多くの印象的な流行語が生まれた今年。富士山の世界遺産登録、東京オリンピックの招致成功といった明るいニュースも記憶に新しいが、経営の視点からは、不確実な要素も多く、決して順風の航海とは言い難い。さらなる変化も予測される2014年を飛躍の年とするため、求められることとは何か──。

2013年はどんな年だったか。もちろん、その感じ方は人それぞれだが、一つには“前向きな変化の年”という見方ができるだろう。

少なくとも経済面では、具体的な変化が見て取れる。例えば、年初1万600円ほどだった日経平均株価は、12月の頭で1万5000円台半ばまで回復。実に40%超の上昇だ。一方で、多くの日本企業を苦しめていた超円高傾向も大幅に改善している。

景気の持ち直しは、言うまでもなく日本全体にとって良いニュースだが、個々の企業にとっては必ずしも単純に喜べる事態ではないだろう。なぜなら経済の回復期は、“実力の差”がはっきりと出る局面でもあるからだ。力のある企業は流れをつかめるが、なければ置いていかれる。その意味で2014年は、“格差の年”になる可能性を十分に秘めているのである。

では、経済の前向きな変化を経営に取り込むにはどうしたらいいか──。そのキーワードが今年の流行語大賞の中に隠れている。「おもてなし」だ。

より大きな意味を持つ
“顧客の創造”

“おもてなし経営”という言葉をご存じだろうか。経済産業省では、これを地域のサービス事業者等が目指すビジネスモデルとして普及を促進。今年3月には、全国から「おもてなし経営企業」を50社選定し、発表も行っている。

同省によれば、おもてなし経営とは「(1)従業員の意欲と能力を最大限に引き出し、(2)地域・社会との関わりを大切にしながら、(3)サービスの高付加価値化や差別化を実現する経営」のこと。ポイントは、“顧客や地域との関係を徹底的に強化する”という地道な取り組みの中で結果を出している点だ。

実際、経産省が有識者による選考委員会を設置し選んだ50社を見てみると、「緊急時に対応できるよう全スタッフがインカムを装着している医療法人」「お客様のうれし涙の数を目標設定して、上棟式や引き渡し時に演出を施す工務店」「あえて接客マニュアルを設けず、『友人ならどうするか』と考える美容室」など、それぞれ興味深い。ちょっとしたアイデアや発想の転換で顧客の心をつかみ、それを業績につなげているのだ。

マーケティングの世界では、現在、潜在的なニーズに応えることの重要性が盛んに語られている。あらゆる製品やサービスがコモディティ化、つまり日用品化するなか、企業サイドは市場で明確な機能や品質の違いを提示しづらくなっている。そうした状況下では、単に顕在化したニーズに応えていても、競争力を維持できないからだ。

そこで注目すべきなのが「おもてなし」である。顧客の心理を読み、こまやかな気遣いで、顧客自身が気付いていない要望や期待に応える──。まさしくそれは、潜在的なニーズへの対応にほかならない。

企業活動の目的は、“顧客の創造”であると言ったのは、マネジメントの父、ピーター・ドラッカーだ。すでに見えている顧客だけを相手にしていても持続可能な経営が難しい今、その言葉の持つ意味はますます重くなっている。来る2014年、自分たちの会社は、顧客にどんなおもてなしができるのか、一度考えてみても良さそうだ。