幸せをつかむための妊活に、思わぬ展開が待っていることもある。夫の「タイミングED」だ。心斎橋中央クリニックの西川浩院長は「本来、セックスは男女のコミュニケーションの一形態」と男性心理に理解を示し、ED専門クリニックの受診を勧める。
西川 浩●にしかわ・ひろし
心斎橋中央クリニック院長
大阪府生まれ。1987年、名古屋市立大学医学部卒業。脳外科医から美容外科医へ転身し、95年、大阪美容外科開設。2004年、心斎橋中央クリニックに名称変更。EDは男性だけでなく、パートナーである女性にとっても大事な問題ととらえ、妊活中のED治療にも注力。
心斎橋中央クリニックホームページ
http://www.chuoh-clinic-osaka.com/index.html
「手続き的」なタイミングが夫のプレッシャーになる
――近年、妊活に積極的なカップルが増えているようです。それでも、なかなか妊娠にいたらない方々も少なくないと聞きますが。
【西川】日本で不妊に悩むカップルは10組に1組と推測されてきましたが、最近は6~7組に1組とする意見もあります。晩婚化や、共働きなどで妊活のスタートが遅めになっていることが、増加を助長しているのではないでしょうか。
そして、このようなデータもあります。フランスの研究者たちは、2005年までに行った17年間の調査から、男性全体の精子濃度が次第に減少している傾向を発表しました。また、男性に不妊の直接的な原因があるケースは、WHO(世界保健機関)の報告によると合計48%で、およそ半数近くを占めています。
――不妊とEDのかかわりについて教えてください。
【西川】不妊の解決を目指す妊活や不妊治療がEDの心理的な原因をつくり、逆に妊娠を難しくしているというのが、かなり目立つ例です。妊活では、しばしば妻が排卵検査薬などで妊娠しやすい日を予測し、その日が来ると夫を促します。不妊治療でも、たいてい最初に「タイミング指導」を受け、妊娠の可能性が高い日を指定されます。
こんなふうに「手続き的にタイミングを決められる」ことで夫にプレッシャーがかかり、よく「タイミングED」と呼ばれる心因性EDに陥ってしまうのです。妻思いの夫ほど、そうなる傾向が強い。そんな印象を、私はもっています。
――妊活中ともなれば、ご夫婦でクリニックへ相談に来る方々も?
【西川】はい。なかにはED治療に積極的な奥様も来院されます。一部では、奥さまの焦りが、少々強めの言葉や態度として表れてしまうこともあるようですね。そのお気持ちはたいへんよく分かるのですが、本来、セックスは男女のコミュニケーションの一形態。やはり互いの心づかいも大切でしょう。男性の勃起機能は非常にデリケートで、おそらく女性の想像以上だと思います。特に最近の若年男性には、繊細な方々も多いですからね。
――「タイミングED」以外にも、心因性EDの患者さんは多いのでしょうか?
【西川】ええ。私の実感としては、糖尿病などEDを伴う明確な病気や、怪我などの影響が背景にある患者さんを除き、EDの主な要因は心理的なものです。もちろん仕事のストレスも一因になり得る。一般的にはインテリジェンスが高い人ほど、心因性EDのリスクが高いともいわれています。