▼慶應義塾大学大学院特任准教授 ジョン・キムさんからのアドバイス

目の前の仕事をやるべきか、やらざるべきか。それを判断するには、「自分の人生や成長プロセスにおいて、この仕事はどのような意味を持っているのか」という問いが欠かせません。たとえば上司から資料作成を指示されたら、それを単純作業として受け止めるのではなく、そこに自分の学びの材料が隠れているのではないかと考えることです。

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リストをつくり、仕事の目的だけにフォーカス(※)

学びの材料は、ありとあらゆるところに存在しています。ところが、上司から指示されたことを受け身でこなすだけの人にはそれが見えないのです。そうではなく、つねに経営者や上司の視点を持ち、その業務の意味や価値を考えてみることです。学びの材料は、そうした強い当事者意識の先に見つかるものです。

ときには何の価値も見いだせない仕事もあるでしょう。では、不条理な仕事は捨てて、やりたいことだけをやっていればいいのか。私は19歳で母国である韓国を離れたとき、「30代でやりたいことをするために、20代でやるべきことを徹底的にこなす」と決意しました。

やりたいことを実現するには、まわりを巻き込んでいかねばなりません。人に動いてもらうには信頼を得ることが重要です。そこにマジックは存在せず、1つ1つ結果を積み上げていくしかありません。そのためには不条理な仕事も徹底的にやっていくと覚悟を決めたのです。

重要なのは、上司の指示に戦略的に従うとしても、自分のものさしだけは絶えず磨き続けるということです。誰でも最初は自分らしく働く気持ちを持っています。しかし、上司のものさしに合わせて仕事をしていくうちに、多くの人が自分に羽があったことを忘れ、いつしかペンギンのようによちよち歩くだけになってしまう。やるべき仕事を徹底的にこなしつつ、自分のものさしを持ち続ける。そのためにも「この仕事は自分の人生にどのような意味を持つのか」と自分に問い続けることが大切なのです。

慶應義塾大学大学院特任准教授 
ジョン・キム

1973年、韓国生まれ。日本に国費留学。英オックスフォード大学客員上席研究員、米ハーバード大学客員研究員を歴任。独自の哲学と生き方論が支持を集める。