宇宙の構造は平均化すれば「ほぼ一様」

さらにここ100年の劇的な物理科学の進歩は、宇宙が膨張していることや、どこまで行っても変わることなく同じ構造が繰り返され、観測的にはほぼ一様であることを明らかにしています。

この「構造が観測的に一様」というのは、宇宙を大雑把に見たときの話です。もちろん、星がたくさん集まっている銀河の中の物質の密度は総じて周りより高いですし、銀河と銀河の間にはほとんど何もないので、そっちの密度はぐっと低くなります。しかし宇宙はバカでかいですから、グーッと引いた遠目で見ればそういった細かな密度の違いはならされてしまいます。

この意味で、宇宙の全体の形とか、全般的な性質とか、その歴史などについて論じる場合には、「平均化すればどこでもほぼ同じ」、つまり一様であると言っても差し支えがないのです(図表1)。

科学者がマルチバースを議論し始めた理由

また、このように観測的に確認された宇宙はどこでも同じ法則に従って動いているように見えます。例えば、私たちの周りの物質はみな原子核や、その周りに存在する電子などからできていますが、これはアンドロメダ銀河(地球から約250万光年の距離に位置する肉眼で見えるもっとも遠い天体)や、それよりもっと遠い領域でも同じです。また、これらの原子核や電子の性質、たとえば質量なども、この一様な宇宙のどこでも同じなのです。

いずれにしてもこれが、ここ100年くらいのサイエンスが作り上げてきた宇宙の描像です。言い換えるならこれが「我々が宇宙と呼んでいる領域」です。

ところが、宇宙についていろいろなことがわかってくるにつれ、ここまで見てきた構造がすべてだとしてしまうと、どうもしっくりこないというか、うまく説明できないことが出てきました。

そうした経緯があって「我々が宇宙と呼んでいる領域」、もっと言えば、「我々が全宇宙だと思っていた領域」以外にも世界はあるのではないか、つまり別の宇宙ともいうべき領域があるのではないかというマルチバース宇宙論が、サイエンスの世界で真剣に議論され始めることになったのです。