時間が足りない──。忙しいビジネスパーソンが、理想的な睡眠時間を確保するのは難しい。どう眠りを改善すべきか。経営者の“眠り”を紹介する本シリーズ。最終回はネクストの社長、井上高志氏に聞いた。
「睡眠のリズムはスケジュールに左右されがち。8時間ぐらい眠ってみたいですが、社長業をしていると厳しいですね。平日は仕事や食事以外の時間に眠っている感じです」
不動産・住宅情報サイトである「HOME'S」を主軸に、さまざまな新規事業を展開する井上氏は、自身の眠りをこう語る。今年10月には中古住宅市場の活性化をにらみ、話題の“リノベーション”に関する情報を集めた「HOME'Sリノベーション」をオープンしたばかり。待機児童問題の解決に取り組む団体の要望を受けて、「HOME'S」に小規模保育所に適した物件のスクリーニング機能を追加するなど、社会貢献につながる活動にも意欲的だ。現在平均5時間ほどの睡眠時間は確保しているが、創業当初は20時間以上働いて2、3時間仮眠する “寝食を忘れる”日々を送っていた。
「寝ても仕事の夢を見るし、寝言も仕事のことばかり。今でも、健康管理は一番の苦手分野です」と苦笑する。
会社は従業員数500人超の上場企業に成長したが、働きぶりは変わらない。20代は寸暇を惜しんで量をこなすインプットの時期、30代はそれをアウトプットへと変えてパフォーマンスを上げる時期、40代になれば社会とのつながりも視野に仕事を拡大していく時期へ──。経験が重なるにつれ、果たすべき役割は増えていった。
「会社が育てば楽になるかと思っていましたが、実際は逆。10人の組織が100倍の1000人になれば、規模が拡大したぶん、より大きな視野で、より多様な仕事をこなすことが求められます。トップとして組織を成長させながら、自分たちの手で社会をより良く変えていく夢も叶えたい。24時間という限られた時間でそれらを実現するには、時間の使い方を“量”から“質”へと転換しなければなりません」
ビジネスの進め方、仲間とのコミュニケーション……常に中身の濃い時間にこだわってきた井上氏だが、「眠りの時間には無頓着だった」と話す。
「仕事の精度は量をこなすうちに自然と高くなっていきますが、自分の意志でコントロールできない眠りは、意識がいきにくい領域でした。眠りに今以上多くの時間は充てられなくても、確かに眠りの“質”を高めて、休息の効率を上げることは可能かもしれません」