モデルハウスは、いわばハウスメーカーの自信作。しかし、何をものさしに見ていけばいいのだろうか。住宅相談にも応じている建築家の川道恵子さんに、モデルハウスめぐりのポイントをうかがった。

実際の感覚を確かめられるのがモデルハウス見学の楽しみ

「新しいお住まいで、どんな暮らしをしたいですか?」

家を建てようという方にそう尋ねても、まず明快な答えは返ってきません。「広くて明るいリビング」「使いやすいキッチン」など、出てくるのはたいてい断片的で漠然としたイメージです。でも、それでいいのです。それらの断片を紡ぎ合わせて、かたちにしていくのが家づくりです。

モデルハウスを見る利点は、そうした漠然としたイメージを具体化できることです。「広くて明るい」とはどういうことか。キッチンの「使いやすさ」のポイントは何か。実際に目にして、参考にできるのがモデルハウスです。自分の漠然としたイメージが「実はこうだったのか」と、モデルハウスを見て気づくことも多いんですよ。

最近はネットで調べてから資料請求をしたり、モデルハウスを見に行くのが一般的になりました。構造や住宅性能など、事前に知識を得ることはもちろん大切ですが、私はご家族の好みや感性を大切にしてほしいと思います。

例えばリビングの広さや天井高も、広くて高いのがいいと思っていたけれど、実際に体験してみると、何となく落ち着かない、もう少しこぢんまりしていたほうが自分には合いそうだと感じることもあります。

そういうリアルな感覚は、写真やイラストなどでは伝わってきません。ネットでいいなと思う住宅があったら、外観デザインや空間の好み、居心地などを確かめることから、モデルハウスめぐりを始めたらよいと思います。

耐震、省エネ、健康、予算
重視したい要素から家を見る

次に気にかけてほしいのは「何を重点にして見るか」という優先順位です。耐震性や省エネ性、健康への配慮、予算、動線、家族とのコミュニケーション、収納、デザインなど、さまざまな要素が挙げられます。

きっちりとした優先順位を立てられなくても、大事にしたい要素を考えておいたほうが、モデルハウスの営業担当に話を聞くにも質問しやすくなります。

住宅展示場にモデルハウスを出展しているハウスメーカーならば、住宅性能に関しても各社競って力を入れていますので、優劣をつけるというよりも、重視したい価値観に刺さるポイントを見つけて構造や工法を選択していくとよいでしょう。

モデルハウスでは、必ず営業かスタッフの案内が付きます。プレッシャーに感じるかもしれませんが、じっくり話を聞かなければ、掴めないことも多いです。とはいえ、説明は基本2時間を想定しているというハウスメーカーもあり、続けて何軒かめぐりたいと思ったら、とても時間が足りませんね。

そういうときは「今日は40分しか時間がない」というふうに初めに断れば、それに見合う対応をしてくれます。さらに、聞きたいことをあらかじめ整理しておくと、効率的にモデルハウスを回ることができます。

性能や価格を横並びにして比較する

言うまでもありませんが、ハウスメーカーのモデルハウスは、各社の技術やセンスを集約して造りあげています。敷地の設定や間取りにもゆとりを持たせて、オプション仕様も豊富に取り入れられています。実際にはすべて同じように建てるというわけにはいかないでしょう。モデルハウスではどこまでが標準の仕様か確認したうえで、必要と思うオプションやアップグレードを検討しましょう。

いくつかのモデルハウスを比べたいときは、それぞれに同じ質問をすると、比較しやすくなります。例えば、耐震性を見るには耐震等級という指標があります。等級が高くなると、それなりに価格も高くなるのですが、標準仕様の等級で性能を横並びにして比べられます。価格についても、一定条件の家を想定すれば参考価格を答えてくれるメーカーもあります。例えば「総2階建てで延べ床面積が30坪だと、標準仕様でいくらくらいになるか」というふうに尋ねるのです。

マンションの場合も、モデルルームが豪華版なのは同じです。やはり標準仕様とオプションを切り分けて見る必要があります。標準仕様で満足できない場合は、オプションでどこまで自分好みにアップグレードできるかを確認しておきましょう。

メンテナンスサービスとコストを忘れずに確認

川道 恵子(かわみち けいこ)
株式会社 住まいと街設計事務所
代表取締役/一級建築士

奈良女子大学住居学科卒業後、住宅メーカーにて戸建て住宅の設計、デベロッパーではマンションの企画業務に携わる。設計事務所勤務時代、多数の再開発プロジェクトにおいて不動産分野の実績も積み、2011年4月から現職。設計業務のほか、土地・建物に関し幅広くコンサルティングなどを行っている。セミナーでの講演も多い。宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、住宅ローンアドバイザー。

近年、ハウスメーカーはメンテナンスサービスにも力を入れています。家は建てて終わりではなく、永く資産価値を維持するにはメンテナンスコストも意識しなければなりません。

新築住宅の場合は、法律で基本構造部分に10年間の瑕疵保証が義務付けられていますが、ハウスメーカーの保証は、30年、50年といった長期に設定される傾向にあります。ただし、これはハウスメーカーがそれぞれ独自に設けたタイムテーブルとプログラムに沿ってメンテナンスを行った場合に適用されるので、有償無償の範囲を含め前提条件を確認する必要があります。

メンテナンスコストを抑えられる材料を使用する分、建築時の価格が高くなる場合もありますので、初期費用と維持費用のバランスにも注目してみましょう。

子どもの成長や進学など家計の出費がかさむ時期も踏まえながら、どの時期にどのようなメンテナンスコストがかかるのか知っておくと安心です。

また、メンテナンスのしやすさやコストだけでなく、家族のライフステージの変化に合わせて間取りや部屋の使い方を変えたい場合に備え、リフォームのしやすさもチェックしておきたいポイントです。

マンションの場合は、リフォームしやすい物件としにくい物件があります。間取りや躯体、水回りの配置などに左右されるのですが、将来リフォームも考えるなら、どの程度まで改変できるかを確認しておく必要があります。

数を多く見るよりも思い切って候補を絞り込む

モデルハウスの見学は、一流のハウスメーカーのセンスと技術力を、情報として吸収できるよい機会です。インテリアデザインにも凝っているので、それを見るのもモデルハウスをめぐる楽しさです。

しかし、数多く見ればよいかというと、そうともいえないようです。多くのモデルハウスを見すぎて、比較検討しきれなくなり、2年経っても家が建てられないと、私のもとに相談に来られた方もいます。

先にも述べましたが、初めは相性のよさそうなものをいくつか選び、どのようなものかと見て回るくらいでよいと思います。興味があり、優先度の高いところから説明を求めていき、比較するよりも候補を絞り込んでいくほうが、迷路に陥らずにすみます。

最近は、モデルハウスだけではなく、ハウスメーカーが実際に手がけた住宅を見られる見学会も増えてきました。完成したばかりの家を見る完成現場見学会、建築途中で構造面などを確認できる建築現場見学会、実際に住んでいる方の話も聞ける入居者宅見学会などがあります。さらに、住宅設備のショールームなどをのぞいてみるのも、参考になることが多いと思います。

住まいは住む人との相性が大切。同様に担当する営業との相性もハウスメーカー選びのポイントです。家を建てるときに、どの段階で設計者が関わるのかもチェックしたいところ。何に関しても、納得のいく対応をしてくれるハウスメーカーを選びましょう。

(高橋盛男=文 鶴田孝介=撮影)