賭けは、2021年9月から約2年間で1万9000回――。米司法当局は、大谷翔平選手のお金をだましとったとされる元通訳の水原一平容疑者が陥ったギャンブル(賭博)依存の異常な実態を明らかにした。ギャンブル依存を含め依存症は脳の機能不全の病気だと言われる。ジャーナリストの浅井秀樹さんは「専門家に取材すると、現代では子供も大人もアルコールやゲーム、ネット、薬などさまざまな依存症にかかるリスクがあると話している」という――。
練習の合間にドジャースの大谷翔平(手前)と言葉を交わす水原一平通訳=2024年3月3日、アメリカ・アリゾナ州グレンデール
写真=時事通信フォト
練習の合間にドジャースの大谷翔平(手前)と言葉を交わす水原一平通訳=2024年3月3日、アメリカ・アリゾナ州グレンデール

大谷翔平のお金を約2年間で1万9000回の賭けに投じた

米国では大リーグの大谷翔平選手から、元通訳の水原一平容疑者が巨額のお金をだましとったと、銀行詐欺容疑で訴追された。米司法当局は、水原容疑者が陥ったギャンブル(賭博)依存の異常な実態を明らかにした。ひとごとのようにもみえるが、専門家は、一般人がギャンブル依存に転落するきっかけは身近になっているという。

米当局によると、水原容疑者はスポーツ賭博を繰り返し、大谷選手の預金口座から送金していた。賭けは2021年9月から約2年で1万9000回(1日平均25回)に及んだ。賞金総額約1億4000万ドル(約218億円)に対し、負けが約1億8000万ドル(約280億円)に膨らんだ。ここまで賭けに溺れると、一般人からは異常にみえて、理解しにくい。

ギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表は次のように話す。

「いまはオンラインでギャンブルをできる時代です。若い子はスマホなどで登録するのにストレスを感じず、四六時中でもギャンブルができます。昔は依存症になるまでに10年くらいかかることもありましたが、いまはあっという間になってしまいます」

何かに依存し、「正常」とみなされる範囲を逸脱すると「心の病」になる。その境界線は人により違い、一律でない。依存症にはギャンブルやアルコール、ゲームやネット、薬物など、さまざまなものがある。

たとえば、お酒が好きで、アルコールを飲むことでストレスを発散する人は少なくない。アルコールに依存していても、生活に支障がなければ依存症とは呼ばない。

ギャンブルで1億円の負けとなっても、数千億円の資産がある大富豪ならポケットマネーで処理できる。一方、10万円の負けでも、お金がなくて借金をして返せなくなる人もいれば、人のお金に手を出して犯罪になる人もいる。

あるいはゲームにはまり、毎日数時間ものめり込んで、学業や仕事がおろそかになる人もいれば、悠々自適の生活で何の問題も生じない人もいる。

依存症の診断は自ら制御ができなくなり、社会生活の障害が起きているか、社会通念からどれだけ逸脱しているかで判断される。

ギャンブル依存の心理状態について、田中さんは自らの経験に基づき次のように話す。

「ギャンブル依存症の人は仕事を終えて暇になったとき、たとえば夜中や土日に、ギャンブルをやらずにはいられないという衝動にかられます。本能が欲に支配されて、誤作動しているのです。やめたいけれども、やらずにはいられない。食費もなく、食事もできなくなり、借金を繰り返しているので、本人も楽しんでいるわけがありません」