1965年創設の福井工業大学。開学50周年の2015年には、従来の工学部に加えて環境情報学部、スポーツ健康科学部を新設し、3学部8学科の工科系総合大学となった。これからの時代の地方大学のあり方を追求する同学の教育方針や独自の取り組みについて、今年4月に学長に就任した掛下知行氏に聞いた。

キャリア教育を重視し就職率は99.6%

学生には“自分の追求すべきこと”をしっかりつかんでほしい

掛下知行(かけした・ともゆき)
福井工業大学 学長
理学博士

1976年北海道大学理学部物理学科卒業。78年同大学院理学研究科物理学専攻修士課程修了。79年大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程中退。大阪大学教授、大阪大学大学院工学研究科長などを経て、18年4月より現職。

「社会に出るにあたって、グローバルスキルやコミュニケーション力、創造力は重要に違いありません。本学でもそうした力の養成に力を注いでいます。ただ、それらの力は何かを成し遂げるための手段。学生たちには、何より“自らのテーマを困難にめげずに極め続けていく力”を身に付けてほしいと私は考えています」

福井工業大学の掛下学長は、そう強調する。一つのことを本気で追求しようとすれば、海外にも目が向き、仲間と議論も戦わせることになる。「そして創造性についても、画期的な発見のほとんどは、100人中99人が思い付かなかった着想を極限まで突き詰めることで生まれてくる」と掛下学長。

「そう考えたとき、学生の探求心を引き出し、関心を持ったことを追求していける環境を整えるのが大学の本質的な役割。本学には実直な学生が多く、粘り強く物事に取り組む素地は持っています。そこで基礎から積み上げる専門教育はもちろん、多彩な海外留学プログラムや学生が主導する各種プロジェクトなど、彼らの力を引き出す多彩な機会を教職員が一体となって設計しています」

入学すると一人ひとりに担当教員が付き指導を行う丁寧なサポート体制も特徴で、キャリア教育にも力を入れている。結果、昨年度の就職率は99.6%に上り、全国実就職率ランキングで全国1位となった(※1)

旅費やホテル代はすべて大学側が負担する

福井工業大学のカリキュラムの中で特徴的なものの一つが、多彩な海外留学プログラム「O.C.P.S」(※2)だ。海外語学研修、海外インターンシップなど約2~4週間の多彩な留学メニューが揃い、留学全般への資金支援制度もある。

「日本語の通じない海外で、異文化の中で育った相手とコミュニケーションを取りながら、目標を達成するために自発的に行動する。若いうちにそうした体験をしておくことは、人生を変えるきっかけにもなります」

特に人気なのが、タイやベトナムに進出した日本企業でインターンとして働く約3週間のプログラム。バンコクにある同学ASEAN事務所による充実したサポートのもと、大学が旅費やホテル代をすべて負担し、参加者も年々増加している。

一方で、外国人留学生への受け入れにも力を入れ、グローバルな学内環境の整備にも努めている。

「日本への留学中は教職員が頻繁に面談を行って生活を助け、帰国後も先のASEAN事務所などで支援を続けます。おかげさまで日本語学校が在校生に勧める進学先を選ぶ『日本留学AWARDS』で5年連続の大賞(※3)。殿堂入りを果たしました」

目的に合わせて選べる海外留学プログラム

福井工業大学では、海外語学研修、海外インターンシップ、日本語アシスタント研修、留学支援制度など、多彩な海外留学プログラムを実施。タイの高校で日本語の授業アシスタントを体験可能。“教える力”を身に付けるのにも効果的だ。また、海外インターンシップでは受け入れ先企業の現地スタッフと協働しながらグローバルスキルを磨いていく。

 

真の意味でのキャリア教育を提供

キャリア教育を単なる進路・就職指導にとどめず、学生が自身の人生設計を描けるようにするための総合的な教育として位置づけている。

三つの軸から宇宙事業を推進して地域に貢献する「ふくいPHOENIXプロジェクト」

北陸最大を誇る直径10m超のパラボラアンテナと、学内に蓄積された衛星データや宇宙関連の知見を生かし、地域企業と協働しながら、宇宙研究軸、地域振興研究軸、観光文化研究軸という三つの視点から地域への貢献を目指す。来年秋には、県内企業の部材を用いて独自開発した超小型人工衛星も打ち上げる予定だ。

宇宙研究軸

衛星データ活用など衛星利用の基礎技術の確立、独自の小型衛星の開発などによって、地域企業の宇宙産業活用の促進を狙う。

地域振興研究軸

衛星データを農作物管理に利用する精密農業や災害対策など幅広い分野に応用し、県内自治体の産業活性化と防災推進を目指す。

観光文化研究軸

県内自治体施設と連携し、衛星による夜空観測データを「日本一美しい星空」のブランド化に生かすなど、環境・文化の振興につなげる。

宇宙に焦点をあてた一大プロジェクトを進める

各地の大学は、地域の変革エンジンになることも期待されている。

「人の考えは住む土地のあり方に大きく影響されます。産業も同じで、福井も豊かな自然のもとに農水産業や伝統工芸、世界レベルのニッチ工業が育っている。均一の考え方から新しい考えは生まれにくいことを考えると、独自の歴史や文化を持つ地域が特性を生かした取り組みを進めることは、イノベーション創発にも大きな意味があると考えています」

地元企業と連携しながら、北陸最大のパラボラアンテナを生かした研究で地域貢献を目指す「ふくいPHOENIXプロジェクト」も、そうした同学の姿勢を表している。

「衛星から得た福井の観察データを精密農業や防災などに生かす試みのほか、日本一美しいといわれる大野市の星空のブランディングにも活用します。来年には本学で開発した超小型人工衛星も打ち上げる予定で、ほかにもデータのさまざまな利用法を探っていく予定です」

プロジェクトから生まれた農業や防災の先進モデルなどは、全国にも展開していけるはずだ。一方で福井工業大学は地元企業との産学連携にも力を入れている。

「地方創生や人口減少が課題になる今、企業と大学の関係も変わっていくべき。研究に限らず教育でもタッグを組み、より深く関わることで、協働の質もさらに上がるはずです」

学生にこまやかに気を配りながら、機動力をもって新手法を取り入れていけるのは、地方の大学の強みと掛下学長は言う。

「繰り返しになりますが、学生には自分の追求すべきことをしっかりつかみ取ってほしい。そうした学生を育てるためにも、今後も『すべてを学生のために』を理念に、新しい取り組みに挑戦し続けたいですね」

(※1)大学通信発行『ユニヴプレス Vol.13』卒業生数500人以上1000人未満の大学。
(※2)Overseas Challenge Program for Students
(※3)西日本地区私立大学理工系部門において。