アストラゼネカ株式会社の新たな代表取締役社長に就任したデイヴィド・フレドリクソン氏に、「常に患者さんを第一に考える(always putting patients first)」という原則に沿った日本におけるビジネス展開を伺った。同氏は、革新的な新薬をがん患者に届けるという目標の達成について、自身の経営手法を交えて語った。
15年以上にわたるライフサイエンス業界での経験を有し、特にがん領域でその経営手腕を発揮。日本法人社長就任前にはアストラゼネカ米国法人のスペシャリティケア領域であるがん、ニューロサイエンス、感染症の統括責任者として、18カ月で5つの新薬の上市に成功。日本の市場において特にアンメットニーズが高いと考えられる「がん」「呼吸器・自己免疫疾患」「循環器・代謝疾患」の3つの領域に注力する。2016年8月1日に、アストラゼネカ日本法人の代表取締役社長に就任し、新社長としてこれまで培ってきた米国での経験を最大限に生かす。日本製薬工業協会常任理事、欧州製薬団体連合会(EFPIA Japan)副会長も務める。
日本にいる30万人超のがん患者さんのために
──ご自身の日本での使命をどのようにとらえていらっしゃいますか。
アストラゼネカの使命は、革新的な医薬品を効率的かつ迅速に日本の患者さんにお届けすることです。「がん」「呼吸器・自己免疫疾患」「循環器・代謝疾患」の3領域に注力し、2021年までに毎年一つ以上の新薬を上市することを目指しています。
この目標を達成する上で私自身が実践している経営手法は、前職のバイオテック企業で働いていた時に社員が教えてくれた、極めて単純な原則に基づいています。それは、「患者さんに寄り添って正しい道を進めば、成果はおのずとついてくる」というもの。これは、まだ満たされない医療上のさまざまな課題(アンメットニーズ)に応える革新的な医薬品を開発し、患者さんにお届けする、というアストラゼネカが掲げる患者さん第一主義とも一致しています。私はこの原則に忠実である限り、企業としての成長を継続できると考えています。市場調査会社IMSの統計では、当社は国内製薬市場の売上ランキングで6位に浮上しています。今後さらなる成長を遂げ、業界のリーディング企業になることを目指しています。
──アストラゼネカががん領域をビジネスの中核分野に位置づける背景にはどのようなお考えがあるのですか。
がんは、今日の日本において、最大の死亡原因となっている疾病です。そこには、大きなアンメットニーズが存在し、革新的な医薬品を創造することは極めて重要な課題と考えます。政府もこの必要性を認識し、有効ながん治療薬の開発を支援しています。アストラゼネカはがん領域において有望な新薬候補を数多く有しており、現在、日本で第III相臨床試験(多数のがん患者さんを対象にした新薬の有効性と安全性を確認する最終段階の臨床試験)が進行中の薬剤は13を数え、これらは今後5年以内に上市できる見込みです。がん領域において多数の新薬候補を抱えるパイプラインを強みとして、当社は日本の30万人を超えるがん患者さんの治療に寄与できるものと自負しています。
──がん領域で競合他社との差別化をどのように図ろうとされていますか。
差別化の一つは、研究開発に優先順位を付け、「卵巣がん」「乳がん」「肺がん」、そして「血液がん」の四つのがん種に注力していることです。
もう一つは、薬剤の効果をもたらす仕組み(作用機序)に関わる技術を、四つの基盤に集約して開発を進めていることです。四つの技術基盤は、腫瘍ドライバー遺伝子変異と耐性メカニズム、DNA損傷修復、がん免疫治療、抗体薬物複合体を指し、それぞれ異なった手法でがん細胞と戦います。これらの複数の技術基盤を有することで、がん細胞の縮小や消滅、あるいはヒトの免疫系を刺激してがん細胞を選択的に攻撃するなどのさまざまなアプローチが可能となり、その結果、革新的な新薬を適切なタイミングで適切な患者さんにお届けすることができます。特に、ヒトの免疫システムを刺激しがん細胞を破壊するよう設計されたがん免疫治療には注力しており、アストラゼネカは、現在複数の免疫チェックポイント阻害薬を開発中です。さらに、技術基盤の異なる薬剤を併用することで、有効性を向上させるための研究も進めています。
常に患者さんにフォーカスし続ける
──アストラゼネカの「患者さん第一主義」が実際に示された例を教えてください。
当社は、昨年5月に肺がん患者さんのために革新的な分子標的薬の販売を開始しました。肺がんは日本におけるがん死の原因の第1位であり、既存の薬剤が効かないため次の治療手段が限定され、治療の継続が困難になってしまう患者さんが少なくありません。当社の新薬は、こうした新たな治療選択肢を緊急に求める患者さんに向け開発されました。薬剤を1日も早く患者さんにお届けするため、迅速な承認を得ることに加え、そのほかの課題についても検討し、対策を行いました。
一つ目の課題は、薬剤が承認されても薬価がつくまでの約2カ月間は薬剤を処方できないという制度上のものでした。当社は、社外関係者とも協力し、この期間薬剤を無償提供することにしました。二つ目の課題は、承認後の製品が工場出荷されてから医療機関に届くまでの時間でした。そこで、米原にある工場の出荷プロセスを工夫し、最初の出荷を48時間以内に行いました。三つ目の課題は、医療機関における医薬品採用までの時間でした。当社は承認後少しでも早く患者さんへの処方が可能となるよう、医療機関への情報提供を積極的に行いました。これらの対策の結果、承認取得から薬価収載を待つまでの2カ月間に290人の患者さんがこの新薬を使用することができました。
最近、私は東京の大学病院で働くオンコロジスト(癌専門医)と面談し、人工呼吸器を装着していた肺がん患者さんのお話を伺う機会がありました。この患者さんは、新薬による治療を受けたことで人工呼吸器を外すことができ、今は自宅療養中とのことでした。このような患者さんの存在を知ると、アンメットニーズへの迅速な対応がいかに重要かを痛感します。我々は患者さんの緊急のニーズを背負いながら業務を推進しています。そして、それこそが患者第一主義にほかならないと考えています。
アストラゼネカは、サイエンス志向のグローバルなバイオ・医薬品企業であり、主に呼吸器・自己免疫疾患、循環器・代謝疾患、オンコロジーの3つの重点領域において、医療用医薬品の創薬、開発、製造およびマーケティング・営業活動に従事。100カ国以上で事業を展開しており、その革新的な医薬品は世界中で多くの患者さんに使用されている。日本においてもオンコロジー、循環器・代謝疾患、呼吸器・自己免疫疾患を重点領域として患者さんの健康と医療の発展への更なる貢献を果たすべく活動している。
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