地理的分散と
質的分散を考えて

田中徹郎●たなか・てつろう
株式会社銀座なみきFP事務所 代表

ファイナンシャルプランナー、プライム・プライベートバンカー。三洋電機、ソニー、ソニー生命を経て、独立。会社員時代から積み上げた豊富な金融・経済の知識を武器に、資産運用アドバイスを展開する。
──複利を重視する視点は、30年、40年先を見すえる必要がある現役世代にこそ大事なものだと感じました。では実際、どのような資産運用を考えていけばいいでしょうか。

【田中】分散投資の重要性は皆さんご存じのとおりです。これを地理的分散、質的分散に分けて考えてみましょう。

まず、地理的分散。今の時代、先進国、新興国を含め、金融危機の発生源を予測するのは非常に困難。国際分散投資は必須となります。株式、債券、投資信託など、現在、海外資産に投資する手段は豊富に用意されていますから、念頭におくべきでしょう。ETF(上場投資信託)も、運用コストの抑制、透明性の確保などの観点からすると有力な選択肢の一つです。投資信託への投資には、販売手数料や信託報酬などのコストがかかりますが、一般にETFの信託報酬はとても低いのが特徴です。種類も新興国株分散型、農産物価格連動型など多彩。もちろん、国内の株価インデックスに連動したものもあり、これらを使い分ければ地理的分散は十分可能です。

次に質的分散。これは「異なる値動きをする対象に投資する」ことを意味します。例えば、すべてが景気サイクルに連動する資産だと、リスクが大きいわけです。特に今世紀に入ってからは、世界的にマネー過多の状態が顕著で、マネーと実体経済のアンバランスが続いています。これが経済の振幅を激しくし、金融危機の要因にもなっている。こうしたなかでは、株式や債券などのペーパー資産とは異なる性質の資産を持つことも重要です。1億円単位の資産を持つ人であれば、不動産や貴金属などの現物資産への投資も視野に入れるのがいいでしょう。

──最後に、「資産運用はまだこれから」という現役世代に向けて、メッセージをお願いします。

【田中】資産運用というのは、誰もが必ずやらなければならないものではありません。「自分はキャリアを積んで、高収入を得る」「起業して稼ぐ」という将来設計でもいいわけです。ただ、「漠然と将来が不安」というのであれば、やはり行動すべきでしょう。インフレ率や収入、支出を具体的に数字に落とし込んでいけば、どれだけの運用利回りやリスクが必要なのかがはっきりします。そこで初めて、取るべき方針が見えてくる。現在は株、債券、投信、ETFのほかにも、REIT(不動産投資信託)や金など、金融商品のラインアップはかつてと比べものにならないほど充実しています。また、少額から手軽に投資を始められる環境も整備されています。一般のビジネスパーソンであっても、日本にいながら世界中の資産に投資できるのです。

投資というのは、自分で始めてみないといつまでたっても人ごとです。複利を味方に付けたいなら、早いに越したことはない。まずは身の丈にあったところからスタートしてほしいと思います。