1996年、千葉県松戸市に三国歯科医院を開院。その後、医療法人社団大伸会は、首都圏の1都3県に16の歯科医院を展開するグループに成長し、年間のべ24万人ほどを診療している。2016年7月には、ベトナムへの進出も果たした。着実に歩みを進める大伸会の三国大吾理事長が、グループ経営のポリシーと今後への思いを語る。
医療法人社団大伸会
千葉県に7院、東京都に3院、埼玉県に5院、茨城県に1院、新たにベトナムにも1院の直営および提携歯科医院を展開。経営と診療の役割分担の徹底で、診療スタッフが本来の業務に専念できる体制を整備し、むし歯治療、インプラント、矯正、口腔外科などの領域を総合的に網羅。
三国大吾(みくに・だいご)
1967年生まれ。日本大学松戸歯学部卒業。歯学博士。初めて開院した当時から積極的に後輩の指導や開業支援に取り組む。現在、母校の歯科臨床検査医学教室兼任講師も務める。

学生時代の私は、さまざまなアルバイトを経験しました。組織の一員として働き、お金をいただくとはどういうことかを学ぶ貴重な機会だったと思い出されます。また、そこで働く従業員、来店されるお客様、さらには地域と仕事との関わりなどを主観的な目で見るチャンスにも恵まれ、隔たれた歯科の世界とは異なる価値観を得ることができました。そこで体感したことが、現在の経営の仕事にも大いに生きているように思います。

歯科の世界には、先輩が後輩の面倒をみる伝統があって、私も在学中から卒業後の数年間、大変お世話になりました。その恩返しのためにも、私も後輩たちに仕事を提供し指導したいと、出身大学がある松戸市で三国歯科医院を開院したのです。そのうちに後輩の数が増えて2院目を開き、後輩の一人に院長を任せました。大同小異の経緯で開院を重ね、20年たって16医院を数えるグループとなりました。

自分が最も愛する人にその治療を行えるか──

1院目を開院し院長だったころ、私が診療に注げる力は6割。残りの4割は、経理や人事・労務管理や総務に費やすこととなりました。本来、歯科医にも勉強は欠かせません。私の実感として、患者さんのメリットを最優先する限りは8~9割の力を診療に傾けるのが望ましく、あとの1~2割は、すべて勉強にあてるべき。それを可能にするため大伸会では、経営と診療の役割分担を明確化しています。バックオフィスのスタッフが各医院の管理業務や事務全般をカバーし、歯科医も歯科衛生士も診療や勉強に専念できる体制を整えているのです。

とはいえ、患者さんにとって本当に最善の治療を提供できなければ意味がありません。それを実現するのは、高い技術でしょうか。優しい態度や分かりやすい説明でしょうか。いずれも必要条件には違いないでしょう。しかし、「自分の最愛の人に対して行える治療」こそが最善の治療だと私は思うのです。仮に高い技術をもつ歯科医が最先端の治療を行うとしても、最先端であるだけに不確定な要素をはらんでいます。それでは必ずしも最善とは言い切れません。大切なのは、リスクとベネフィットのバランスで、その基準が「最愛の人に対して行えるかどうか」。大伸会の歯科医ほかグループ全員で共有する考え方です。

最善の治療にはチームワークも不可欠です。その支えとなるのが、お互いを尊重し合う風土。一般的に歯科医院の組織は、歯科医、歯科衛生士、歯科助手の順のピラミッド構造に映っているかもしれませんが、少なくとも大伸会にはあてはまりません。歯科医が職務上、出すべき指示は出す。同時に、他の診療スタッフも自分の権限をもち、責任を担うプロなのです。

専門性を磨く研修にも力を入れる一方、職種の垣根を越えて家族ぐるみで楽しめるイベントなども催しています。その分、仕事へのモチベーションや「大伸会の社員」という帰属意識も高く保つことができ、幸いスタッフの間からは「将来、自分の子どもを大伸会で働かせたい」との声も聞かれます。

国内外でグループを拡大 安心・信頼のブランドへ

日本の医療法人による海外出資の規制緩和を受け、2016年7月にはベトナムで「ハノイ三国歯科」を開院しました。大きな目的は、日本の優れた歯科治療技術を新興諸国に広める第一歩とすること。院長と2名の若い歯科医が駐在しています。ぜひベトナムの歯科医に私たちの技術を伝え、同国内でも2院目、3院目の三国歯科を展開できればと考えています。

ベトナムでは都市部を離れれば、まだまだ容易には歯科治療を受けられない方々が多いのも実状です。ハノイ三国歯科の歯科医たちは、地方部を回り検診や治療のボランティア活動も行っています。

こうして海外進出も果たしましたが、大伸会をサービス業の組織として、もっと成熟させることも必要だと感じています。そこで商工会などにも参加し、異業種交流を通じてノウハウを貪欲に吸収させていただき、応用しています。

また私自身、経営者として、なお研鑽を積まなければなりません。私が描く理想像は、企業の成長に伴って変化することができるリーダーです。草創期にはワンマンやカリスマとも呼ばれる強い牽引力が必要かと思います。しかし、やがては一歩下がった立ち位置で部下を育てなければ、自分の寿命とともに企業も終わってしまいます。

大伸会の歩みを振り返って思うのは「失敗の理由はいくらでも挙げられるが、成功したときの理由を明確化することは難しい」ということ。そこで現在、大学院でシステムデザインマネジメントを学び、自分なりの成功パターンを論理立てて、可視化することを目指しています。そして、私たちと同じ理念を共有する歯科医院を今後も開設し、いつでも、どこでも安心して同じ治療を受けられるグループを築きたい。大伸会を、いっそうご信頼いただけるブランドに育て上げたいと思います。