29歳で演出家となり、国内はもとより、米ブロードウェイをはじめ世界で活躍──。およそ30年にわたり、第一線でさまざまな作品を生み出し続ける宮本亜門氏に、演出家として大事にしていること、そして密着5枚刃ラムダッシュの魅力を聞いた。
Miyamoto Amon
1958年生まれ。2004年、東洋人初の演出家としてニューヨークのオンブロードウェイにて「太平洋序曲」を上演し、同作はトニー賞の4部門にノミネートを果たす。国際的にもオペラや芝居など多くのジャンルを手がけ、今年12月に上演を控えているストリートダンスを交えた「SUPERLOSERZ 負け犬は世界を救う」の演出にも取り組んでいる。

オリジナリティや斬新さというのは、一つの結果だと思っています。常に新しいことに挑戦したいという気持ちはありますが、オリジナリティそのものを目的にすることはないですね」

ミュージカル、オペラ、ストレートプレイ、歌舞伎など、ジャンルを問わず、国内外で多彩な演出を手がける宮本亜門氏。“いったいどのようにして、独創的な作品をつくり上げているのか”という質問にこう答えてくれた。

「意識しているのは、観客の皆さんに、まだ知らない世界、覚えのない感覚を少しでも味わってもらいたいということ。だって僕自身を含めて、この広い地球の上で一人の人間が実際に見聞きできるものには限りがあるでしょう。でも演劇という道具を使えば、新たな価値観やものの見方を多くの人に発信できる。キャスト、スタッフと一体となって、それを達成することが僕にとっては一番の喜びなんです」

例えば一昨年、モーツァルト生誕の地であるオーストリアで、その代表作『魔笛』に取り組んだときもそうだ。登場人物がコンピューターゲームの中に入ってしまうという想定外の設定に、現地の出演者は初め戸惑ったという。しかし、いざ公演が始まると観客は大喝采。欧州での自身初演出で大きな成功を収めた。

日本で好評を得て、ニューヨークでも上演された舞台「金閣寺」のステージをバックに。

「戸惑うというか、最初はみんな引いてましたよね。この日本人は、いったい何を考えてるんだって(笑)。でも、ああいう設定にしたのは、僕なりに当時モーツァルトはどんな気持ちで鍵盤に指を置き『魔笛』を作曲したのか、考え抜いた末のことでした。だから、やる意味はあるだろう、と。どんな作品もそうですが、大切なのはやっぱりその“本質”。それをしっかり押さえていれば、従来にない表現方法でも、観る人には伝わるものがきっとある。そう思っています」