TOPIC-2 就職対策本は社会の話をしているか

就職対策本は非常に多くのものがあります。拙著『自己啓発の時代』では、1980年代以降の自己分析を扱う対策本に焦点を絞って分析したのですが、調べた限りではそれだけでも700点以上刊行されていました。そのためかなり焦点を絞って対策本をピックアップする必要があるのですが、今回考えたいのは、2010年代の社会・経済・言論の変化がどう対策書に反映されているかということですので、近年刊行された就職対策本をとりあげるのがいいでしょう。

ピックアップの基準は2つです。第一が、書籍のタイトルに「就活」もしくは「就職活動」という言葉を含むこと。第二が、「○○年度版」という言葉を含まないこと。第二点目については、就職対策本の多くが、内容をあまり改訂することなく、「○○年度版」の数字だけを入れ替えて毎年刊行されていることによります。そのため、この種の対策本をみても、2010年代の社会・経済・言論の変化の反映を観察することはできません。

この2つの基準を充たす、直近に刊行された20点が今回の対象書籍です(下表参照。資料収集を行った2013年5月20日からの直近20点。このなかでは碇ともみさんが最も古く2012年8月の刊行、最も新しいのは武野光さんの『就活あるある』で2013年4月の刊行となっています)。著者の職業については文中で紹介はしませんが、実にさまざまな肩書き(各著作の著者紹介欄をもとに作成)をもつ人々が就職対策本を執筆しているのだといえます。

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図1 近年刊行された就職対策本

前回紹介した児美川孝一郎さんは「この一、二年のあいだに、日本中のメディアがいっせいに『就職語り』『就活語り』を始めたかのような印象があります。言い方を替えれば、“シューカツ論壇”の成立です」(『これが論点!就職問題』8p)と述べていますが、下表からはさまざまな人々が、肩書きの新奇性も考慮しながら今日「就職語り」「就活語り」に名乗りを上げている現状が伺えます。

この20点のうち、就職市場の動向や経済状況、新規学卒一括採用という就職活動の仕組み等、何らかの社会・経済的状況に言及したものは8点にすぎませんでした。その他12点は、目下の就職市場でいかに勝ち抜くかということのみに焦点を絞った議論がなされています。

言及のある8点についても、前回紹介したような、現在の就職・採用活動への批判的な視点はまったくみることができません。多くの場合は、景況の悪化によって、また競争の激化によって、企業は「厳選採用」を行うようになっており、就職活動の見通しはますます厳しいものになっている、だからこそ、頑張って就職活動をしようという言及でした。

新規学卒一括採用の問題に言及する著作は1点のみで、その言及の仕方は「コア人材の早期確保」「組織の再生」「採用経費・人件費が安い」「採用活動が自社の広報に繋がる」「まとまりのある労働力の確保が可能」「人材のドーナツ化現象を防止できる」という新卒採用のメリット、「教育に人的リソースが取られる」「“はずれ”人材を掴んでしまうリスクがある」「採用基準が明確にできない」というデメリットをそれぞれ並列的に述べるに留まるものでした(高下こうた『お祈りメールしかこない人の逆転就活術』46-50p)。