機械式時計にはスマートウォッチにないものがある
ところで、昨年はスイス時計産業にとって重大な転機となる1年だった。機械式腕時計の完成品の輸出統計(スイス時計協会FHより)を見ると、2015年は本数ベース、金額ベースでそれぞれ前年比4%、2%程度の減少。リーマン・ショック後の2009年以降では初めて前年割れとなったのである。
この原因のひとつにスマートウォッチの台頭がある。IT業界の巨人、アップル社の本格参入はスイス時計業界に少なからず影響を与えた。追随してスマートウォッチ製造に乗り出すブランドがあれば静観するブランドあり、各社の対応には興味深いものがあったが、メイラン氏は「単に機能的なだけの時計はつくらない」と言い、「歴史、情熱、技術や素材の進化など、いろいろなものが詰まった時計だからこそ手にする喜びがあり、身に着ける高揚感がある」と語る。
この発言からすれば、冒頭で紹介したH.モーザーのスイス アルプ ウォッチは、スマートウォッチブームに対する意思表明だったのかもしれない。この先どんなことが起きても変わらずに機械式時計をつくり続ける――と。果敢にビジネスを切り開いた創業者のDNAがあり、ムーブメントを内製できる生産体制があり、そしてそこに長期的なビジョンで時計づくりを行える経営体制が整った。その真の成果がどのようにして表れるか、新生H.モーザーの今後が楽しみだ。
H.モーザー
http://www.h-moser.com/jp/
03-3833-9602(イースト・ジャパン)
(取材・文/デュウ 撮影/山下亮一(人物) 写真協力/イースト・ジャパン)