高齢化と少子化が世界でも類を見ないレベルで進行し、労働力人口の急速な減少が始まった日本社会。一方で景気は上向き基調にあり、就職戦線は空前の売り手市場、2017年4月の有効求人倍率も1.48倍とバブル期を超え43年ぶりの水準に達したと報じられている。企業にとっては働き手を必要なだけ確保できるかどうかが、業績の浮沈に直結する状況となっている。

このような状況の下、企業が注目しているのが女性の積極活用だ。本来は男性でも女性でも特定の分野を除き仕事の能力に差は無いわけだが、女性は働く意欲があっても結婚や子育てで存分に働けない、またはそこで仕事を辞めてしまう、そしてそれをよしとするという、日本企業にまだ多く残る男性中心の考え方や雇用の仕組みが、女性の活躍を阻害してきた。

女性労働力、特に育児世代の活用を考える企業経営者が知っておくべき、働く女性が置かれた現在の環境と、その活躍を助けるテクノロジー、そして求められる意識改革とは何かを、2人の子どもの育児をしながら、女性活用で成功する数々の企業や多くの働く女性を取材してきた「PRESIDENT WOMAN」編集部の横田良子氏と、テクノロジーを活用した働き方改革を多数の企業に提案している日本HPパーソナルシステムズ事業本部 パーソナルシステムズ・マーケティング部部長 甲斐博一氏の対談で探る。

株式会社日本HP
パーソナルシステムズ事業本部
パーソナルシステムズ・マーケティング部
部長 甲斐博一

【甲斐】横田さんは「PRESIDENT」編集部在籍中に結婚されて2人のお子さんを出産、いまは小学校と保育園に通わせながら、仕事と子育ての真っ最中ということですが、育児が始まる前と後で働き方はどのように変わりましたか。

【横田】結婚して10年目になるのですが、その頃は社内では、結婚したら辞める女性が多く、PRESIDENT編集部で結婚後も仕事をするのは私が初めてでした。それでも出産前は残業してもいい環境だったので、何時までという区切りがないなかで働いていました。いま振り返ると非常に生産性が低い働き方をしていたと思います。子どもができて一番変わったことは、仕事を終えなければならない時間が明確にあるということですね。私は夫がフリーランスですし、義理の母もいるのでかなり恵まれた環境ではあるのですが、週に2回は5時過ぎに退社しなければなりません。お迎えの日に限らずできるだけ業務を前倒しで進め、子どもが急に熱を出した時などにも対応できるように心がけています。

【甲斐】小さな子どもはよく熱を出すことがありますよね。そんなときの仕事や家族のバックアップはどのようにバランスを取っているのでしょうか。

【横田】家族のバックアップがすごく大きくて、私が迎えに行けないときは、夫、義理の母、ベビーシッターさんにお願いしています。それでも自分が帰らないとだめなときもあるので、自分の業務をブラックボックス化しないようにして「誰々さんじゃないとできない業務」をなくし、チームとして協働できるようにしています。PRESIDENT WOMAN編集部の7人中5人が働くお母さんですが、ほかの部署でもそうした方が増えていて、管理者層に介護をしている方もいらっしゃるので、生産性を上げることと柔軟な働き方ができるようにと、クラウド会議ツール「ChatWork」をいま試験的に導入しました。これでホウレンソウがかなりスムーズになったと感じています。編集部は働く場所も自由が利くので、必要に応じて家で仕事をしたり、退社後に残った作業を自宅でしたりすることもあります。

【甲斐】横田さんは、どこでも空いた時間を利用したりして仕事をできる働きやすい環境を既にお持ちですね。他方で、そういう環境にない子育て世代の女性の皆さんがどんな苦労をしているのかについて、女性活用を考える経営層への理解がより広まればよいと考えているのですが、この点についてどのように思われますか。

【横田】堅い会社に勤めている大学時代の同期の例ですが、夫婦とも会社員で子どもがいます。女性は仕事はもちろんフルで働いた上で、育児も家事も全部のしかかってくるので、毎日5時には絶対に退社して、子どもを迎えに行き、帰宅したら洗濯物取り入れて畳んで、ご飯を作って食べさせて、とやって力尽きて子どもと一緒に寝落ちしてしまうような状態です。でも上司や経営陣は9時~5時しか見ていませんし、5時で帰れて楽だなという風にすら感じているように感じています。帰宅してから肉体労働が待っていることが理解されていないのはすごく残念です。そうした方にはお子さんがいらっしゃったとしても、世代的には直接育児経験を持っていない方が多いと思うので、「これがリアルなんだ」という理解を深めていってもらえるよう、こちらからも発信していきたいと考えています。

【甲斐】働く母親は帰宅してからとにかくいろいろ待ち受けていて、ゆっくり過ごせる自分の時間なんてほとんどないですよね。(保育園へ子どもを預けることが終了し小学校へ入学する)「6歳の壁」あたりの大変さは、深夜まで会社で働いている人とそんなに変わらない。いや個人の時間だけをみればそれよりも大変。ただ、仕事ももっとやりたくて、成果を出したくて、責任感も強い方が多いので、仕事も育児も両方全力でやろうと取り組んでいるのだと思います。そうした働く母親を少しでも楽にしてあげるには、その夫の仕事の生産性も上げなくてはいけません。

株式会社プレジデント社
プレジデント ウーマン編集部
編集 横田良子
フリーランスの夫との共働きで、小学生と保育園の2人の子どもを育てる結婚10年目の働く母親。子育ては夫主導とのことだが、義理の母親やベビーシッターの助けを得ながら、働く女性のための雑誌「プレジデント ウーマン」の第一特集を担当する中心編集者として、子育てと仕事の両方をこなす忙しい日々を送る。

【横田】そうですね。女性はもちろんなんですが、男性も早く家に帰せる会社が増えてほしいと思っています。

【甲斐】これは育児だけでなく介護にも絡んでくるお話ですね。団塊の世代があと数年で70になり、団塊ジュニア世代に介護問題が訪れます。そのとき団塊ジュニアは40~44歳くらいという、一番仕事ができる時期なのに、介護のため働く時間が制限される状況になります。経営層が、少しでも早くいつでもどこでも仕事ができる環境を作ることこそ、介護や子育て中の働き手が仕事をあきらめることなく働いてもらうために考えなければならないことだと思います。これは、いま実践し始めている企業と、まったく取りかかれない企業にはっきり分かれています。

【横田】大企業で余力があるところは結構進んでいますよね。女性の活用ということでは、カリスマ的なトップ経営者、カルビーの松本さんとか大和証券の鈴木さんのような方がドカンとやって一気に進んでいますね。

【甲斐】これからの雇用という観点で、経営者の皆さんにお伝えしたいところなのですが、日本人はコンサバティブというか安定志向が強く、またこれまでの偏差値教育もあいまり、特に新卒などの若い人たちは有名な大企業に行きたがります。また親もそれでよしとする風潮があります。雇用の需給関係は全体的には売り手市場なんですが、大企業に極端に傾いていることはいろんなデータが示しています。その分、今後は中小企業や地方企業への就職者がどんどん減っていくことも同時に予測されています。また、女性の活用というところに戻るのですが、女性を採用するためにはその環境整備をしない限り優秀とされる女性を採用することが難しくなりますよね。このことは将来夫婦一緒に子育てをしようと考える若い人たちにも当てはまります。「中小企業には絶対に行かない、制度も考えも古いから」という声をよく聞きます。中小企業の経営者自らが感じて、考えて、女性や若者を採れる会社になってほしいと思うのですが、「女性が入りたい」と感じる会社はどのようなところでしょうか。

【横田】やはり場所と時間にとらわれない働き方ができることが1つ。それはニアイコールでIT投資をしている会社だと思います。テレワークの環境が整っていて、働く母親を特別扱いするのではなく誰もが在宅勤務を選べるような環境にしないと、働く母親がそれを選びづらいという運用面の問題が生じます。それから、社長がトップダウンで本気で新しい働き方を実践していて、社内外において男女関係なく活躍できる会社だと積極的に発信していているところなら女性にも響くと思います。もうひとつ、働いた時間ではなく生産性で評価してくれる会社が、時間的な制約がある中でも活躍できるかどうかの指標になりますね。

それから、多様な人材をまとめられるような力のあるマネージャーや中間管理層が多い会社ですと、女性が働きやすいかなと。読者や取材先の方と話していて感じることなのですが、経営トップが本気になって雨を降らせていても、中間管理職層が粘土層のようになって、下まで水が降りてこない。社長はこれを変えようとしているのですが、なかなか昭和的な価値観が変わっていかないということもあります。これまでの成功体験が強すぎるのだと思います。これは、「そういう管理職は評価しない」と評価制度の中に盛り込んでしまわないと、男性の中間管理職は変わらないのではないでしょうか。

【甲斐】これまで女性の活用や雇用について話してきましたが、企業側の目線に立つと生産性改善とその評価が本質的な課題という点はとても共感します。いま政府が進めている働き方改革についてはどのように見てらっしゃいますか。

【横田】長時間労働の是正策としての上限設定が、一番のホットトピックスだと思うのですけれども、私の経験ではキャップをはめることはすごく重要なファクターです。基本45時間で、忙しい時期は最大100時間というのはまだ長すぎますが、そこに制限をかけようとすることは、生産性向上に向けた意識改革という観点から見て大きな前進です。

【甲斐】仰るように働き方改革は手段であって、目的は生産性の向上にあります。今後、働き手は確実にどんどん減ってきます。世界で見てもいまだに第3位というそのGDPの大きさに比べ、OECD35カ国中20位あたりをずっとうろうろしている日本の1人当たりの生産性をなんとしても引き上げたいと思うのですが、そのためにはいろいろな方が多様な働き方ができるよう、ITを使わない手はないと思います。

ところが、残念なことに一般的な日本企業の経営層はITの進化に関する意識があまり高くなく、それが企業におけるIT活用の足を引っ張っています。ITを投資と考え、その投資で利益がどのくらい上がるのかといった議論を経営陣とIT部門がすることなく、ITをコストと捉える企業が60%以上を占めているのです。ITを投資と見るかコストと見るか。投資と考える企業は先進的なITを理解して、それによって少ない人数で多くの利益を上げているケースが多いのです。手始めにセキュリティを確保した軽量薄型のノートパソコンやモバイルデバイスを自由に持ち出してどこでもいつでも仕事ができるようにすることから始めてみるだけですぐに変化が訪れます。次にネットワークやクラウドといったインフラを整備しなければならないことに気づきますが、それと同時に固定電話って必要なのだろうか?などといった今まであまり考えてこなかった疑問も沸いてき始めます。今までのオフィスのデスク中心の仕事がより自由に広がっていくんですね。もちろんいままでの就業形態なども変え、評価方法の見直しなども必要になりますが、これらの連続した環境改善が生産性を向上させ、また社員のロイヤリティもあがり、そのことが女性や若い人の活躍推進と雇用確保につながっていくという発想が重要かと思います。

【横田】実は弊社もチャットツールの試験導入をするだけでも、ポジションは関係なく年配層とのジェネレーションギャップを感じました。私たちやそれより若い世代はチャットツールの便利さや、生産性が上がることを理解しているのですが、上の人たちは「メールも見なきゃいけないし、チャットも見ないといけなくなったら効率が悪くなるんじゃないか」とか、新しいものを取り入れることに対する拒否反応がありました。そのあたり、企業の経営をされている方々にも、若手とシニア層のギャップのようなものがあるのかなと。

【甲斐】多様な働き方を支えるデバイスについてお考えを聞かせていただけますか。どんなデバイスだったら、ご自分のお仕事が進めやすくなるでしょうか。

【横田】タブレットや2in1(キーボードを装着するとノートパソコンのように使え、外すとタブレットとして使えるデバイス)が便利かなと感じています。仕事柄、ノートを取ることが多いのですが、メモをなくすこともあるので、タッチペンでメモを取ったり、デジタル化を進めたいと思っています。編集部でもそういう意見がありました。編集部でデスクに向かって仕事をする時間はもちろん必要で、そういうときは集中してやりますが、企画などアイデアを出さないといけないときは、カフェや散歩しながらのほうが発想しやすいので、そういう場所でもすぐメモできたり、思い付いたことをパッと録音できたり、仕事現場として使えるようなものがあるといいなと思います。それから、会社の仕事と家や外部での仕事を、シームレスに進められるようデスクトップを同期させておけるような機能があると、どこでも作業の続きがすぐできてありがたいですね。あとは、軽さと運びやすさ、それにおしゃれさが欲しいと常々思っていますので、HPさんにはそういった視点でも頑張っていただけるとうれしいです。

「うちの読者もそうですが、スーパーウーマンみたいな、バリバリやっていきますということではなく、やりがいのある仕事を、女性としての幸せも感じつつ充実した生活、まさにQOLを送りたいと思っている方がほとんどです。そこをテクノロジーが支援できるならいいなと思います」(横田氏)
「人口動態では日本は世界の最先端です。だから日本は幸せになって世界に見せないといけない使命のようなものがあると感じています。“一生懸命頑張って、苦労して仕事を続ける母親”ではなく、もっと楽に両方をこなしていく女性のクオリティオブライフ(QOL)実現と、それを支えながら自分自身もQOLを実現する夫、そしてそれを見て育つ子どもという状態を、日本こそが実現すべきです」(甲斐氏)

【事例】いち早く女性活用に取り組んだ企業が採用した解決策とは

他社はどのように取り組んでいるのか、気になる読者の方も多くいらっしゃるでしょう。北陸エリアを中心に業務を展開している「北陸銀行」は、最新のインテル(R) Core(TM) M7 プロセッサ搭載「HP Elite x2」を採用し、女性活用のための施策を実践しています。 女性活用し、社員のQoL(Quality of life:クオリティーオブライフ)を高めた北陸銀行の取り組みとは。

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