土地を持っていれば“勝ち組”──。そんな時代はすでに過去のものになっている。たとえ同じエリアの土地でも活用次第で収益には差が出る。競争が激しくなる中で、成功するポイントを不動産事業コンサルタントの牧野知弘氏に聞いた。

建物は「有限」の資産
長期の時間軸を意識する

──少子高齢化や空き家の増加などが進み、土地活用に新たな戦略が求められています。オーナーがやるべきことは何でしょうか。

【牧野】すべての土地オーナーに意識していただきたいのが、「土地活用はビジネスである」ということです。

かつては、建物をつくれば土地活用は“一丁上がり”。建てた後の事業は外部にすべて委託してしまうオーナーも珍しくありませんでした。そうした方にとって土地活用はビジネスではなく、節税や一時的な収益の確保の手段の側面が大きかったのです。

しかし社会構造が変わり、不動産分野でも競争が激しくなっています。目先の利点にだけフォーカスして建物を建てると、維持管理費がかさむマイナスの資産になりかねません。本来の土地活用は、多額の投資をして建物をつくり、数十年にわたり経営していく大きな事業です。土地を生かしてお金を生み、投資したお金をいかに回収していくかが重要なポイント。それゆえ、長期の時間軸を持ち、返済計画も無理のないものにしていく必要があります。例えば土地は時間がたっても失われませんが、建物の価値は有限で経年によって劣化していきます。10年後、20年後には維持も含めた手当てが必要です。また、その頃には周辺環境が変わり、現在とは異なる戦略が必要になるでしょう。

──長期の時間軸で考えていくために、何を実践すればいいでしょうか。

【牧野】オーナーの役割は、土地活用のコンセプトを明確にして打ち出すことです。そのためには、自分の保有している土地の状況を知ることが不可欠。現在はインターネットで公的機関や不動産市況に関するさまざまな情報を収集できます。自分の手で一つ一つ、情報収集していくことで、マーケット感覚が身に付き、市場における自分の立ち位置がわかってきます。

例えばアパートやマンション経営を考えているならば、そのエリアにどんな賃貸需要があるのかを調べてみてください。学生や若い夫婦、ファミリー、シニアなど、人口分布を見ていくのも一つの手段です。周辺の賃料相場の推移や、都市計画や自治体の子育て政策なども今後の行方を占うヒントになるでしょう。知人に賃貸住宅オーナーがいれば、最新の事例などの情報を得られます。市場にまつわるあらゆる情報が、土地活用の精度を高めていきます。

オーナーがプロデューサーになり、土地に価値をもたらす時代です
牧野知弘(まきの・ともひろ)
オラガ総研株式会社
代表取締役

1983年東京大学卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て、三井不動産に入社。「コレド日本橋」「虎ノ門琴平タワー」など、数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がける。2006年、日本コマーシャル投資法人執行役員に就任し、J-REIT(不動産投資信託)市場に上場。15年、オラガ総研株式会社を設立。現在はホテル・マンション・オフィスなどの不動産全般に関するアドバイザリー業務を行うほか、テレビや雑誌などでも活躍する。近著に『マイホーム価値革命 2022年、「不動産」の常識が変わる』(NHK出版新書)。

住まいの“効用”に着目し顧客満足度を高める

──周辺の物件に負けない魅力ある物件をどうつくればいいでしょうか。

【牧野】これからの土地活用はソフトウエアで成否が決まります。建物を生かし、どんなサービスや体験を提供できるのか、企画力や創造力が問われる時代になってきたということです。

私の知っているアパートのオーナーは、入居者の様子をこまめに見ていて、若い単身男性の多忙な暮らしぶりに「体は大丈夫かな」と心配をしていました。そこで思い切って空室をリフォームし、入居者に簡単な朝食サービスを始めたのです。これが非常に評判を呼ぶことになり、結果的に新たな募集にもつながっていきました。

また、別のマンションオーナーはターゲットを若い夫婦に絞り、子育て支援に特化した共用部や部屋づくりを徹底しました。その結果、ニッチなマーケットで確実に入居者を集めることに成功しています。今の時代はこうした支持はSNSなどの口コミでも拡散していきます。このほかに、エントランスの素材にこだわって高級感や親密感を演出するなどの工夫も物件の印象を変えるのに有効です。

大切なのは、お客様目線で本当に魅力的なサービスをどう提供していくかを考えていくことです。賃貸住宅であれば、安心感や快適な暮らし心地といった住まいの“効用”、住居としての価値をいかに向上させていくか次第で、顧客満足度は変化していきます。これはビジネスの基本精神。これからの不動産市場でさらに重要になっていくでしょう。

──事業者とはどのように付き合っていくべきでしょうか。

【牧野】繰り返しになりますが、土地活用はまとまったお金を投資する事業です。外部の事業者に任せきりにするのではなく、土地オーナーがグランドデザインを描き、その目標を達成するために事業者を“使いこなす”ぐらいの気持ちで臨むのがいいでしょう。事業者は、山の頂上に到達するための地図でありコンパス。目的地を決めるのはあくまでもオーナー自身です。

ただ不動産の専門家の意見に疑問を挟むのは難しいと感じる場面もあるでしょう。ここで最も有効なのは、提案に対して「なぜ」を追求することです。これは、私がボストンコンサルティングに在籍していたころ、顧客企業とのヒアリングでも徹底していた技術。専門家の言葉だからとうのみにせず、理屈が腹落ちするまで説明を求めましょう。

例えば、賃貸経営のサブリースにもしも疑問を感じたら「これは安心だけれど、おたくはなぜ利益を得られるの?」と聞いてみる。収益シミュレーションが魅力的であれば「なぜこの賃料設定が可能と思うのか」を追求する。数千万円を投資するのですから、しつこくてもかまいません。きちんとした会社であれば、不利益な条件も含めて論理的に回答してきます。

今後は環境の変化によって業態転換などを考えることもあるかもしれません。シニア向けの事業やインバウンドを見込んだ民泊などのニーズも高まってくると見込まれます。ただし、一度建てた賃貸住宅などを途中から用途変更するのは難度が高いため、事業者に希望をぶつけてみるといいでしょう。

土地オーナーがプロデューサーになり、土地に独自の価値をもたらせるか、その手腕が問われていきます。状況を見極める目と情熱を持って向き合っていただければと思います。