色に関する知識のギャップが制作に影響
通信販売大手のジャパネットグループは、昨年6月、公益社団法人色彩検定協会が実施する「色彩検定」を団体受検。およそ40名が2級と3級に挑戦した。団体受検を決めた経緯について、ジャパネットホールディングス人材戦略部教育戦略課の中村佳裕チーフは次のように話す。
「当社グループのカタログやチラシなどを制作する部門には、企画をするチームと制作を行うチームがあります。そこで制作物の打ち合わせをする際、双方で色使いについての話が噛み合わないことがありました。関係する社員の間で、色に関する知識や認識にギャップがあり、結局のところ感覚的な話になってしまうことが多かったのです。しかし、より良いものをお客さまにお届けしたい。それが、制作に関わるスタッフの想いです。それならば、お互いの会話の“土台”となるものが必要だろうということで、色彩検定の団体受検を会社の制度に組み込みました」
ジャパネットでは、現在10を超える資格や検定の団体受検を制度化している。また、任意参加の選択式研修も用意され、学習機会を増やしている。それは同社グループが、日本一の教育制度の持つ会社を目指しているからだ。「学ぶ意志を持った社員を最大限応援する。それが私たちの会社の基本的な考え方」と中村氏は語る。
ジャパネットはお客さまに対し価値を生む企業、社会に貢献する企業でなければならない。それには社員一人一人が公私共に充実した日々を送ることが重要だ。学習機会の提供も、それを実現する手段の一つと同社では考えているのである。
色彩検定は、色に関する幅広い知識や技能を問う検定試験として1990年にスタート。現在は、文部科学省後援の「技能検定」となっている。学生、ファッションやグラフィックのデザイナーのほか、販売、営業、企画などの職種にある社会人の受検も増えている。3級から1級まであり、3級では色の働きや心理的効果、視覚的効果などの基礎が試験の対象。2級では配色イメージやデザインと色彩など、1級では環境色彩計画やユニバーサルデザインの色彩などについても問われる。
仕事の幅が広がる
「色」に関する複数の検定があるなかで、ジャパネットが色彩検定を選択したのには次の理由があった。
「クリエイティブ関連の部署にとって必要な基礎的な知識を身に付けられるのはもちろん、とても実用性が高い内容だったからです」
例えば色彩検定受検のための公式テキストには、「暖かい」「柔らかい」「ダイナミック」「エレガント」など、さまざまなイメージを具体化するための配色理論や配色例、ビジュアルの実例が挙げられている。街で見かけるポスターや雑誌の表紙デザインなどの事例が豊富に紹介されているのも特徴だ。
「公式テキストに沿って学ぶだけで、すぐにビジネスの現場でも生かせると感じました。2級レベルの知識を身に付ければ、仕事の幅もより広がっていくだろうという印象です」
受検した社員からは、テキストが総論から各論へ展開されているので理解しやすく、段階ごとに理解度をチェックできるので学びやすかったという声も上がっている。合格者には初めて色彩を学んだ人も多かった。
「こうした色の知識はクリエイティブ関連の部署だけではなく、幅広い業務の中で、例えば企画書や提案書の作成などにも生かせると思います。色は自分の伝えたいことを相手の感覚に直接訴えることができる手段。ちょっとした工夫やアイデアで、受け手の印象を大きく変えることが可能です。ただ、送り手にきちんとした論理がなければ単なる独りよがりにもなってしまう。しっかりとしたロジックがあることで、より質の高いコミュニケーションができると思うんです」と中村氏は言う。
受検後の制作現場の会話が明らかに変化
色彩検定の受検後、制作の現場では変化が出始めているという。
「担当部署の責任者からは、制作に関わる社員が制作の意図をわかりやすく客観的な言葉で説明し合えるようになったと聞いています」
例えば春らしさを伝えるチラシを作るとき、春といえば桜のイメージだからピンク色を採用したい、ただそれが前に出過ぎると“春”を強調するだけで販売にはつながりにくいのではないか──という議論になったとする。そんなときも、上司は配色に関して根拠を持って指摘することができ、一方、担当者もそれを感覚ではなく理屈として理解できる。これまでより一段階上のレベルで議論することが可能になるというわけである。
何より、「なんとなく温かみがあるから」などという感覚的な意見ではなく、色の効果を明言できるようになったことが大きい。色彩検定の学びを通じて得た知識がまさに会話の土台となり、個人の経験値や感覚に頼ることなく、意見を交わすことができるようになったのだ。
社員が自らの成長を確認しながら次のステップに挑戦できる学びの環境を大切にしているというジャパネットにとって、検定の団体受検もその重要な機会だ。中村氏は今後について、「社内には色彩検定1級合格者もいますので、先達の知識や経験を社内で共有しつつ、受検者数も資格保有者数も増やしていきたい」と言う。
色の存在は誰にとっても身近なものだ。しかし、感覚や感性だけに基づいた配色などには限界がある。好みや先入観から脱するには、やはり確かな知識や技術が必要である。“色の効果”で、他社との差別化を図りたい、オリジナリティを発揮したいと考える企業にとって、色彩検定は注目の検定試験といえそうだ。
表現の選択肢が広がり、色への興味も深まりました
入社3年目で、ジャパネットグループのブランディングに関わる採用パンフレットやノベルティグッズなどのデザインを担当しています。大学時代にデザインを専攻していたので、色に関する一般的な知識は持っていました。ですから色彩検定の受検を決めたものの、かえって色のルールに縛られるのではないかという懸念もありました。でも、公式テキストに沿って学び始めたとたん、表現の選択肢が広がっていくことを実感しました。勉強に費やしたのは約1カ月ですが、おかげで2級に合格できました。
以前よりも色の持つイメージや配色による効果を論理的に考え、説明できるようになったと思います。例えばコーポレートカラーである赤・白・黒を生かしつつ、より引き立てるデザインを作ろうとしたときは、ロジックをもとに中間色であるグレーを入れることで、洗練された雰囲気を出すことができました。ますます色に対する興味がわいたので、次回は1級にも挑戦したいです。