英語学校選びは
すなわち先生選び

小熊弥生●おぐま・やよい
同時通訳者、英語セミナー講師。1971年生まれ。短大卒業後、英検4級、TOEIC280点と“平均以下”からスタートし、通訳者を目指す。半年後にTOEIC805点を取得して大手英会話学校講師に。その後、TOEIC950点、英検1級、通訳検定2級を取得し、短大卒業から3年半で通訳者デビューを果たす。現在は同時通訳者として、主にビジネスシーンを中心に活躍。 著書に、『TOEIC(R)テスト280点だった私が半年で800点、3年で同時通訳者になれた42のルール』(幻冬舎)や最新刊『TOEIC(R)テスト280点から同時通訳者になった私がずっと実践している英会話の絶対ルール』(中経出版)など。
http://www.ogumayayoi.com/

小熊さん自身が最初に受けたTOEICテストのスコアは280点。その人が今、首相官邸での同時通訳を担当するまでになった。しかも海外在住経験はない。学歴でいえば、短大卒で、その後早稲田の社会科学部に3年次編入で入り、卒業しているが、外国語大学や専門学部で学んだわけでもない。そんな小熊さんの飛躍は、周囲をうまく使った勉強法によってもたらされた。

「TOEICでハイスコアを取りたいとか、同時通訳になりたいとか、医療分野での国際通訳をしたいとか、私の場合はその都度目標が明確だったから、英語力も右肩上がりで伸びました。ただ、TOEICで805点取ったあとに次の目標を950点にしたときは苦労しました。なかなか伸びないんです。でも、当時の私の周囲には950点を超える人がたくさんいて、それが刺激になったんですね。ライバルをもつことや、あの人みたいになりたいと憧れをもつことが、とてもいいモチベーションになりました。例えばTOEICでハイスコアを出している憧れの対象がいるなら、その人にアポをとって食事を一緒にしながら、参考書は何がいいか、英語学校はどこを選べばいいか、なんでも聞いてしまう。そして、これ、いいよ、と言われたことを、ただ愚直に、徹底的にやる。ここが大事だと思うんですね」

英語学校や教材選びも、あくまで自分の目を大切にしたほうがいいと小熊さんは指摘する。

「例えばイギリス英語を学びたいと思ったとして、同じイギリス人の先生でも、人によって聞き取りやすかったりそうでなかったりします。当然ですが、この人の発音、わかりやすいな、と思う先生につくべきですね。それから、先生が結果を出しているということも私は大事にしています。点数をこれくらい上げているとか、検定に何人合格させているとか、そういうことは授業を受ける側にとって大事です。この人に教われば上達する、という心理効果が大きいのです。ではどうやって先生を選ぶのか。それも簡単。無料レッスンを受けて見て選べばいいだけのことです。教材選びも同じで、例えばTOEICの参考書を選ぶなら、解説がわかりやすいかどうかで選ぶ。すべて、自分の目で確かめて選べば間違いないと思います」

ただ漫然と英語学校を選ぶのではなく、明確な意図をもって、自分の期待に応えてくれる英語学校を自らの目で確認すべし。小熊さんはそう言い切るのだが、考えてみれば、日頃の仕事においてはすべての行動の前提に何を目的とするかという意図がある。英語の学習も仕事と同じ。意図をもって動くという、いつもの仕事のやり方を、ここでも実践すればいい。

使うことが
モチベーションを生む

目標を明確に定め、それを達成するという意図から逆算して、学校や教材を選んだあとは何をするか。小熊さんは、自分の目標に向けて1日24時間に何ができるかを列挙することをすすめる。

「やるべきことが明確になったら、あとはそれを達成するために何をどこまでできるか、自分のやれるマックスを試してみることです。通勤の移動の間だけでなく、エレベーターを待つ2、3分の間にも、さっき電車の中で聞いたBBCニュースのテキストを読み返しておこうとか、やれることは山ほどあります。知りたいと思ったことをすぐに調べる。これも基本。知りたいという学習飢餓状態で覚えたことは、単語帳を丸暗記したときに残る短期記憶とは違って、最初から長期記憶に残ります。つまり、知りたいと思ったときに入った記憶は残るんです」

問題は、こうした強いモチベーションをいかに維持するかだろう。勉強意欲がわくことはあっても、それが続かないところに最大の問題もある。しかし、この重大な問題についても、小熊さんの答えはきわめて率直だ。

「使うことです。同じくらい勉強しているのに、一方は伸びて、一方は伸びないという場合、その原因は、覚えたことを使ったか否かにあると思います。英語も言葉ですから、古びれば鮮度を失う。お寿司屋さんのネタと同じで、1つのフレーズを仕入れたら、間をおかずにすぐに使う。通じれば勝ち。通じなければその悔しさをバネにまた学べるはずです。大事なのは使うことです」

しかし、ここは日本だ。英文メールの交換程度では英語を使ったことにはならないだろうし、どうしたらいいのだろう。

「街を歩いていたら、外国人はたくさんいますよ(笑)。さっそく今日のランチタイムに、レストランで声をかけてみましょうよ。それをきっかけに知り合いになって、例えば街を案内してあげるとして、1日使ったって、それが英会話の勉強になるなら最高じゃないですか。友達になればフェイスブックを通じてさらに友達が広がっていく。そうして使えば使うほど英語の記憶は定着しますし、もっとできるようになりたいという欲求も生まれます。そういう好循環に自分をハメていくこと。これも仕事だと割り切って、自分が自分のための最高のコーチになる。それが、モチベーション維持のコツですね」

日本にいながら英語を使う機会を増やすには、やはりそれなりの覚悟も必要か。これも仕事と思って、外国人に話しかける積極性をもちたいものだ。

(大竹 聡=インタビュー&文 田里弐裸衣=撮影)