2012年にスタートした再生可能エネルギーの固定価格買取制度。太陽光の買取価格は年々低下し、今年制度の内容も大きく改正された。ただ一方で、この間太陽光発電システムの設置コストが大幅に低下していることは見逃せない。日本でも、太陽光による発電コストが、既存電力の発電コストを下回りつつあるとの報告がなされている。
そうした中、国内で存在感を示している太陽電池モジュールメーカーの一つがインリー・グリーンエナジー社だ。中国に本社を置く同社は、品質やアフターサービスなどのレベルアップを徹底的に追求。25年間の出力を保証しながら、世界最大級の生産量を背景とするスケールメリットで競争力のある価格を実現している。
今回、同社日本法人であるインリー・グリーンエナジージャパンにおいて、技術部門トップとして品質管理を担当する中路基成氏、技術的立場から設置アドバイスを行う高梨弘樹氏、アフターサービスを担当する高牟禮義博氏に、それぞれ業務内容や仕事への思いを聞いた。

日本市場の声をグローバルな品質向上に活かす

中路基成(なかじ・もとなり)
インリー・グリーンエナジージャパン株式会社
技術部 部長

──貴社製品の品質面の特徴について教えてください。

【中路】当社の太陽電池モジュールの品質を支えているもの。それは何より、一貫生産体制です。シリコンインゴット、セルの製造からモジュールの製造まですべて自社で手がけているため、全工程で品質改善を重ねていくことができ、全体最適を追求することが可能です。N型単結晶シリコンを使ったモジュールの製造にも、初期から取り組んできました。

単結晶は多結晶に比べて発電効率が高く、またN型は市場に多く出回っているP型の発電効率を大きく上回ります。朝夕や曇りなど日照の弱い時にも効果的に電気を生み出せ、初期劣化も少ないなど多くのメリットがあります。当社ではこのN型単結晶シリコンを使った両面ガラスモジュールも開発し、日本でも販売を開始しました。両面から効率良く光を取り込むことで出力が最大で30%アップします。

──品質に厳しいといわれる日本市場で事業展開するにあたり、留意されていることは?

【中路】インリー・グリーンエナジージャパンは、社員の採用もすべて国内で行うなど、日本法人として高い独立性を有しています。日本市場では製品の機能面はもちろん、外観や細かい施工への目配りなども求められますから、本社工場に対して特別に部材や仕様の指定を行う場合もあります。また、日本のお客様と一緒に中国の工場を訪問し、直接意見をいただくこともあります。現地スタッフにとっても、お客様の生の声を聞ける機会は貴重で、仕事に向かう意識の向上につながっています。

インリーではN型単結晶シリコンを用いた太陽電池モジュールを「PANDA」というブランド名で展開。欧州、米国、中国をはじめ、グローバルブランドとして各地で好評を得ている。PANDAの両面ガラスモジュールでは、背面からの入射光の条件によって最大30%出力が増加する。中国では、先進技術を認定して太陽光発電を促進する「トップランナープログラム」の「テクノロジーイノベーションアワード」にも認定されている。

──中路さん自身が仕事の中で大事にしていることは何ですか。

【中路】技術者であっても、お客様に対しては同時に営業担当であるという意識を持つよう心がけています。お客様の希望は、あくまで「効率的な太陽光発電を行いたい」ということ。細かい技術の話だけを聞きたいわけではありません。技術者としてモジュールの特性を十分に理解した上で、お客様の立場になって最適な方法を伝え、疑問点にきちんと答えていくことが大切です。

またお客様のリアルなニーズを本社にフィードバックすることも重要な仕事です。その積み重ねによって、日本レベルの品質をグローバルに展開していく土台作りをすることが私の使命の一つ。お客様の悩み事や要望は、品質向上の最大のヒントであると考え、仕事にあたっています。

モジュールの能力を最大限に引き出すサポートを提供

──高梨さんの担当業務について教えてください。

【高梨】お客様が製品をご購入、ご検討頂く際に技術的な視点からの提案やサポートを行っております。太陽電池モジュールの発電量や寿命は、設置の仕方などによって大きく変わります。そのため、営業的な視点からのご提案だけでなく、製品のポテンシャルを最大限に引き出せるようにする技術的な提案も不可欠です。具体的には、降雪地なら雪が積もりにくい角度を選ぶ、新製品の両面ガラスモジュールなら裏面からの散乱光も取り込みやすいよう設置するなど、設置場所の地形、日照状況、環境に適した設置や施工、メンテナンス方法などのご提案を行っています。

高梨弘樹(たかなし・ひろき)
インリー・グリーンエナジージャパン株式会社
技術部 部長代理

「予定地が狭小地や海のすぐ側で、他社から設置、あるいは保証は難しいといわれた……」というご相談を受けることもあります。確かに、機器の作動や性能を保証するメーカーの立場からすると設置や保証が厳しい環境は存在します。しかし、施工の仕方やメンテナンスを工夫すれば設置ができるケースもある。塩害が予測されるなら、錆びにくいようアルミを使った固定方式を選んだり、対策が取りやすいパワーコンディショナ(直流の電気を交流に変換する装置)を提案したり……。メーカー目線の保守的なアドバイスにならないよう、常に意識しています。

──モジュールだけでなく、システム全体についても助言するんですね。

【高梨】現地の情報を詳しく聞きながら、気象庁のデータや近隣の太陽光発電所の様子なども参考に、周辺機器を含めて最適な設置、施工の方法をご提案します。また、発電量予測シミュレーションや設備認定の申請のお手伝い、さらに金融機関からの融資にあたっても技術的知見が重要になるときがありますから、様々な角度からサポートしています。

──自身の仕事の意義について、どう考えていますか。

【高梨】私はプライベートでも、太陽光発電システムへ投資し、その運営を行っています。利用者の立場で申請、施工アレンジ、設計、メンテナンスを一通り経験することで、お客様の気持ちや手間を肌身で感じることができました。

今後の環境問題を考えても、太陽光発電の果たす役割は小さくありません。私の提案が生かされ、お客様に「予想以上の発電ができた。安定して稼働している。」と喜んでいただけるとやはり嬉しいですね。今後もFITなどの制度や周辺機器の最新情報をフォローしながら、製品の性能を最大限に引き出す方法を追求し、地に足の着いた太陽光発電の普及を後押ししていきたいと考えています。

インリーブランドの顔として誠意あるサービスを

──QA課での髙牟禮さんの業務内容について教えてください。

【髙牟禮】ご購入後のカスタマーサポートを中心に、出荷前の検品なども行っています。太陽光発電システムは長期間使うものですから、製品が本来の性能を発揮できる環境を維持することが欠かせません。しかし、例えば周囲の木や電線の影がモジュールにかかっていたり、施工時にねじを締めすぎた結果、モジュールに負荷がかかって破損が起きるなど、本来の発電量が得られないという状況も起こり得ます。そうした状況が生じた際、お問い合わせ内容に応じて現場で点検を行い、原因を特定し、状態に合わせて改善アドバイスや部品交換なども含めた対応を行います。

髙牟禮義博(たかむれ・よしひろ)
インリー・グリーンエナジージャパン株式会社
技術部 QA課 課長

──現場で作業を行う際に心がけていることはありますか。

【髙牟禮】モジュールを含む発電システム全体がお客様の大切な資産ですから、作業ミスによる汚損・破損がないよう十分な注意が必要です。また、作業中に事故が起きればお客様に多大なご迷惑をかけてしまいますから、スタッフ同士で声をかけあって安全第一で作業を進める。作業後に接続ボックスの鍵の閉め忘れなどがあれば雨水などが入って故障の原因にもなりかねませんので、当然ながら最後の確認、さらに整理整頓もしっかり行っています。

一方で、点検は発電システムを一時停止して行いますから、ダウンタイムをできるだけ短くすることも大切です。そこで作業前には配電盤の位置などを調べ、最も効率的に作業が行える導線を確認。オーナー様の目線になって、丁寧かつスピーディーに作業を進めています。

──サービス面におけるインリーの強みは何だとお考えですか。

【髙牟禮】お客様からは「日本国内にしっかりしたサービス部門があるので安心」「日本の担当者と話が進められ、また、スピーディーに対応してくれるので助かる」といった評価をいただいています。

お客様のもとにうかがって直接対応を行う私たちは、いわばメーカーの顔とも言える存在。ミスのない作業を行うのはもちろん、どれだけ親身にサポートができるかが問われます。

海外では部品交換などが必要になった場合、交換さえしてくれればいいというお客様も多いのですが、日本であれば原因を分かりやすくご説明することが欠かせません。また、設備利用に関するご質問やご要望をいただいた場合も丁寧にお答えし、その場でお答えできないことは戻り次第、確認してなるべく早くご連絡を差し上げる。そうした誠意ある対応の積み重ねが、製品の質とともにインリーブランドをつくっていくのだと考えています。