今、あらためて社会問題化している長時間労働。企業はいっそうの対応を迫られることになる。「その鍵は人事評価制度の刷新」という、あしたのチームの高橋恭介社長に話を聞いた。
今の中小企業は「五重苦」の状況にある
──政府が「働き方改革実現推進室」を設置するなど、労働環境の改善は国を挙げた課題になっています。この問題をどう見ていますか。
【高橋】電通の過労死問題が大きく報じられた一方、都庁では小池百合子知事が「20時完全退庁」を導入し、長時間労働の是正に焦点があたっています。「自分の会社の常識は、世の中の非常識」ということは多々ありますが、その最たるものが時間管理でしょう。今回の問題への反響が大きい背景には、常識とのギャップを感じた人が多いことがあると思います。ただ考えてみれば、どんな会社も、自分たちでは気付かないけれど独自の習慣を持っている。一連の報道や動きを人ごとと考えてはいけないと思います。
──労働環境の改善は重要な課題ですが、企業の経営環境はまだまだ厳しい部分があるように思います。
【高橋】おっしゃるとおり。特に中小企業は「五重苦」といえる状況に置かれています。一つ目は人手不足。有効求人倍率が高い状態で超売り手市場になっており、中小企業になかなか人が集まりません。
二つ目は賃上げ。最低賃金の上昇が続いており、例えば今年、東京都では25円上がりました。これがじわじわと経営を圧迫しています。
三つ目は労働法の改正による時間外労働の規制。現在は特別条項付きの協定を結べば実質無制限に残業ができてしまいますが、これを見直して上限を超える残業を原則禁止。罰則規定を設けるなど、規制強化の動きがあります。
そして四つ目は労使紛争の激化。今後は未払い残業代請求の裁判が増えるなど、労使紛争が日常化していくと思います。さらに五つ目が社会保険料の負担増。これらの問題が関連しながら、深刻化しているのが現在の状況です。
「フェアに差を付ける」これが重要!
──そうした問題を解消し、競争力を高めていくために、企業側ができることは何でしょうか。
【高橋】一つには、人事評価制度を時代に合った形に変えることです。そもそも日本の産業構造自体が大きく変化しました。かつてのように製造業が強く、経済が右肩上がりの時代には、終身雇用と年功給を中心とした仕組みが有効に機能しており、一人一人の評価に差を付ける必要があまりなかった。しかし現在のように、サービス業の割合が高まり、個人の成果も明確になるなかで、「頑張っても、頑張らなくても賃金が同じ」ということでは納得感がありません。一応は年俸制などを取り入れ、差が付く制度を採用している企業も多いですが、運用の実態としては評価によって差が付かないようにしており、年功給とほぼ変わらない結果になっています。
──人事評価制度を見直し、うまく運用していくには、どんな視点が必要でしょうか。
【高橋】一言でいえば、「フェアに差を付ける」こと。頑張っている人にもそうでない人にも一律の賃金が支払われる「平等という名の不平等」から脱却しなければいけません。これを実現するには、マイナス査定もきちんとやる必要があります。経営者の中には、基準内賃金を引き下げることは違法だと誤解している方もいますが、ルールに基づいていれば問題ありません。むしろ「成果と給与の不釣り合い」が主要な退職理由になっていることにもっと目を向けるべきです。適正な評価制度により、優秀な社員が会社に残ってくれれば、採用コストも削減できます。
ただし、ここで正しく認識していただきたいのは、マイナス査定はコストカットのためにするのではない、ということです。成果を上げた社員を評価すれば、それはやる気の醸成につながり、結果として生産性が高まります。ひいては、会社全体の業績が上がり、社員に払える給料の総額が上がる。それをまた成果に応じて正しく分配する、ということが重要なのです。
頑張っている社員に正当に賃金を払える
──あしたのチームのサービスは、およそ750社10万人に導入実績があります。顧客からの声やサービスの特徴について教えてください。
【高橋】我々は主に中小企業向けに人事評価制度の整備や運用のサポートを行っています。クライアントの皆さまにおしなべて言っていただけるのは、「社員の目の色が変わり、いきいきと仕事をするようになった」ということ。また、「これで頑張っている社員に正当に賃金を払える」という声もお聞きします。実際、多くの経営者は成果を上げた社員に報いたいと強く思っています。そのための合理的な方法が分からないという場合が多いのです。
我々のサービスには、「行動目標の自己設定」をはじめ、上にまとめたとおり、五つのポイントがあります。クラウドの活用も大事な点で、国の働き方改革でもITやAIの重要性が指摘されています。
クラウドサービスを上手に使い、中小企業でも導入しやすい仕組みを提供しながら、当社としては人事評価制度や評価データが社会のインフラとなるような環境づくりにも貢献していければと考えています。転職時には履歴書や職務経歴書同様に、人事評価データの提出が求められ、企業側も自社の制度を提示する必要がある。そうした社会が実現すれば、企業はより雇いやすく、社員はより働きやすくなるに違いありません。
──最後に、経営者の方へのメッセージをお願いします。
【高橋】事業の中ではさまざまな投資が必要ですが、これからの時代、ぜひ“人への投資”をいっそう大事にしてほしいと思います。広い意味では人事評価制度の刷新も、その一つです。長い間定着している決まり事や規則を変えるのは、確かに手間がかかるし、面倒なことです。しかし、その手間をかけることが、社員に、そして会社に活力を与え、さらなる成長をもたらすはずです。