コスモ石油、三菱商事、立命館大学。産学の三者が連携し、国際貢献活動としてUAE(アラブ首長国連邦)のアブダビ首長国で、高校生を対象に日本語教育や日本への短期留学プログラムを行っている。その背景、目的、展望は──。コスモ石油名誉会長の岡部敬一郎氏、三菱商事常務執行役員の吉川惠章氏に聞いた。
コスモ石油

専門的な知見を提供し
グローバル人材の育成を支援

──アブダビで日本語教育プログラムを始めた経緯をお聞かせください。
岡部敬一郎●おかべ・けいいちろう
コスモ石油株式会社
名誉会長
1956年、京都大学経済学部卒業、コスモ石油の前身の1社である丸善石油入社。93年より社長。2004年より会長。13年より現職。

【岡部】日本にとって安定的な石油の確保は、長きにわたる重要課題です。コスモ石油グループは、CO2排出量削減など環境配慮を実践する一方、産油国とはビジネスの域を超え、文化・スポーツ・医療などにおいて重層的・多面的な関係構築に努めてきました。その要諦は3つ。「信頼」、信頼のための「対話」、対話のために「相手を尊重すること」です。私自身、アブダビは社長の時代から通算70回余り訪問し、多くの人脈を培ってきました。

アブダビで、ムハンマド皇太子をはじめ国のリーダーたちが語る課題の一つは、「グローバルビジネスに堪える人材の育成」です。また、皇太子は武士道など日本の伝統や文化に関心が高く、日本が明治維新以降、急速に発展したのは教育の効果によるところが大きいと、敬意をもってくださっています。これらに応え、当社グループとしてアブダビにいっそう貢献し、両国の関係強化を図れないかと考え、発案したのが日本語教育プログラムです。

私は立命館大学のモンテ・カセム総長特別補佐と親交があり、大学や附属高校の教育・経営面とも信頼していたので、連携を呼びかけました。そしてアブダビ側の意向を受け、王立科学技術系高校・ATHS(Applied Technology High School)で2011年に日本語教育をスタートしたのです。

──今日までのプログラムの手応えと、今後の展望をお聞かせください。

【岡部】授業を視察したところ、生徒たちは真剣に取り組み、積極的に質問する姿も見られ、順調に進んでいる様子でした。日本語教育や外国人教育に関する専門的な知見をもつ立命館大学がアレンジした日本人教師の方々も非常に意欲的で、粘り強く指導にあたってくれています。

成績優秀者は、附属校である立命館宇治高校に短期留学もできます。昨年、私もその修了式に出席しました。流暢な日本語でプログラムの良さを話してくれた留学生もおり、皆が日本に対する好感や、充実感を抱いて帰国した印象でした。

今後も、国際貢献についての理念を共有する立命館大学、三菱商事と手を携え、一段と実効性ある教育プログラムへ発展させていく方針です。この取り組みを通して、アブダビの明日を背負う優秀な若者たちが日本の文化や価値観も含めて十分に理解し、日本から得たものを母国のために生かしてくれたら、それが何よりの成果だと思います。