いま、30代、40代の働き盛りの多くが将来への不安を抱えている。「勤めている会社はこの先大丈夫か」「本当に年金はもらえるのか」──。不安解消への道筋を、“お金のソムリエ”こと菅井敏之氏が指南する。

雲梯で前に進むにはいったい何が必要か?

──菅井さんは現役のビジネスパーソンからもお金に関する相談を受けています。最近はどういった人からの相談が多いですか。

【菅井】いい学校を出て、いい会社に入れば、後は一生安泰。ご存じのとおり、そうした時代は終わりました。いまは超大手企業であっても将来何があるか分からない。多くの現役世代、特に若い人たちは、そこに閉塞感を覚えています。具体的な悩みは人それぞれですが、従来とは違う価値観や生き方を求めて私のところに相談に来る方が増えているように思います。

というのも、私はメガバンクの支店長を経て48歳で退職。現在は6棟のアパートを経営し、カフェのオーナーでもある。多くのビジネスマンとは異なる生き方をしています。そこに、皆さんの関心があるのだと思います。

──先行きの不透明感が増す中で、どのような考えを持つことが重要でしょうか。

【菅井】私は、人生を「雲梯」にたとえてお話しすることがあります。小学校や公園にあるあの雲梯で前に進もうと思えば、片手でぶらさがっているだけではダメ。片手をしっかりと保持しつつ、もう一方の手で次のバーをつかまなければなりません。つまり会社員として給与を得て、もう一つ別の収入源を確保する。いわば「複業的人生」を皆さんにお勧めしています。

──将来の不安を解消するには、当然ながら具体的な行動が求められますね。

【菅井】自著のタイトル『金の卵を産むニワトリを持ちなさい』が一つの答えです。例えば毎月一定の収入をもたらす賃貸住宅を所有する──。やはり定期的に入ってくるお金が安心感をもたらし、人生を豊かにします。

銀行に勤めていた頃、多くの資産家の方と接する機会がありましたが、たとえ何千万円もの預貯金を持っていても、それだけではなかなか幸せや安心を得られない。どうしても、預貯金が目減りしていくことに目が向いてしまうのです。一方で、毎月数十万円が入ってくる仕組みを持っている人は、明るい顔で楽しい毎日を送っていらっしゃいました。

──現役のうちから、自分なりに収入源を確保しておくことが重要になるわけですね。

【菅井】収入源には「収入付き不動産」のほか、「金融資産」もあります。また「人的資産」も見逃せません。人的資産とは働くスキルや人脈など自分の稼ぐ力のこと。ビジネスパーソンであれば、人的資産を蓄積していくことにも、ぜひ力を注いでほしいと思います。いわば「自分株式会社」の“社長” として、いま勤める会社で問題解決能力を磨く。その中で信用を積み重ねながら、複業的人生への道を開いていくわけです。

成功している人は嘘をつかない

──実際的なお金の管理にあたって、何かアドバイスはありますか。

【菅井】基本的なことですが、家計簿を付けるのが一番です。ただし、毎日となると大変。月1回、下に示したようなシンプルな形の家計簿を付けていけばいいでしょう。これによって、1カ月の収支がプラスかマイナスかが分かります。また、項目ごとの支出を把握することで対策も立てやすくなる。体重管理と同じで、状況が可視化されるとモチベーションも上がります。

──お話にあったとおり、菅井さんご自身は、賃貸住宅経営を資産形成のベースにしています。そのメリットはなんでしょうか。

【菅井】一番大きな利点は「銀行からお金を借りて始められる」ことです。一流と呼ばれる企業に勤めている人であれば、銀行はそこに信用力を見いだして融資をしてくれる。これも重要な資産ですから、上手に活用していくべきです。

──不動産への投資は、個人だけでなく企業にも広がりを見せています。

【菅井】本業以外のところで資産形成を行うことが将来の安定につながる。これは、法人も個人も同じでしょう。例えば都市部のビルなどでも、ピンポイントで見ていけば、かなり資産価値の高い物件があるはずです。不動産への投資で重要なのは、個別個別で物件を精査していくこと。同じエリアにある物件でもその特性によって価値は大きく異なりますから、平均値で考えても意味がありません。そこが不動産投資の難しいところであり、奥深いところでもあります。

──最後に、資産運用に成功するための秘訣を教えてください。

【菅井】賃貸住宅経営についていえば、コンサルティング能力を持つ事業者をパートナーに選ぶこと。この分野は、多くの部分をアウトソーシングできる仕組みが整備されています。優れたパートナーを見つけられれば、成功の確率はグッと上がるでしょう。

もちろんパートナーを見極めるためには、オーナーの側も勉強をしなければなりません。賃貸住宅経営は、投資ではなく“事業”であるというのが私の考え。単に資産を投じればリターンが得られるわけではなく、さまざまなマネジメントや決断が求められます。だとすれば、必要な知識を身に付ける作業は欠かせません。

それと、成功する人は嘘をつかない。これも多くの資産家と交流してきて強く感じることです。虚勢を張り、調子のいいことばかりいっても内実が伴わない。これでは信用されません。お金持ちは何より信用を大事にします。どうしたら信用してもらえるか、そこがすべての行動基準となっているといってもいいほど。信用を培えばお金は後からついてくる。これは私の経験からつかんだ真理です。

賃貸住宅経営は、投資ではなく“事業”。そのことを意識してほしいと思います。


菅井敏之(すがい・としゆき)

1960年生まれ。83年学習院大学卒業後、三井銀行(現・三井住友銀行)に入行。金沢八景支店長、中野支店長を経て、2008年に退職。起業し、アパート経営とカフェ経営を始める。『お金が貯まるのは、どっち!?』『金の卵を産むニワトリを持ちなさい』など、著書多数。オンラインサロン「菅井敏之のマネー喫茶室」主宰。