佐々木本人には認識はないようだが、巻き添えで一緒に地獄へ落ちる寸前のところまでいったのだ。ハドソンとの独占契約を果たしたものの、運転資金が枯渇した孫は第一勧銀(現みずほ銀行)に、1億円の「担保なし・保証人なし融資」を依頼する。しかし保守的な銀行が、まだ会社の実績がなく、認知度の低いソフトウエアという業種への融資に慎重になるのも無理もなかった。ここで再登場するのが佐々木。銀行にこう伝えたという。

「僕が個人保証しますから、ソフトバンクに融資してやってください」

無謀なことに、自分の給料、退職金、自宅の不動産価格を確認し、万が一のときはそれらの資産をなげうつ覚悟を決めた。もし、本当にそうなれば人生は完全に狂う。死んだも同然と言えるが、幸いソフトバンクの業績が上向き、財産没収は免れた。佐々木は、人生を賭けた「賭け」に勝ち、九死に一生を得たのである。だが、なぜ「赤の他人」にそこまでしたのだろうか。

「僕はね、彼のことが、かわいいんですよ。僕が死んでも彼を生かすほうが人類のためだと思ったの。人類が長い間生き残っていくためには、誰かにバトンタッチしていかないといけない。僕は彼にバトンタッチしたいんです」

30年に及ぶソフトバンクの歴史の中で、孫はパートナーの裏切りや、自分がスカウトした人材に会社を牛耳られそうになった経験もある。佐々木と工藤の言葉を借りれば、孫には「純情で頑固だが、人がよすぎる面もある」ということだ……が、筆者の目には人がよすぎるのは佐々木と工藤のほうに思えてしょうがない。