原子力規制委員会(田中俊一委員長)が決定した原発の新規制基準が7月8日から施行された。新基準は、電力会社に初めて過酷事故対策を義務付けた。具体的には、津波対策の防潮堤や、事故時に復旧作業の拠点となる重要免震棟、放射性物質を除去するフィルター付きベント(排気)装置などの設置が義務化された。

新基準について、田中委員長は「世界で1番厳しい基準」と胸を張ったが、時間切れによる判断の先送りや例外扱いが目立つなど、対症療法の側面が強い。

例えば、フィルター付きベント装置の設置。福島第一原発事故では、原発のベント装置にフィルターが付いておらず、放射性物質が空気中に広範に撒き散らされた。この反省から規制委は、福島第一原発と同じ沸騰水型原子炉には同装置のすみやかな設置を義務付けているが、タイプの異なる加圧水型原子炉は特例扱いし、設置まで5年間の猶予を設けた。

「福島第一が事故を起こしたので同タイプの沸騰水型に厳しく加圧水型に緩い規制になった。加圧水型の猶予について規制委で十分議論を尽くしたわけではなく、田中委員長の私案が突然発表されて決まったという。またフィルターについても、必要とされる性能も提示していません」(全国紙・原子力担当記者)

また、福島第一原発事故では、地震で事務棟が使用不能になり、地震直前に運よく完成していた免震棟が復旧作業の拠点になった。そこで新基準は原発施設に免震棟の設置を義務付けたが、現在、全国で唯一稼働中の関西電力の大飯原発3、4号機(福井県)については、免震棟が未完成にもかかわらず「新基準におおむね適合」と判断、運転継続を認めた。停止中の大飯原発1、2号機の中央制御室横の会議室を免震棟に代用する。

また、大飯原発地下に活断層があるかどうかの判断も先送りされた。「原発内部のどこが壊れたのか、なぜ水蒸気爆発が起きたのか、といったことすらいまだに不明。それで安全対策を立てられるはずがない。弥縫策にすぎません」(原発に詳しい科学ジャーナリスト)

新基準施行を受け、電力4社が6原発12基の再稼働を申請し、年内には四国電力の伊方原発の再稼働が認められると見られている。まず再稼働ありき?

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