータ活用で他社と差別化を図るのは難しい。新しいビジネスチャンスを探るには、より詳細なニーズに基づいた市場分析が必要でしょう。当社は、位置情報を上手に生かしたデータ活用によって、お客様のビジネス予測や営業活動に優位性を提供したいと考えています」と加固氏は言う。

しかもこうした仕組みをデータの抽出・統合・クレンジングなどと合わせ、ワンプラットフォームで提供できるのがピツニーボウズの強みだ。北邨氏は次のように説明する。

「ワンプラットフォームであれば、導入にかかる期間も少なくてすみますし、メンテナンスなども容易。結果、導入・運用の総コストも抑えられ、分析もスピーディーに行えます。また、Spectrumは既存システムとの連携も可能。さらに、より高いセキュリティを確保できるオンプレミス環境での稼働など、お客様の活用状況に即した設計の自由度の高さも特徴です」

分散した社内情報をワンプラットフォームで管理。経営戦略、営業戦略の立案に使いやすい形にビジュアライズまでできるのがSpectrumの魅力だ。

業種、業態によって多様な活用の可能性が

実際、導入企業はSpectrumをどのように活用しているのだろうか。

例えば、各種生活関連サービスを展開する企業では、各事業部に分かれていた顧客データを統合。部署をまたいで契約する優良既存顧客への営業を強化し、売り上げを大きく伸ばした。

「昨今ではホールディングス化による事業統合のケースも少なくありません。そこで顧客データが事業部ごとに分かれていては、シナジーの発揮も難しくなってしまうでしょう」(加固氏)

位置分析の強みを生かし、ルートセールスなどを行う場合の担当エリアの設定に用いられるケースも多い。

「市区町村などの行政区画でエリアを分けると広さや顧客数、移動難易度、見込み売り上げなどに差が出がちです。それらを地図上で確認しながら、バランスの取れた担当エリアの設定を行いたいと、業界を問わず多くの企業にご利用いただいています」(北邨氏)

さらに、地震などの被災エリアの保険加入者データと位置情報を掛け合わせ、損害状況の確認や支払い状況をほぼリアルタイムで確認できるようなツールも開発。そのほか、地域ごとの購買行動分析、エリアごとのモバイルの通信品質データのマップ配信など、Spectrumの活用方法は多彩だ。

営業は足で稼ぐ、という言葉があるとおり、どんなビジネスも最後は「人」が行うのには違いない。しかし、人の活動を支えるデータの分析や加工の手法が劇的に進化する中、各種データをいかに巧みに活用するかが、企業の競争力に直結するのもまた事実だろう。その中で加固氏は「データという宝の山から、それが持つ潜在的価値を最大限引き出したい」と語る。

来年、米国での創業から100年を迎えるピツニーボウズ。長く現場で培ってきたノウハウは、データ活用でビジネスを変革したいと考える企業にとって有効な道具となりそうだ。