シャープ 元副社長 
佐々木 正 

1915年、島根県生まれ。京都帝国大学卒。64年早川電気工業(現・シャープ)転籍。専務、副社長歴任。写真右は孫氏のアイデアが採用された79年発売のシャープ製翻訳機「IQ-3000」。

77年の夏、孫が20歳、佐々木が62歳のころ。起業を志す孫青年は、大学の仲間や教授を誘い、開発・製作した「音声付き電子翻訳機」を(本物の)風呂敷に包み、佐々木が所長をしていた奈良県天理市のシャープ中央研究所に持参したのである。狙いは、売れたら報酬を支払うという契約をした仲間のために、メーカーとの契約を勝ち取ることだった。

「これは大したものだ。研究費を出しましょう」

電子翻訳機のサンプルを見せながらの孫の説明を聞き、佐々木は即決した。研究費は最初の英語版が2000万円。その後の数カ国版を含め、孫は合計約1億円の資金を得た。その結果、報酬支払いに加え、のちのソフトバンク設立の原資を手にしたのである。佐々木にとって孫は孫の世代。どう映ったのだろうか。

「当時はまだパソコンができたばかり。カリフォルニアはシリコンバレーも近く、彼はあたりの半導体工場の担当者に話を聞きにいったり、同好会の仲間と議論したりしていたようでした。商品のクオリティの高さにも驚きましたが、ただ者ではないと感じたのは、じっと1点を見つめるその目の力。技術者としての第六感のようなもので、彼を本物だと確信した」

テクノロジー界の巨人をして、本物と言わしめた孫青年。大学卒業後に帰国し、いよいよ国内初のパソコンソフト流通業の日本ソフトバンクを設立した。だが、ほどなく運転資金が底をつき、会社存続の危機に陥るのである。