「長く住み継がれる家づくり」を考えたとき、大切にしたいことは「家族に愛され、大事にされる家」だと話してくれた建築家の丹羽 修さん。自分や家族の成長、メンテナンスなど長期的な視点で家づくりを考えることも大切だという。「住み継ぐ家」の考え方をうかがった。
一級建築士 NLデザイン代表
丹羽 修さん
一級建築士。1974年千葉県生まれ。芝浦工業大学工学部建築学科卒業後、建設会社、設計事務所などに勤務。2003年NL&DESIGN(エヌエル・デザイン)設立。柏市と鎌倉市にアトリエを構え住宅設計を中心に活動している。NPO法人「家づくりの会」に所属し現在副代表を務める。家づくり学校講師、職業訓練校講師。双子座の双子で、一卵性双生児の兄弟との二世帯住宅「双子の家」に暮らす。著書に『家を建てたくなったら』(WAVE出版)、『こだわりの家づくりアイデア図鑑』(共著、エクスナレッジ)など。

比較にとらわれずに住宅を考えてみよう

最近、大きな地震が頻発しているせいもあり、住宅の耐震・耐久性を気にかける方が多いですね。もちろん、次世代にわたり「長く住み継ぐ家」を考えるならば、地震や水害に強い基本構造を持っていることは重要です。

一般に注文住宅は、震度6以上の地震に耐えられる、新耐震基準に適合しています。一定の水準以上の耐震性は確保されているわけですが、法律が定めているのは、あくまでも最低基準だということを忘れないでください。

ところで、家づくりの相談で私の事務所を訪れる方は、それまでにたくさんの住宅展示場を回り、建築雑誌などもよく読んでいます。多くの事例を見て、比較検討することも大切です。しかし、あまり比較にとらわれすぎると、家づくりにおける最も大事な視点が欠け落ちてしまうことがあります。

ですから、私は最初にそうした知識を、一旦脇に置いてもらうようにしています。注文住宅のよいところは、設計者と意向をすり合わせながら、いわばオリジナルの家をつくっていけることです。ですから、家づくりでまず考えていただきたいのは「どんな家に住みたいか」ということです。

愛着のある家は長く住み継がれる

長く住み継がれる家、その寿命は住む人が決める。住む人が愛着を持っている家ほど長持ちするのだと私は思います。

鎌倉にある私の事務所は、築90年の木造住宅です。この家は、家主の先代が手をかけて建てたもので、家主は父親がこの家を大切にしていたのを知っています。ですから、空き家にはなってはいましたが、壊すことも建て替えることもしなかったのです。

私は、その空き家を事務所として借りました。応接室は、床の間のある和室。エアコンもありません。打ち合わせに来る方は、最初は驚きますが「居心地がいい。長居したくなる」と喜び、「家って、こういうふうでもいいんだ」と言います。

ほかにも、築120年という明治時代の商家をリフォームして引き継いでいこうという30代の女性もいます。古い家は、アパートやマンションに建て替えられることが多いのですが、それをしなかったのは、損得以上の気持ちが働いたからでしょう。住む人の愛着が、その家の寿命を長らえることの好例だと思います。

「家の記憶」から新居を考える

「家を建てたい」という方の多くは当初、具体的な暮らしのイメージをあまりはっきりとは持っていません。聞くと「リビングは〇畳大で、個室はいくつ……」という間取りの話になります。しかし、それは暮らし方のイメージとはいえません。

そこで私は、こういうふうにたずねます。

「自宅や過去に暮らしていた家、祖父母の家などで、ここが好きだったとか、とても居心地がよかったというところはありますか」

すると、縁側とか板の間、高窓から日が差す茶の間、あるいは通っていた学校の木造校舎など、いろいろな空間が場面とともに出てきます。建てたい家をイメージするとき、間取りなどより先に、自分や家族にとってそういう気持ちのよい空間、居心地のよい空間がどういうものであったかを考えてみるといいでしょう。それらの要素を、現代版にアレンジして、住宅に反映していけば、きっと愛着の持てる家になると思います。

また、長く住み継ぐには、その土地の風土に合った家にすることも大切です。在来の家を見ていくと、湿気の多い土地では床を高くする、西風の強いところでは壁や塀で西側を遮蔽するなど、さまざまな暮らしやすさの工夫が施されています。その土地に古くからある家に、どんな工夫がなされているかを見ることも、私はお勧めしています。

家づくりは人生設計と同じ

家を住み継ぐことを考えるならば、改修や修繕にも配慮しなければなりません。

よくRC住宅か木造住宅かで迷う方がいますが、それぞれに長所があります。RCは耐火性、遮音性に優れ、スパンの長い広い空間をつくるのに適しています。一方、軸組の在来工法の木造は、間取りの変更や増築が柔軟にできることが長所です。

いずれにせよ、家族構成の変化や、加齢により家の使い方は変わります。例えば、子供が独立したあと、子供部屋に使っていた個室をどう使うか、あるいは2階がリビングの住宅で、ご夫婦が高齢になり、1階で暮らしたいと思ったときに、居住スペースを1階に移せるかといったことです。

いずれの場合も、可変性を持たせた間取りや設備をあらかじめプランしておくと、そのときに大幅なリフォームなしに対処できます。

最近では将来、親が一人暮らしになったときに、同居して世話をしたいという方が、30~40代のご夫婦に少なからずいます。この場合、新築時からそのための部屋を用意しておくわけにもいきません。他の用途で使う部屋を転用できるようにしたり、増築することをあらかじめ想定してプランしておくとよいでしょう。

補修のための費用を積み立てで

家づくりで、意外と見落としがちなのが、修繕にかかわることです。年を経れば家も傷み、修繕にはまとまった費用もかかります。

新築住宅では、初めの10年間で基本構造などに不具合や不良が見つかった場合、建築会社や販売会社が無償で修繕する義務が、法令で課せられています。これを20~30年間に設定しているハウスメーカーもあります。

ただし、保証範囲外の補修には費用を要します。そこで私は、顧客に「1カ月に1万円でもいいから、修繕費の積み立てをしてください」と勧めています。1年12万円では何ほどのこともできませんが、10年で120万円になれば、外壁の塗装費には十分です。

建物自体が急速に傷むことはありませんが、設備機器は10~20年ほどで補修や交換するものが出てきます。とくに水回りの配管は、15~20年ほどでメンテナンスが必要です。ハウスメーカーなどの長期保証や点検・補修サービスを検討される場合は、そのスケジュールや内容、費用などをきちんとチェックするようにしましょう。

最後に改めて申しますが、家づくりは商品選びではありません。暮らしづくりです。新しい家でどんな暮らしをしたいのか、それを家族で丁寧に話し合うことで、家への愛着が育まれていきます。

家づくりに込められた親の思いは、次代を担う子供たちへのメッセージでもあります。そして、子供たちはそんな親の姿を、案外とよく記憶にとどめているものです。

(鶴田孝介=撮影)