2006年に光洋精工と豊田工機が合併して発足したジェイテクトは、自動車部品、軸受、工作機械のメガサプライヤーだ。世界で初めて電動パワーステアリングの開発・量産に成功するなど、業界の先頭を走り続け、前期の売上高は1兆3000億円を超える。経営方針や今後の事業展開について、同社を率いる安形哲夫社長に聞いた。
安形哲夫(あがた・てつお)
株式会社ジェイテクト 取締役社長
1953年生まれ。1976年に一橋大学を卒業後、トヨタ自動車工業株式会社(現・トヨタ自動車株式会社)入社。同社専務取締役などを経て、2011年株式会社豊田自動織機取締役副社長に就任。2013年より現職。趣味は、城跡めぐりなど。

常に5年先を見据えて今すべきことを考える

──グループビジョンを掲げ、事業活動の土台に据えています。その内容、意味合いについて聞かせてください。

【安形】「No.1 & Only One」というビジョンには、お客様の期待を超える価値づくり、世界を感動させるモノづくり、自らが考動する人づくりを通じて、まさにほかにない独自の製品・サービスを提供していきたいという思いを込めています。例えば現在、当社のステアリングシステムを採用しているクルマは、世界中のおよそ4台に1台でトップシェア。ビジョンの具現化を示す一端です。ビジョンとは本来、目指すべき理想像を表現したものであり、あらゆる行動の指針。全社で共有することが重要だと考え、徹底しています。

──ビジョンを具現化するための中期経営計画に特徴があると聞きました。

【安形】5年先を見据えた中期経営計画を立てていますが、ポイントはそれを毎年見直していることです。例えば多くの自動車メーカーは数年単位でモデルチェンジをするため、ビジネスの主戦場は5年先となります。ただ客先とビジネスを進めていくうえで、仕様が固まってから見積書を依頼されているようでは遅い。開発段階で依頼書をもらってくるようでなければいけません。そう考えたとき、中期経営計画についても、外部環境の変化を踏まえ、こまめに修正していくことが求められる。変化に機敏に対応し、やるべきことを見極めていく必要があるのです。

一方で、5年後のあるべき姿を考えるとき、さらに先の未来から自社を振り返る視点も重要です。そこで当社では、「ビヨンド中期経営計画」という形で10年、15年後の自社の未来像についても検討を行っています。

──経営上、どのような指標を重視していますか。

【安形】業績や財務に関しては、営業利益率とROA(総資産利益率)を重視しています。利益率というのは、会社の“稼ぐ力”そのもの。そこで、営業利益率の算出では、堅めに1ドル=95円、1ユーロ=110円という経営レートを設定し、為替の変動に惑わされず、実態を把握できるようにしています。

また、損益計算書だけでなく、貸借対照表も重要視しています。いくら稼いだか、というだけでなく、負債の状況や棚卸資産の回転率を見ることが、財務体質、ひいては会社の体質を計るうえでは大切だと考えています。

──グローバル企業として、人材育成で大事にしていることはありますか。

【安形】当社は約4万4000名の従業員のうち約2万7000名が外国人というグローバルカンパニーです。そのため国籍に関係なく優秀な人材が活躍できるシステムの構築は必須。国内外の主要ポストの職務・職責の大きさを格付けしたうえで、各ポストの後継者の発掘・育成・適正配置について議論する組織を各地域に設置しています。

あわせて働き方の高度化にも取り組み、工場では現場の知恵を生かしながら製造ラインの自動化・無人化を進め、技能員のポテンシャルを高めています。特にメーカーにとっては、モノを作り出す工程にかかわる生産技術の質が生命線。カリキュラムを設け、能力の養成に力を注いでいます。

また間接部門においては、業務の標準化を徹底することによってITの活用範囲を広げる一方、一人のスタッフが複数の業務をこなせるようにする「多能工化」を念頭に業務改革を進めています。

ジェイテクトは1988年、世界で初めて電動パワーステアリングの開発、量産に成功。そのシェアは、今も世界一だ。現在は、自動運転に対応するステアリングの開発にも力を注ぐ。

自動運転への対応や工場の生産性改革も推進

──自動運転の時代に向け、ステアリング事業の戦略を聞かせてください。

【安形】ステアリングについては、三つの機能を強化していこうと考えています。一つ目は、いわば反射神経の機能です。電動パワーステアリングは、搭載したコンピュータが車速などの情報をもとにアシスト力を計算しモーターに指示を出す仕組みになっています。この制御アルゴリズムが、熱いモノに手が触れた瞬間、引っ込める反射神経のように機能することで、快適かつ安全な運転が可能になるのです。

二つ目は、より高度な安定性をもたらす二重化、すなわち冗長設計です。操舵をアシストするシステムが決して停止しないよう、モーターや電源などを二重にする必要があります。

そして三つ目は、従来のように機械的に操作するのでなく、電気信号で制御する「ステア・バイ・ワイヤ」という技術です。これによりシャフトは不要になり、エンジンルーム内のレイアウトの自由度も向上します。

──IoTやインダストリー4.0への対応についてはいかがですか。

【安形】当社自身が「人と設備が協調し、人の知恵が働く、人が主役のスマートファクトリー」を体現し、お客様の工場にも提案していきたいと考えています。私たちは、このコンセプトをモノだけでなく人もつなげるという意味からIoT(Internet of Things)ではなく、IoE(Internet of Everything)と呼んでいます。当社は、メーカーを問わずさまざまな製造機器を接続できる独自の制御システムなどを有していますから、それらを生かしながら生産ラインの状態の見える化や予兆に基づく改善を実現するソリューションへと発展させたい考えです。

──将来にわたる安定成長を、どう確保していこうと考えていますか。

【安形】私は着任から4年間、ひたすらファンダメンタルズ(企業基盤)の整備に力を注いできました。いうなれば、種まく人。相応の固定費はかかりますが、この作業なくして成長は果たせません。種はやがて花をつけ、実を結びます。それを収穫するのは次の世代の人たちでいいのです。未来のためにファンダメンタルズを常に意識し、投資を惜しまない風土を醸成することこそ、成長の鍵だと確信しています。

工作機械の製造を手がけるジェイテクトでは、生産ライン制御システムも開発。自社工場のスマートファクトリー化を進め、そこで培ったノウハウを他社にも提供していく計画だ。